◆ 334・音楽と食事、休養について
1  食事と音楽
 
 1日の生活のリズムやハーモニーは、主に食事がきっかけとなり、タイミングが計られている。1日の生活に音楽を取り入れてみたらいかがだろうか(表1)。
 「早起きは三文の得」と言われ、早寝早起きは健康に良い。毎朝気持ちよく起きられる人は、バロック音楽、せせらぎの自然の音などが流れるように,タイムスイッチをセットしておくのも一案だ.逆に、起床が苦手な人にはブザーや電子音を発する目覚まし時計がよい。これらの音の波形を分析すると、自然界にあるサインウェーブではなく、鋸型や矩型の電子的な波である。人の気持をイライラさせ,神経を逆なでさせる性質があるから効果がある。
 朝食は英語でbreakfastと言い、断食(fast)を絶つ(break)という意味である。近年増加している朝食を抜く人は、肥満や生活習慣病になりやすい。空腹時間が長くなると、インスリンの分泌や身体の防衛反応のため、脂肪をためこみ太りやすくなるためである。
 3回の食事で最も大切なのは朝食である。摂取量の理想的な配分(熱量比)は、朝40%,昼35%,夕25%であるという。朝に多く食べ、夕食は午後6-7時までに少量摂取すれば、生活習慣病になりにくい.皮下脂肪を燃焼させ、筋肉量を増やすボディビルダーの食生活パターンにも近い。最近注目されている低インスリンダイエット法の理論にも共通している部分がある。
 朝は仕事に行く準備のため、テレビに表示される時刻に追われ、急いで朝食を済ます人が多い.しかし,週末などには、爽やかなBGMや小川のせせらぎ,鳥のさえずりに包まれて,ゆっくりと朝食を楽しむのも薦められる。
 昼間、気持ちよく仕事が進むようにイージーリスニング系の曲を流す職場が多い。昼食後にテラスで紅茶を啜りながら美しい庭園を眺めるような機会があれば、サティの音楽に包まれてリラックスしてはいかがだろうか。
 夕食は早い時間帯がよい.遅い夕食は生活習慣病を増やす。「コレステロールは夜作られる」と言われるように,高脂血症になりやすい.夕食時のBGMを選ぶなら,ロック音楽のような刺激的なものより,心と身体の疲れが癒せるように,モーツァルトなどの1/fゆらぎを有する音楽が推奨される.
 食事や音楽、芸術などは、すべて文化に含まれる。日本では世界中のグルメが堪能できるが、各スポットで出会えるぴったりの音楽や雰囲気作り。いろんな機会に様々な場所で外食を楽しんでみよう。一般的に、ホテルのレストランに流れているBGMは、大多数の人にとって耳障りにならず心地よいと感じられる。バッハやモーツァルト、軽音楽などが多用され、参考にするとよい。
 もしこのようなTPOで、直接的に感情表現ができる歌詞があったり、不協和音が多い現代音楽であったり、恨みの演歌で呻ったり、エレキベースの音色が主体であるなら、どのように感じるだろうか。刺激が強すぎる音楽では、交感神経が刺激されて優位となり、相対的に副交感神経の働きが押さえられる。その結果、胃酸の分泌や消化吸収機能が悪くなり、食事の際の音楽には適さない。

2 休養と音楽
 厚生省は,以前に、健康の3本柱が運動・栄養・休養であり、休養のキャッチフレーズを「早めに気付こう,自分のストレスに」「ゆとりの中に楽しみや生き甲斐を」と発表した。体と心の休養やストレス解消に対して、音楽を上手に活用することができる。
 音楽は「音が楽しい」と書く。礼記巻19楽記には「凡そ音の起こるは人心に由りて生ずる也」とあり、宇宙論的、道徳的な音楽観がある。
 音楽という言葉は本邦でも古くから使われていた。平安時代、藤原道長は「東遊(あずまあそび)を停止して、音楽を演奏する」と日記に記している。この音楽とは、雅楽のことを意味していた。明治時代となり、音楽取調掛(現・東京芸術大学音楽学部)が発足した後、ミュージックやムジークが公的に「音楽」と訳され、世の中に広まったわけである。その後、それまで音楽とされていたものは雅楽と表されるようになった。
 心と身体の学問については、従来から行動医学(behavioural science)という専門分野が米国にあった。本邦では、歴史的にプライマリ・ケア医学とメンタルヘルスがあったが、上記3者の領域をおおよそカバーする「心療内科」が平成8年に標榜科として認められた。
 心療内科領域では、患者(クライエント)がボディソニックなどを用いて、音楽を聴くことが多い。これは受容的音楽療法で、一方、歌を唄ったり楽器を演奏したりすることで治療効果をあげる方法を、能動的音楽療法という。 
 音楽療法は、疾患に対する補助的治療や疾患のケアとリハビリテーション、予防医学として、医療の領域で応用されている。高血圧や低血圧患者では血圧が安定したり、透析患者では心が和み透析が短く感じられ、内視鏡検査や気管支造影などでは苦痛や恐怖心が軽減され、ホスピスなどでは、鎮痛効果が明らかにされたりしている。
 また、健常者を対象に音楽健康法としても活用されている。
音楽健康法の選曲の際に参考となる項目を示す。
・真の名曲を選ぶ
・名曲の本来の美しさを保持した名演奏を選ぶ
・安易な編曲ではなくオリジナルの形の演奏を選ぶ
・広くいろいろなジャンルをの音楽を選ぶ
・聴く時の状況を考慮し音楽的・心理学的に配慮する
 人は、楽しい時には快活な音楽を、淋しく悲しい時には静かで美しい音楽を欲するものである。これが「同質の原理」。同様のことは、古くアリストテレスも述べている。心の状態と同様に振る舞うことが心のカタルシス(浄化)につながるという。例えば、ラブストーリーの映画で悲しい結末におおいに涙を流しても、映画館から出てきたら、心がすっきりしたような経験はないだろうか。
 カラオケは日本が生み世界に誇れる音楽療法の一つである。ストレスを発散し,明日への活力を得るのに最適だ.「同質の原理」により、人は嬉しい時には楽しい音楽を、悲しい時には心に染み入る美しい音楽を欲する.日常のうっぷんを晴らすため,カラオケの曲順は,まず恨歌から,次に艶歌,最後は演歌を、と筆者はお奨めしている。

表1 推奨される音楽の例
●目覚めの時
 バッハ 前奏曲とフーガ第1番 BWV 846
 ヘンデル ハープ協奏曲変ロ長調 op4-6
 シューベルト 楽興の時 op94-3
 ブラームス ワルツ15番 op39-15
 ドビュッシー 二つのアラベスク第1番
 八橋検校 箏曲「六段」
●食事の時
 バッハ「羊は安らかに草をはみ」BWV208
 モーツァルト 「トルコ行進曲」K. 331
 ベートーベン 交響曲第6番「田園」
 サン=サーンス 動物の謝肉祭から「白鳥」
 ドビュッシー 「亜麻色の髪の乙女」
 雅楽「越天楽」
●自由な時間
 ハイドン 交響曲第101番「時計」
 シューマン 「子供の情景」
 ショパン ワルツ第6番「子犬のワルツ」
 ヨハン・シュトラウス「美しき青きドナウ」
 チャイコフスキー 「くるみ割り人形」 
 杵屋六三郎 長唄「勧進帳」
●眠りにつく時
 バッハ「主よ, 人の望みの喜びよ」BWV147
 フォーレ 「ああ、イエスよ」op48-4
 ドビュッシー 「月の光」
 サティ 「グノシェンヌ 第4番」
 タレガ 「アルハンブラの思い出」
 山田耕筰 「中国地方の子守歌」

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