◆ 318・医学と音楽によるダイナミックな刺激

 音楽を聴いたり歌うと、安らぎや和みを感じたり、気持ちがよくなったりする。心が癒される、とも言える。それはなぜだろうか。また、現代は癒しの時代と言われ、ブームにもなっている。どのような時に、人は癒しを感じるのであろうか。今回は、音楽と癒しについて考えてみよう。

●芸術療法の癒し
 近年、本邦ではストレス病が増加中。そこで、様々なストレス解消法が紹介されている。その中で注目されているのが、芸術療法だ。たとえば、絵画、音楽、俳句、川柳、陶芸などが挙げられる。いずれも人の感情を表現する右脳を活性化し、心を癒す働きがある。運動療法と同じように、心にいい汗をかいて、すっきりとしたいものだ。
 この中に音楽療法も含まれており、心理療法、精神療法などとも関わりがある。音楽を用いる特徴により、他の療法と比較して、心と身体に対するダイナミックな刺激が期待される。

●楽しいアート
 医学は科学(サイエンス)の一つで、音楽は芸術(アート)のひとつである。この両者がバランスよく融合させると、良き医療となり、素晴らしい音楽療法へとつながる。
 ただし、音楽療法は、音楽のレベルが高いとか格調高いことが重要ではない。芸術よりも、むしろ、芸能や芸というファクターも大切。楽し
めるものでなければならない。
 ステージ上の演奏者なら、供給者の価値観・満足度が最も大切である。一方、音楽療法士は、あくまで、受給者(クライエント)が嗜好に合わせるという姿勢がポイントとなる。

●同質の原理
 数学者ピタゴラスは哲学者・音楽家であった。いつも心を平静に保てば、心のバランスが取れると述べた。東洋的で仏教的である。一方、哲学者アリストテレスは、「楽しいときには騒ぎ、悲しい時には泣き、心と同様に振る舞うとよい」と教えた。これは西洋的であると言える。
 悲しいラブストーリーの映画を観ている時には、せつなくて大いに泣いても、劇場から一歩外へ出ると心がすっきりする経験があるだろう。これは音楽における「同質の原理」につながる。すなわち、今の気持に近い雰囲気の音楽を聴いたり歌うとよいとされる。

●カタルシス
 音楽が心を癒す理由ひとつの考え方を図1に示す。音楽の機能は、ブラックボックスという箱の中に隠されている。ここにヒトの心が入る。この箱は、洗濯機や洗浄機みたいなもので、空気や水が循環して、心は洗い清められる。最初は、悲しい、暗いという入口から入った心が、楽しい、明るいなどの出口から出てくると考えられる。(図1)

●カラオケの活用
 音楽セッションは、熟達した音楽療法士によるものが理想だが、実際には難しいこともある。そこで、日本が生んだ優れた音楽文化の「カラオケ」を利用しよう。近年のカラオケは充実し、高齢者施設目的でソフトが組まれているものもある。
 使い方のヒントは、イントロ、メイン、フィナーレを認識しながら曲を選定していくことだ。悪い例をあえて挙げるなら、最初から最後までずっと「昭和枯れススキ」のような暗い曲を続けること。心に、恨み、辛み、などがあれば、最初は恨歌、気分が盛り上がってくれば艶歌、最後は楽しい演歌で、有終の美としたいものだ。

●どんな曲が癒されるか
 心を癒す曲は、まさに千差万別である。国、文化、生活、人、年齢、性、生活環境をはじめとしてTPOによって異なる。最も重要なことは、クライエントが好み選ぶ曲こそが、その人にとって理想であることだ。
 日本人の馴染みの曲は、歌謡曲・流行歌・演歌の場合が多い。日本音楽療法学会四国支部は様々な研究プロジェクトを行っている。認定音楽療法士4名を含む委員会で、一般的な中高年の日本人における癒しの曲を選出した(表1)。参考にされたい。

表1 セッションで頻用する昭和中期の曲20

あざみの唄、異国の丘、上を向いて歩こう、王将、かあさんの唄、岸壁の母、銀座の恋の物語
見上げてごらん夜の星を、こんにちわ赤ちゃん、さくら貝の歌、人生劇場、小さい秋みつけた
東京ナイトクラブ、夏の思い出、雪の降る町を、、星影のワルツ、水色のワルツ、高校三年生
南国土佐を後にして、有楽町で逢いましょう

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