◆ 319・日本人の心を打つ音楽

 芸術の秋にふさわしい演劇「美空ひばり物語」が、全国ツアー中だ。ひばり役は浅茅陽子、母親に南田洋子、弟には国広富之という豪華キャスト。江利チエミと「三人娘」を結成していた雪村いづみ本人も、特別な想いでステージ上で歌って踊る。クライマックスの場面では、観客全員が「川の流れのように」を自然と口ずさみ、涙する人も多かった。ひばりの歌とは、中高年者にとってどんな意味があるのだろうか?

●高齢者が好きな歌手
 高齢者のなじみの歌について、日本バイオミュージック学会(現日本音楽療法学会)の研究がある。好きなジャンルは歌謡曲49%、唱歌・歌曲18%、童謡7%、民謡9%、クラシック3%。好まれる歌手は美空ひばり23%、北島三郎14%、千昌夫14%などであった。曲に対する感情について表1に示した。

●グループと個人
 音楽療法セッションは、通常グループのことが多い。経験豊かな音楽療法士は、過去の記憶を生き生きと思い出させる。また、相互の対話や非言語的コミュニケーション(笑顔、手を触れる、アイコンタクトなど)が喚起され広がっていく。
 個人セッションの場合もある。重要なポイントは、各自の好きな音楽を尊重すること。現在は、音楽療法士の数が十分ではないが、将来的には、各個人の性格や嗜好に応じた音楽療法が、テイラーメイド仕様で行われる時代が来るかもしれない。

●音楽+運動療法
 音楽療法には歌唱、楽器演奏、鑑賞に加えて、「運動」という4番目の要素が大切だ。一般に音楽療法と呼ばれるが、実際には音楽運動療法が望ましい。音楽に合わせて身体を動かす音楽体操、盆踊り、ダンス、ムービングなどがある。時にはスティックや打楽器で手足を動かし、布や紙テープ、風船なども使用できる。
 健康な高齢者では、無理をしない程度にリズムに合わせてステップを踏める。障害を有する患者では、音楽を補助器具の一つと考え、その日の調子に応じて機能訓練を続けるとよい。

●療法には評価が必要
 音楽療法には、運動能力、および認知能力とともに、触覚、視覚、聴覚などの感覚器官へ働きかけ、回想を引き起こす以上の反応を引き出す効果がある。 音楽療法は、単なるリクレーションとは異なる。クライエントの日常生活動作(ADL)や感覚、行動、生活の質(QOL)がどれくらい変化したのかを、チェックしていく必要がある。筆者らは、「音楽介護評価表」を提唱し、研究を継続している。

●生活に取り入れよう
 我々の生活には、至るところに音楽運動療法がみられる。散歩、カラオケ、盆踊り、舞踏など様々だ。音楽運動療法で身体が揺らぎ、筋肉が緊張と弛緩をリズミカルに繰り替えすと、身体が癒され心も癒される。
 ともすればひきこもりがちになる高齢者にとって、音楽活動は協調性や役割分担など、社会性を得む活動となる。つまり、音楽活動や体験を通じて生きる喜びや張り合いを持ち、QOLを高めることができる。音楽を適切なツールとして用いて豊かで充実した人生を目指してほしい。

表1 癒される曲に対する各種感情

       心がやすらぐ、美しい、心静か、落ちつく、やさしい、
       透明感、穏やか、心が癒される、心が洗われる、のどかさ

または 

表2 好きな歌に対する感情

郷愁          24%
明るい・元気・活発   23%
いい気持ち       11%
爽快感          5%
ゆったりしてのどか   2%
共感          2%

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