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音の表現

音の表現

平成8年5月3-5日にThe 7th National Choral Workshop in Tokushimaが行われた1)。全都道府県から合唱指導者や合唱愛好家が集い、さらに日本のトップの音楽家が講師として招かれた。小・中・高校・大学・職場・一般からの合唱団や一般の参加者がレッスンを受け、成果を披露した。そして、地元の学校関係やおかあさんコーラスなどの各種団体が、心を込めて皆様方のおもてなしを行った。
 このワークショップで、三善 晃先生の「表現とは」の御講演に私は感動した。三善先生は、ご存知のように、東京大学仏文科およびパリの国立コンセルバトワールを経て、桐朋音楽大学の学長を20年務めた方で、日本音楽界では神様みたいな存在である。小生のようなものが三善先生のことに触れるのは甚だ畏れ多いことであるが、先生は日本バイオミュージック学会の重鎮でもあられるのでお許し頂きたい。先生は、表現とはなにかを「表し」なにかが「現れる」ものだ。教育や訓練の場では概ね「いかに」に視点が置かれるが、「なぜ」という見地から分析すれば、主体としての「自分」に目覚め、芸術や生きる意味がおのずと明らかになる・・と、貴重なご示唆を賜った。また、先生が作曲された合唱曲2)について、それを歌う歌い手と「なる」までの「なぜ」を、解説くださった。
 詩とその行間にある内の声をもすべてを含み小宇宙が凝集したような四声の曲。わずかな心の動きを小さなモチーフの旋律に託し、それが我々が認知できるか否かという潜在意識レベルに余韻を残す・・というような構築が内在しているのだ。先生がピアノで弾いた分散和音により、極彩色のイメージの世界が私の脳に広がった。音符と音符の間には楽譜に表記されていない和音があり、芸術家や演奏家は、音間をも読まなければならないことが分かった。
 従来、言葉の中枢は左側頭葉にあり、芸術の中枢は右側頭葉にあることはよく知られている。最近、音楽家で絶対音感をもつ人は、側頭葉の後部が右よりも左が著明に大きいことが明らかにされた3)。様々な報告をまとめると、音楽や作曲活動は、言語活動よりもはるかに高次の機能を営むもので、右脳と左脳の複雑なネットワークすべてがうまく働かなければならないという3)。三善先生は「脳から音楽が溢れ出してきて、音符を書きとめるのが追いつかない」と。三善先生の脳が宇宙や神様とつながっているような気がするのは、私だけではないだろう。
 今回のワークショップでは、小学生のモデル合唱部が初登場した。徳島市佐古小学校の合唱部がそれで、全国NHK合唱コンクールで平成6年に全国第1位、7年には3位に入賞4)。これは全国の9つの地区の代表で競うものだが、この2年間に連続してブロック代表になったのは同校だけであったという。その快挙の秘密は何だろうか?同校はごく普通の小さな公立小学校で、特別な子供が集まっているわけではない。練習は小学4-6年生が毎朝30分行っているだけで、放課後は子供も指導者も忙しく時間が取れない。歌の練習よりも発声の基本練習に多くの時間を割いているらしい。指導されているのは冨田 操先生で、地元のおかあさんコーラス「グリューン・コール」を全国大会で入賞までさせた方である。お話を伺うと、「児童に指導する時に、歌の内容を説明してイメージを固定するのではなく、逆に、子供が自由にそれぞれのイマジネーションで歌えるようにアドバイスしている」と。「こんな小さな子供に理解できますか」と尋ねると、「子供は難しい言葉の意味は理解できませんが、表現することについては、大人の合唱団やおかあさんコーラスと同じだと思います」との御返事を頂いた。
 さて、私はステージでピアノ演奏をすることがあるが、音楽を通じて、自分の気持ちを表現させて頂いている。音楽が大好きで、音を楽しんでいる私の姿をみて、その気持ちが人に伝われば幸せに思っていた。しかし、今回の三善先生のお話から、私は「いかに」ばかり追いかけ「なぜ」を考えない表現をしていなかったか?子供の純粋なとらわれない心こそが、最も大切なのかもしれない。

●参考資料
1)主管は徳島県合唱連盟.理事長は吉森章夫先生で, 徳島県音楽協会会長・徳島大学総合科学部長も兼任.
2)三善晃.混声合唱組曲「五つの願い」カワイ出版,1989.
3)Rachel Nowak. Brain Center Linked to
Perfect Pitch.Science 267(Feb 3):616,1995.
4)CD盤: 6EFCD25056(平6), 7EFCD25078(平7)

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