◆ 402 HbA1cについて

 ●HbA1cとは?                                                                                                           正常値 4.3 - 5.8 %

糖尿病患者のコントロールの指標として、一点のみの血糖値の測定は適当と言えません。一方、HbA1cは、過去1カ月間の血糖コントロール状態を反映する指標として広く活用されています。
HbA1cの理解のため、たとえ話で説明します(図1)。血中にはヘモグロビン(Hb)を持つ「赤血球」や「糖」が流れており、両者はくっつく(結合)傾向があります。通常、「赤血球」100個の中で、結合タイプは5個ほどですが、高血糖になって「糖」が多くなると、6-10個になるというわけです。
生化学的には、ブドウ糖は血中のタンパク質と非酵素的に結合して糖化蛋白を作ります。HbA1は、ヘモグロビン(Hb)に、ブドウ糖を主とする単糖類が非酵素的に結合したもの(glycatedHb)です。
HbA1cはブドウ糖以外の6単糖や、そのリン酸塩が結合したものも含みます。この中でブドウ糖がHbのβ鎖末端のバリンに結合したものがHbA1cで、ケトアミン型が安定型HbA1cです(図2、3)。
HbA1cの生産量は、Hbの寿命と血中のブドウ糖濃度に依存します。赤血球の寿命は通常120日であり、HbA1cは過去1-2カ月の血糖レベル、特に過去1カ月の血糖レベルを反映しています。

 ●異常値を示す場合

平成11年5月からの糖尿病の診断基準では、HbA1c値が6.5%以上であれば、1回だけの検査でも糖尿病と診断できることになりました。なお、正常値は4.3 - 5.8%です。
高血糖を示す病態では、HbA1cは高値を示します。現在、糖尿病の血糖コントロールのため、血糖値よりも重要な指標として臨床的に広く用いられています。
米国の大規模な研究(DCCT)によると、厳格な血糖コントロールを目指したグループ(HbA1c値は平均7%)は、通常のグループ(8.0-9.5%)に比して、網膜症や腎症などの悪化が半減しました。
従って、糖尿病特有の細小血管症の発生・進展を防ぐには、HbA1cを7%以下に保つことが大切です。

 ●他の検査との関わり

糖尿病の診断には、まず、空腹時血糖や随時血糖の値が重要となります。また、糖尿病かどうかがはっきりしないときは、糖負荷試験を行います。
糖尿病の原因として、インスリンの分泌不全とインスリン抵抗性の存在が言われています。後者では、空腹時の血中インスリン濃度(IRI)が高くなるとされます。
外来患者の中には、受診前の短期間だけ食事や運動を励行し、検査時の血糖値だけを良好にする偽優等生がいます。このような患者の教育には、HbA1c測定は役にたちます。
最近、抗HbA1c抗体を用いて、6分で結果がでる簡易測定法も開発されています(DCA2000: バイエルメディカル) 。今後、臨床応用が広がることでしょう。

 ●高値を示す場合 低値を示す場合 

HbA1cはブドウ糖がHbと結合して生じるので、血糖が高いほど、その期間が長いほど、HbA1c値は上昇します。その大部分は、糖尿病です。
内分泌の疾患によって、糖尿病をきたすことがあり、二次性糖尿病と呼ばれます。先端巨大症、クッシング症候群、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などがあります。
低値を示すのは、インスリノーマなどで低血糖が続いた場合などがあります。ほかには、HbA1cの生成はHbと関係しているので、溶血などによりHbに何らかの異常がある時にも、低値を示します。

 ●異常値になるしくみ

通常、HbA1cが高値を示すのは、持続性の高血糖状態です。
HbA1cの測定では、ブドウ糖以外のさまざまな物質がHbに結合することがあります。例えば、家族制高HbF血症、骨髄異形成症候群(MDS)、再生不良性貧血、尿毒症、アスピリンやアスコルビン酸の大量摂取、アルコール多飲などで、高値を示すことがあります。
逆に、溶血性貧血、鉄欠乏性貧血、腎性貧血などの赤血球寿命の短縮を伴う病態や、肝硬変では実際の値よりも低くなるので、注意が必要です。

 ●看護に役立つ知識

従来、HbA1c値は、安定型および不安定型を含めた測定が行われ、本邦では施設間の基準値が異なっていました。
そこで、日本糖尿病学会では、グリコヘモグロビンの標準化に関する委員会が審議し、今後は、安定型HbA1cのみを測定し、その基準値は4.3-5.8%に統一していきます(図3)。
血糖検査の検体は、全血、血清、血漿などの場合があります。しかし、HbA1cはHbを含む赤血球を検査するので、当然、全血でなくてはなりません。
施設によって、血糖、インスリン、HbA1cの測定によって、使用するスピッツが異なる場合がありますので、あらかじめ、確認しておきましょう。
血糖値は、空腹時、食前、食後、随時など、採血する時間によって結果は大きく異なりますが、HbA1cはいずれの時間帯に採血しても大きな変化がないので、便利です。

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