◆ 運動制限の患者

Q & A 合併症のため運動療法が制限された患者さんにどのように対応すればよいでしょうか

   「合併症が進んでいるので、あまり急激な運動をしないように」。

このような漠然とした説明しかできない医師はダメである。患者の合併症の状態とライフスタイルを把握したうえで、具体的に説明しながら一緒に考えていきたいものだ。
 まず、神経障害では、手足のしびれや疼痛を訴える患者が多い。1日に15-30分程度軽く手足を動かすことで、症状が改善することがある。具体的には、イスに座ったままで、頸部・肩・肘・手首をまわしたりストレッチをするだけで、血流がよくなると説明し、推奨する。

 自律神経障害が進展した例には注意が必要である。起立性低血圧で倒れた場合、低血糖か、高血糖か、脳血管障害か、虚血性心疾患か、判断や対処が難しい。軽い運動でも脈拍数が増加せず、運動強度の目安がわからない。脱水が起こりやすく、体温調節もうまく行えない。通常、運動は禁忌とし、エアコンで調節された屋内で歩行程度が許容される。速い動作で前屈や後屈を行う以前のラジオ体操は薦められない。イスに座ったままで、ストレッチが主な動作となる「みんなの体操」がよい。

 網膜症では、運動によって増悪するというエビデンスは得られていない。しかし、運動時の血圧上昇により、眼底出血が起こる可能性がある。従って、血圧が上昇する力む動作を避けるのがポイント。たとえば、重量挙げ、重たいものを運ぶ、鉄棒のぶらさがり、バルサルバ手技を伴う動作などである。便秘や固い便のために、気張ることがないように、緩下剤で調節するように指示しておく。また、増殖性網膜症では、身体に衝撃が加わると網膜裂傷や網膜剥離、硝子体出血
が起こる可能性があり、原則として運動は禁止する。椅子に座った姿勢で、息を止めずに行うストレッチ程度がよい。

 腎症では、軽度から中等度の運動が、アルブミン排出量に対して影響があるかどうか、明らかな結論は出ていない。ただ、患者の経過観察中にタンパク尿が増加してきている場合には、運動を制限する。

 顕性腎症や腎不全例では、通常、積極的な運動は不適当である。透析例では、貧血、心臓血管合併症、自律神経障害の状態をみたうえで、アドバイスする。

 高血圧の程度が強かったり、虚血性心疾患など動脈硬化症合併症を有する例では、運動が制限される。患者の心機能を評価した上で、可能なら散歩程度を毎日軽く行うように勧める。固定型自転車運動では、負荷を軽くして数十分ペダルを踏むことができる。エアコンで室温が調節された屋内で、テレビを見ながら行えるので、状況が許せば推奨したい。その際には、息を止めず、お腹に力を入れず、力むことのないように、自然な呼吸でゆっくりと息を吐きながら行う
ように、具体的に指示しておく。

 以上をまとめると、ダメな動作には、力むような等尺性運動、トランペットなどの演奏、激しいエアロビクス、衝撃がある運動、ラケットの競技などが挙げられる。推奨される運動は、散歩、軽い歩行、軽い負荷の自転車踏み、水泳、水中ウォーキング、椅子に座ったストレッチ体操などである。

 運動が制限された患者に対して説明した後に、担当医が放置しておくのはダメである。診療のたびに、生活や運動の状況を聞き出しチェックしておくことが大切だ。

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