◆ 320・音楽療法との出会い

 ベストセラーになった絵本「葉っぱのフレディ」。これが音楽劇「2001フレディ~いのちの旅」となり、この夏にブレイクした。葉っぱが生まれ、風になびき、小鳥と戯れる。周りの世界の恋や人生の悩みを見守りながら成長する物語。紅葉の季節になると、1枚、1枚と散って、朽ちてしまう。しかし、その生命は土となって、ふたたび新しい命を誕生させていく。命はめぐるのだ・・・。

 この音楽劇の話題で座が盛り上がる情景が、私の心に甦ってきた。昨年、岐阜市で行われた音楽療法の国際フォーラムのとき。脚本を書き下ろしたのは、聖路加国際病院の日野原重明先生である。舞台裏のいろいろなエピソードが興味深い。音楽のパワーによって、人々のハートに届けられる「命の尊厳」というメッセージ。素晴らしいステージが人々をそして世界を変えていく。テーブルを囲むのは、日本の音楽療法界をリードする先生方。医療、音楽、芸術、人間学など、お洒落な話に花開く。美味しいディナーでお腹がいっぱいになるとともに、心に大きな収穫を得て、私は嬉しさのあまり胸までいっぱいになった。

 小学生の頃、私は指揮者や音楽家として世界に羽ばたく夢をみていた。中学生のときは、即興演奏が得意で、作曲家・編曲家を目指したこともある。大好きな音楽の道に進むかどうか悩んだが、結局は医学の道を
選んだ。大学卒業後は、内科医として糖尿病や肥満などの生活習慣病を専攻し、多忙な生活を送っていた。しかし、ピアニストへの憧れは心の底にずっと持ち続けており、平成13年8月には、PTNAピアノコンペティ
ション全国決勝大会で奨励賞を頂くことができた。

 さて、私が音楽療法と出会ったのは、日野原先生から学会への入会を勧められたときであった。勉強していくにつれて、その広さと深さに驚かされる。平成11年には全国大会のお世話をさせて頂く栄誉まで賜わり、現在様々なお手伝いをさせて頂いている。

 いま話題の音楽療法とは、どのようなものだろうか。極めて平易に説明すると、「毎日の生活で、音楽をうまく使って、心もからだも元気になって健康になること」。かつて、直角三角形の定理を見つけたピタゴラスは、音楽家でもあった。ドレミの音階を数学的に発見し、心が落ちつく曲を作って弟子に聴かせていたという。一方、ギリシアの哲学者、アリストテレスは、「同質の原理」という考え方を唱えた。気分が落ち込んだ時には静かで美しい音楽を、嬉しい時には快活な音楽を聴くのがよいという。

 たとえば、落語に大笑いしたり、逆に、悲しいラブストーリの映画に涙したりすると、心が洗われて気持ちがさっぱりしたと感じることがある。これは心理学でカタルシスと呼ばれ、心が癒されるものだ。この原則を活用すれば、毎日がもっとハッピーになる。

 昨今、世界でも、日本でも、身の回りを見渡しても、あまりよいニュースがない。ブルーな気分になったら、世界に誇る日本の音楽文化「カラオケ」を試そう。最初は、あなたの心と同質と思われる曲、恨みの
恨歌からスタート。この唄があなたの気持ちを代弁してくれる。心が徐々に和んできたら、次は、色気たっぷりの艶歌で盛り上げよう。そして、最後には、明るい雰囲気の演歌で、身体を大きく揺すりながら、お腹の
底から声を出そう。すなわち、恨歌→艶歌→演歌と進むわけ。お開きの曲のお薦めは、現在リバイバルで流行している「明日があるさ」。みんなで一緒に歌うと、明日への活力もグングン湧いてこようというもの。

 ただし、音楽療法は遊びやレクレーションではなく、医療の一部に含まれている。理学療法やリハビリテーションでは、音楽の補助で、身体がスムーズに動くようになる。今後は、薬の代わりに音楽を使ったり、運動処方と同様に音楽処方が出るようになるだろう。

 それも、画一的なものではなく、その人にぴったりのテイラーメイド仕様。
近い将来、このように、心身が癒される時代の到来を待ちたい。

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