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8の字ダンス

8の字ダンス

果てしなく広がる草原の向こうに、山脈の稜線がかすむ。ここは南アフリカ土着のズールー族の集落だ。私は、サファリルックに身を包んだ探検家「ヒーロシー・バン・ドゥ」。この地へは、謎の「8の字ダンス」の源流を求めてやってきたのだ。
 少し前、私は関西国際空港から空路27時間、南アフリカ共和国のヨハネスブルグを経由し、同国唯一の避暑地ダーバンに降り立っていた。国際会議に臨むためだ。そのオープニングでTranskei大学合唱団の演奏を聴き、医者だと信じていた自分が、実は、探検家だったことに気づいたのである。
 私を永い医者の眠りから覚ましたのは、彼らの腰つき?だった。指揮者はタクトを持たず、手も振らない。一体、どうやって?そこに見たものは、「蜂」のように「8の字」に、怪しく揺れ動く「腰」だった。団員は、指揮者の腰の動きに合わせて、腰をくねらせながらステップを踏む。実際、彼らの腰は、弾力性があるゴム毬が弾んでいるように力強くしなり、歌声も深みがあり、リズム感も素晴らしかった。しかし、探検家に目覚めた私は、内容の素晴らしさよりも、腰が柳のように揺れ動く様に心を奪われていたのだった。
 ズールー族の集落へは、ダーバンから車で45分ほど。ワラで作った直系3mほどの半球状の家に住んでいる。これは、ニッポンという東洋の小さな島国で冬に雪を固めて作るカマクラと似ている。すぐ横の庭がステージとなり、一族の伝統的な歌と踊りを観察した。彼らの声は重厚そのもの。腹の底から揺さぶられる。その声は、はるか彼方の稜線まで届いているようだ。これでは野生動物もオチオチ眠ってはいられない。
 この迫力のある声について、医者として培った興味が湧いてきた。彼らの体格は逞しい。筋肉質のうえに、ほどよく脂肪がのっている。おそらく声帯にも、適度に脂肪が沈着していることがうかがえる。これらは遺伝的な要因として重要だ。さらに、環境的な因子としては、広大な草原でコミュニケーションするために、自然と腹式呼吸が身についたのだと思う。
歌を聴いていると、今度は音楽家としての私の人格が甦ってきた。ハーモニーは4小節目には最初の和音に戻ることが多く、シンプルであるが安定感があり、大地にシッカリと根付いているような印象を受ける。リズムは、丸い木を削り貫いた太鼓を、木の枝で力いっぱい打ちならす。
 驚いたのは、彼らの踊りだ。民族衣装や仮面をつけて、祭りや戦いの場面を演じる。腰をどっしりと安定させ、4拍子の音楽にあわせて片足を高くあげ、地鳴りがするほど、全体重をかけて大地を踏み続けるのだ。この動作をずっと見ていると、また、医者の私が目覚めた。「行軍症候群」という病気をご存知だろうか?兵隊が長時間歩いて足の裏に負担をかけると、足底の血管の中で赤血球が壊れてしまう病気のことだ。この病気を患う人はいないか、と現地の医師に尋ねると、「ない」との返事。「血管が強いのか?」と冒険家の私までが興味を持った。
 彼らの素朴で力強いダンスの源は、体格、声帯、腰から生まれるリズム感、血管などの遺伝子が脈々と受け継がれた結果なのではないだろうか?腕や手指を使って、細やかで洗練された表現を追求する東南アジアのダンスとは明らかに違う。世界中を探検する私は、彼らの歌こそが人類のコミュニケーションの原点であるような思いに捉われた。人類共通の言語に「歌」というものがあるならば、今日の歌への進化はどういった経路をたどったのか。その中で彼らの歌はどこに位置づけできるのだろうか。新しい課題に直面した私はまた、医師の仮面を被り、日々の多忙な業務をこなしながら、再び目覚めの時を待つのであった。

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