◆ 331・音楽療法と心理学No.1

板東 浩 徳島大学大学院 生体情報内科学   
天保英明 弘前大学医学部 神経精神医学教室
松本晴子 東京学芸大学大学院 教育学研究科

はじめに
 音楽が心身に与える影響については、古くから多くの記述がある。音楽療法は代替療法のひとつでもあり、筆者らはさまざまな切り口で、音楽療法について概説してきた。今回のシリーズでは、心理学的な見地から音楽療法について概説し、今後の医療に参考となったり、有用な情報となれば、幸いである。

1)あなたの心に住む5人の住人
 人の自我の中には、5つの因子が含まれている。社会生活や家庭において、TPOに応じて、5つの内で適切な因子が表出してきて、人とコミュニケーションすることになる。
 それでは、あなたは内科医と仮定する。携帯電話は利用できず、待ち合わせをした相手が30分ほど遅れてきたときの状況を設定する。あなたは最初に、どのような言葉を相手にかけるだろうか、について考えてみよう。具体例を示そう。
 1)あなたの子供から頼まれたため、無理をしてスケジュールを変えたのに、30分も待たされた場合。あなたは相当に腹をたてている状況である。あなたは、「何をしているんだ」「時間を守れないような人間はダメだ」と雷を落とすかもしれない。厳格な父親を演じるであろう。これが批判的な親(Critical Parent, CP)である。
 2)あなたは片麻痺の入院患者を担当している。外来中にその患者から、「急ぐことがあって話をしたいので、今から病棟から外来まで歩いて降りていきます」と連絡があったのに、30分も待たされた。やっと患者が到着した。あなたは心配になり、「どうしたのですか、どこかで転倒か何かがあったのですか」と言葉をかけるだろう。これが養育的な親(Nurturing Parent, NP)である。
 3)いつも約束の時間の5分前には来て待っている製薬会社の担当者が、なぜか今日は、30分も遅れている。「どうしたの。なぜ、遅れたのだろう。車や列車など交通機関が原因か、急ぎの会社の仕事か、連絡できない状況か、日時の誤りか、どこかの教授からの急用が入ったのだろうか」などと、コンピュータのように、可能性がある原因を冷静に考えるものと思われる。これが大人(Adult, A)である。
 4)20年来の友だち数人の飲み会で、一人が30分遅れてきた。すでに飲み食いは始めている状況である。「遅かったな、これだけ遅れてきたので、今日はすべて君のおごりだぞ。それでいいよな」と無邪気に言えるだろう。これが自由な子供(Free Child, FC)である。
 5)あなたは、教授と一緒に出張のため、駅前の喫茶店で待っている。列車には間にあうが、30分教授が遅れてきた。あなたは、相手が教授であるゆえに、「実は、私の方が時間の思い違いをしているのかもしれないと焦っておりました」と言って、相手に気を使った対応をするであろう。これが順応した子供(Adapted Child, AC)である。
 以上のように、あなたの心の中には、5人の住人、5人の自我、5つのエゴがいつも存在していて、TPO(time, place, occasion)に応じて、いずれかが顔を出してくるのである。
 ほかの状況として、大学入試に落ちた学生に声をかける場合を設定してみよう。あなたの心の中に住んでいる、それぞれ5人の住人から、しゃべってみてみよう。

2)交流分析
 本稿では通常と異なり、具体的な例から話を始めた。それでは総論的な内容から、順に述べていきたいと思う。 
 1950年代に、米国の精神科医であったエリック・バーンが交流分析 (Transactional Analysis, TA)の考え方を唱えた。人間は相互にコミュニケーションを通じて交流している。スムーズにいくときもあれば、問題が生じることもある。TAは精神分析の口語版とされている。特徴として、従来の精神科領域の記述に比べて、理解が容易であるからだ。誰にもわかりやすい自己分析の方法として、最近注目されてきている。
 日本へのTAの導入は、医学界では九州大学の池見、杉田らにより、心理学領域では南、深沢らによってなされた。現在、TAに関する研究会がセミナーを行うなど、広がりをみせている。他の領域では、教育関係や経済界、実業界でも活用されつつあり、会社における人間関係の改善や啓発活動にも関わって、現在、展開がみられている。
 TAは、4つの基礎理論と3つの理論背景によって構成される。下記にその概要を列挙する。
 基礎理論には、
 1)構造分析 structural analysis 人々の心のしくみや有り様を分析するもの。
 2)交流パターン分析 Transactional AnalysisTA 基本となる交流分析。
 3)ゲーム分析 game analysis 人間の交流でトラブルになる人間関係をゲームと呼ぶ。
 4)脚本分析 script analysis 人生は1つのドラマで、シナリオは若年時代に形成される。
 理論背景には、
 1)ストローク 人と人との心のふれあいは、ストロークと呼ばれる。
 2)時間の構造化 1日の時間をどのように過ごしているかの分析を、時間の構造化と呼ぶ。
 3)基本的構え 自分と他人との関係は幼少期の親子関係でに決定され、自分と相手を認めるか否かにより、4つに大別される。
 TAとは、あくまでも自己分析が目的である。これらの理論や実践方法を学ぶことで、自己啓発や自己実現に役立てることができる。

3)自我分析
 TAを提唱したバーンらは、人格を構成している自我の状態を、
1)親  Parent (P)、2)大人 Adult (A)、3)子供 Child (C)の3つに分けて考えた。
 これは、精神分析学の範疇において、Pは越自我、Aは自我、Cはイドに対応している。ただし、行動医学の範疇にある交流分析では、より簡素で理解しやすい利点がある。
 自分と他人がコミュニケーションをしている応答を、交流分析の手法で少し考えてみると、自分の自我がよくわかる。すなわち、自分の自我の中で、PACのいずれの部分が、相手のPACのいずれと交流しているのかを把握できる。それは、自分を知ることになる。カウンセリングを通して、自己分析をすることができる。

 なお、Parent(P)の要素は、父親的で批判的な親(Critical parent)と、母親的で養育的な親(Nurturing Parent)に分けて考える。Adult(A)はそのままである。Child(C)は、天真爛漫な性格の自由な子供(free child)
と、相手の顔色を伺うことができる順応した子供(Adapted Child)の2つに分けられる。
 以上の5つの尺度を下記に示し、これらを総合的に判断するのがエゴグラムである。下記に5つのエゴを示す。
 1) 批判的な親(Critical Parent, CP)父親の言動のように、理想、良心、責任、批判などの、価値判断や倫理観など厳しい部分を主とするものである。創造性を抑えて、懲罰的で厳しい面が多いが、社会秩序の維持の能力や、理想追求などの肯定的な面もある。
 2) 養育的な親(Nurturing Parent, NP)母親の言動のように、共感、思いやり、保護、受容などの子供の成長を促進するような母性愛に基づくような部分をいう。他人を受け入れ、相手の話に耳を傾け、親身になって世話をし、親切な言葉をかけて、相手を気持ち良くさせる。同情的で愛情が深く、ほめ言葉が多い。相手に幸福感、満足感を与える陽性のストロークが多い。
 3) 大人(Adult, A)コンピュータがデータを処理するように、事実に基づいて物事を判断しようとする冷静な部分である。Aが優勢にはたらいている時は、Pの偏見、Cの感情がコントロールされる。Aが優位な人は、ビジネスライクに割りきり、合理主義者である。米国におけるビジネスマンでは、Aが高いのが優秀という判断に
なる。過度に高くなると情緒の欠如、無味乾燥なコンピュータ人間とされる可能性がある。
 4) 自由な子供(Free Child, FC)Cの因子とは、本来、人間が有しているもので、本能的な欲求や感情などが関わってくる。自由なCとは、親の影響をまったく受けていないもので、快感を求めて、天真爛漫に振る舞う。直感的な感覚や、創造性の源であり、豊かな表現力は周囲に暖かさや明るさなどを与える。よく笑ったり、泣いたりして、大騒ぎをする人はFCが高い。FCが高すぎると、自己中心でわがままになる傾向がある。
 5) 順応した子供(Adapted Child, AC)FCは人間の本能的な部分に関わっている。一方、ACとは、母親や周囲の人々の愛情を失わないように、こどもなりに状況に順応して世を渡ることができる部分をあらわす。親や人々の期待にそうように、周囲に気兼ねをして、自由な感情を抑えることができる「いいこちゃん」である。大人でこの部分が強すぎる場合あ、主体性が欠如し、周囲に迎合するものとなる。

 4)育ちで考え方が決まる
現在、あなたが考えたり、判断したり、行ったりときに、どのように考えているのか(the way of thinking)。そして、それはどのように形作られたのだろう。これは幼少の頃からの育ちや環境が大きく影響してくる。子供のころのさまざまなTPOの際に、父親あるいは母親からの言葉や行動のメッセージがあなたの中に自然と取り込まれている。現在、あなたがある特定のTPOに遭遇した場合、両親の言動と似た言動をしていないだろうか。両親があなたに接したように、あなたは子供に接することはないだろうか。おそらく、無意識に、同じような身振り、手振り、言葉使い、話し方などをしていることがあると思われる。
 幼少期の親子関係によって決定されると考えているのが、基本的構えである。これは、自分を認めるか、相手を認めるかという問題につながってくる。基本的構えについては、下記の4パターンに大別できる。
 1)I am OK, you are OK。自他ともに認めており、これが理想のパターンである。
 2)I am OK, you are not OK.自分勝手で相手の状況を考慮せず、うまくいかない。
 3)I am not OK, you are OK. 相手のいいなりになって、自分の意見を出せない。
 4)I am not OK, you are not OK.この場合、自分探しの旅もまだ途中で自分というものがわからない段階である。また、相手の要求や気持ちも理解できず、人と人とのコミュニケーションがうまくいかない状況と考えられる。
 この中では、1)のI am OK, you are OKという自分も他人も認めることができるのが当然よい。このような関係であれば、お互いの言い分が理解できうまく調整して、コミュニケーションがうまくいく。そして、二人の関係はスムーズにやっていくことになろう。

 5)東大式エゴグラム(TEG)
以上に述べた5つの因子をうまく統合させてエゴグラムにしたのが、本邦では簡便で客観性が高い東大式エゴグラム(TEG)である。
 TEGの記入表は60個の短い質問で答えるもので、5分ほどで、記入ができる(図1)。そして、その解析も簡単で、はいは2点、どちらともいえないは1点、いいえは0点で、5分ほどですみやかに計算ができる。その結果を折れ線グラフで示して、そのパターンがいずれの型に近いかを考えて、判断する(図2)。
 この折れ線グラフのパターンについて、日本人の性格を考慮し、膨大な研究により、29のタイプに分けられている。たとえば、がんこおやじ、世話やき、コンピュータ、自由奔放、依存者タイプ、などとそれぞれに呼称がつけられている。この一覧と頻度の参考値を表1に示した。
 最近では、TEGを用いるエゴグラム分析に関する情報が普及してきた。これを用いて、幅広い人間関係をうまく改善していくことができ、また自分の行動を反省するとともに、訓練をすることもできる。
 なお、インターネットでも公開されており、誰もがアクセスすることができるが、その判断はあくまで参考であり、その人の性格が○○型と決めてしまうものでもない。
 この動向について、若干、注意しなくてはいけないことがある。新しく会社に入ってきた社員の性格を調べて、適材適所に配置するために使う、などということは決してあってはならない。ある人のその時点における性格として参考になるだけである。家庭や職場、人間関係の様々なコミュニケーションを通じて、数ヶ月単位で、大きく変化しうるものであるので、使い方には注意が必要である。

 6)医療や音楽とTEG
医療の場では、患者がしばしば看護婦に様々なことを訴えてくる。エゴグラムの知識があれば、今ここにいる患者は、5つのいずれの因子の切り口で訴えているかがわかり、医療者サイドは、いずれの因子で対応すれば、納得させ協力が得られかがわかる。相手や状況に応じて、こちらの返事を数パターン用意しておけば、困ることは少ない。
 また、音楽に関わる人々について、TEGのデータを調査研究したものがある。一般人と比較して、FCの値が高い傾向がみられる。天真爛漫の自由な気持ちが、芸術である音楽に必要であり、逆に、音楽に携わっていると、FCが高くなってくるとも考えられる。
 医療の現場における対応や、音楽とTEGとの関わりなどの詳細については、本シリーズの次回に触れる予定である。

図1、図2は割愛 

表1 日本人におけるTEGパターンの参考値 (等幅フォント推奨)

TEGパターン 呼 称    参考値

                                            (%)

             
優位型 CP優位   がんこおやじ   3.4

      NP "         世話やき     7.7
      A  "         コンピュータ   8.1

    FC "      自由奔放     6.8
    AC "      依存者      6.1

低位型 CP低位   ルーズ      2.1
    NP "      癇癪もち     2.8
    A "      白日夢      4.8
    FC "      忍の一字     4.7

      AC "         管理者      3.1

台形型 NP・A・FC優位   マイホーム    3.5

      NP・A    "      ボランティア   1.2

      A・FC "   自己中心     1.8
U型    NP・A・FC低位   葛藤       2.6
      NP・A "   爆発       1.1

      A ・FC   "      いじけ      1.1

N型    NP優位・A低位  お人よし     4.1

      NP "  ・FC "      おふくろ     4.1
      A  "  ・FC "      ワーカホリック  1.8

逆N型 NP優位・A低位  孤高の人     4.0

      NP "  ・FC "      プレイボーイ   3.2

    A " ・FC "   思い込み     1.9

M型         がき大将     5.5
W型         厭世       3.3
平坦型 高値      モーレツ     1.4

      中間値      凡人       7.4

      低値      引きこもり    0.3
P優位      干渉       0.9
C優位      気まま      1.1

                  

合計                    100.0

powered by Quick Homepage Maker 4.91
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM