◆ 321・音を揺らぎから科学する

 12月はクリスマスシーズン。街角はカラフルなイルミネーションで飾られ,リズミカルな音楽が流れる。オルゴールやウィンドチャイムの音がキラキラと心に響いてくる。
 さて,このように気持ちよく感じるのはなぜだろう?その音楽が,不協和音の多い現代音楽ならどうだろうか?その音色が,早朝にあなたを起こす目覚まし時計のブザーならいかがだろうか?今回は,音や音楽をやや専門的に解析してみたい。

● 音響学でみた音
 音は波動であり,空気中を1秒間に約340m進む。音の性質を分析するオシロスコープという器械がある。これで,音と波形を見てみよう。
 音叉をポーンと鳴らすと,波形はきれいなサインウェーブとなり,次第に減衰していく(図1)。オルゴールのカラムの突起が金属板をはじいたり,ギターの弦をつまびいたりする場合も同様である。これらの自然な音は,不思議と心を落ち着かせる。
 一方,電子音とは電気信号で作ったもの。一例として持続する矩形の波形を示す(図2)。ブザーやファミコン,携帯電話の着メロなどにも使われている音質だ。これには,人の心を刺激したり,苛立たせたりするような作用が認められている。

● 脈拍は揺らぐ
 あなたの右手で,左手首の動脈に触れてみよう。目を閉じて,注意深く脈の間隔を観察してみる。そのリズムは全く規則的でもなく,全く不規則でもない。息を吸うと速く,吐くと遅くなるのだ。このように,ほぼ一定のリズムに若干の変動が加わるのを,「ゆらぎ」と呼ぶ。

● ゆらぎ
 この宇宙の森羅万象,すべてに「ゆらぎ」がある。自然界では,うち寄せる波,風,潮の満ち引きなど。私たちのライルスタイルや,人と人との触れ合いも含まれる。言葉のキャッチボールでは,通常は予想される返事だが,時には予期しないお洒落な返答だったりする。ほぼ規則的な流れの中に,思いがけないアクセントやスパイスがあるから,人生とはおもしろい。

● 音楽のゆらぎ
 様々な現象や音楽のリズムの分析に[1/fゆらぎ理論]がある。fとはfrequency(振動), fluctuation(揺れ)の略で,以下の3型で概説しよう。
 全く不規則の世界がある。真夜中,テレビ番組終了後の画面は「砂あらし」。画像や音(ノイズ)は乱数表的であり,カオスの世界だ。これに近似しているのがロック音楽である。旋律や和音の規則性が少なく,次の予想ができない。解析すると1/f0と表される(図3)。
 次に全く規則的な世界がある。メトロノームや時報のリズムは全くゆらぎがなく,1/f2と表される(図3)。聴いているとだれもが単調に感じて眠たくなってくる。子守歌はこれに近似している。
 3番目は,適度なゆらぎを有するもの。自然界の現象や多くの生物,モーツァルトなどのクラシック音楽が相当する。曲の進行がほぼ予想されるが,ところどころに適度な変化や転調などがあるので,快く感じるのだ。解析すると1/f1となる。
 これらは,音楽を選択する場合にも若干参考となろう。高齢者の場合には規則性が高く,親しみがある音楽を選び上手に活用するとよい。

● 連載のまとめ
 以上4回にわたり,高齢者に対する音楽療法について述べた。音楽療法は単なるリクレーションではなく,理学療法と同様に医療という範疇の中で考えるもの。音楽療法士は,上手に歌ったり楽器演奏ができるよりも,クライエントの状態や気持を把握して愛情を持って対処する資質こそが重要だ(表1)。音楽というツールを用いて,より良いQOLやADL,豊かな人生を目指し,援助していきたい。

図1 自然音の滑らかな波形
図2 電子音の矩形の波形
図3 3種類のゆらぎのリズム

表1 高齢者への音楽療法の目標

身体;運動能力の維持、向上、不適応行動の減少
精神;長期記憶や回想への刺激、短期記憶や認知力の向上
心理;ストレス軽減とリラックス、自己尊厳の回復
対人;遊びや交流への援助、コミュニケーションの向上

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