◆ 330・全人的医療の音楽セラピーを
プライマリ・ケア医学の視点から全人的に患者を見る音楽セラピーを提唱

日本音楽療法学会評議員  
徳島大学大学院生体情報内科学 板東 浩氏

 先日、米国の音楽療法の現状がNHK教育TVで放映された。その中で、身体だけでなく患者自身を全人的な観点から、音楽を用いて行うケアが興味深く紹介されていた。音楽療法を単に「治療」として捉えるのでなく、
「治癒能力の活性」をはかりケアやキュア効果を高めるもの、という捉え方をしていたことが注目される。
 今回は、昨年の音楽療法の概説に引き続き、学会や音楽療法を巡るその後の動向についてお話する。

●音楽療法へのうねりと日本音楽療法学会
 昨年3月には、日本バイオミュージック学会関係者が厚生労働省を訪問し、音楽療法の重要性を訴え、4月には同学会と臨床音楽療法協会とが合併して日本音楽療法学会が発足した。全国紙の一面トップに「音楽療法士の国家資格への動きへ」という記事も掲載されるなど盛り上がりを見せたが、政治の混迷、世界的テロなどの諸問題もあり、展開はゆるやかとなっている。
 本邦の医療の発展に貢献してきた聖ロカ国際病院の日野原重明医師は、日本音楽療法学会理事長を務める。同学会は、音楽療法士の国家資格化を国に働きかけるとともに、支部づくりや様々な委員会活動などを行っている。各地で開催される学会認定の研修会やワークショップが次第に増加している。

●音楽療法士
 本学会が認定した音楽療法士は、現在までに578名に至り、全国各地で活躍している。
 また、平成14年3月には、音楽大学に設置されている音楽療法コースからの卒業生が社会に巣立ち、今後の活動が期待されている。今後、学会と音大関係者との間で、音楽療法に関する制度や呼称などの調整が必要であろうと思われる。

●医療福祉の現場からの声
 制度面という議論ではなく、全国の医療福祉の現場からの声が届いている。音楽療法とは、音楽技術の高さや表現の優劣を競うというものではない。「患者のニーズに対応しようとする姿勢が重要である」との意見が少なくない。先日のテレビ番組では、日野原氏により人間相互の心の触れ合いの重要性が強調されていた。
 具体的には、クライアントの状況や気持ちを考慮せず、難解なピアノ曲を演奏したり、なじみのないオペラ曲を歌唱したりする事例がある。弱者に対する優しい心配りや声かけなど、ヒューマニティ溢れる資質も望まれている。

●音楽療法実践と評価
 介護保険制度が次第に根づいてきている。医療における音楽療法というよりも、むしろデイケアや介護の枠組みにおける音楽の活用事例が増加してきているようだ。
 音楽療法とは単なるリクレーションではない。単にセッションが楽しければよいのでは、不十分である。スタッフが患者を長期に観察して評価し、ケアやキュアを行うように、適切なものさしでの評価が必要である。
 近年、医学の領域では、証拠に基づく医療(Evidence-based Medicine, EBM)という考え方が知られている。音楽療法でも同様に、「音楽で元気になったようだ」という主観的なものより、客観的な評価が重要だ。
 評価法の一案として、筆者らが提唱している音楽介護評価表がある。図1のように、QOL(生活の質)やADL(日常生活動作)など20項目を5段階で評価する。音楽療法の実践に沿ってクライアントの変化を評価し、経過観察していく。音楽療法士と担当職員が一緒に議論すれば、さらに効果があがる。

●音楽療法の今後の展開
 日野原重明氏が、学術総会で提唱したキーワードに、「プライマリ・ケア・ミュージック・セラピー(primary care music therapy)」がある。臓器ではなく患者という人間を全人的に診るのがプライマリ・ケア医学の視点。音楽療法においても同様に、専門技法よりも、まずその人間の基本的なニーズにきちんと応えられる総合的・基本的な人間観・愛情・想像力が重要である。なお、プライマリ・ケアの定義には、ACCCAが含まれる(表1)。

表1 プライマリ・ケアの定義 (米国科学アカデミー)
1)近接性 accessibility 
  サービスが身近で、いつでも得られる
2)継続性 continuity 
  同じスタッフに続けて長くみてもらえる
3)協調性 coordination 
  必要な時に、適切な機関に紹介してもらえる
4)包括性 comprehensiveness 
  心や身体の健康問題を広い視野で考えてくれる
5)責任性 accountability
  診療の質や内容が定期的に評価されている

図1 音楽療法における評価法の一案

    円グラフの図。詳細は割愛

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