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芸術と科学

芸術と科学

(医学書院) 

著者 野田 僚(大阪芸術大学助教授)

 音楽が自閉症の子供や痴呆老人などに対して治療効果があることは広く知られており、音楽療法に関する書籍も出版されてきている。しかし、多くが音楽と医学の領域の範囲内の記述にとどまっていた。
 今回、出版された「芸術と科学の出合いー音楽運動療法の理論と実践」は、従来の音楽療法にトランポリンの上下運動を組み合わせ,さらに高い治療講かの得られる音楽運動療法の,実利的な意味での解説書である。脳生理学から治療理論を導きだしているが,さらに社会的貢献を含む芸術観や宗教的見地など、従来にはみられなかった広い角度から音楽を分析したことが特徴であると言える。
 著者の野田 僚氏は、現在、大阪芸術大学助教授であり,サクソフォン奏者、作曲家、音楽療法家の顔を持つ。ヨーロッパ各地で、日本の伝統美術や現代音楽を発表したり、映画や劇、バレエ音楽の作曲活動などを行うかたわら,20年来、脳性麻痺疾患などの音楽療法に情熱を傾け活動を継続している。本書は、音楽運動療法の理論と実践について、著者の音楽と医療の長年の経験が集大成されたものである。
 さらに,他の類書にない本書の特色は、著者のサクスフォン演奏によるCDが付されていることである。テネシーワルツ、アロハオエ、鉄腕アトムなど、ゆったりとムードがある曲やアップテンポなマーチ風の曲など19曲が収録されている。これらの曲は、歩行練習やボール投げなどいろいろな状況で使用するばかりでなく,静かに聴いたり、BGMとしても心なごむ.どんな疾患か,対象が大人か子供か、患者の好きな曲、指導者と患者が一対一か、リハビリや機能回復訓練で集団に行なうのか、などTPOに応じて選択するとよいと解説されている.また、もう一つの特色として、ゆったりとしたスペースに、「木」のイラストが多く入っていることである.読んでいるうちに,心が癒される.
 このような特色から,科学は医学を含む自然科学ばかりでなく、人文・社会科学から人の「心と身体」を対象とする「人間科学」といえる広い意味で捉える必要があると本書は訴えているようだ。また,音楽運動療法は「芸術と科学」のなせる技であり、芸術(アート)と科学(サイエンス)を共に追求し解明していくことが、健康な人および疾病に悩む人々の幸せにつながるものという基本姿勢が伝わってくる.
 本書は、音楽運動療法の理論と実践、音楽運動療法の神経学的考察、音楽と環境、の3章で構成され、中でも第3章は、著者の論が展開していく。「音の聞きかた、感じ方、表し方」では、生理学者として分析し、「音楽大学と音楽教育」では教育学者として辛らつに批判し、「能力主義賛ー年功序列の弊害」では、社会学者として解説している。特に、「日本人の感性」のなかで、「流れ」と「極楽浄土」についてあたかも宗教学者のように語っているのが興味深い。ここで、私はある芸術の大家の言葉「上手には誰でもなれるが、達人になるには悟りが必要である」を思い出した。
 私事で恐縮だが、私は内分泌・代謝を専門とする内科医であるとともに、ピアニストや編曲家としての活動も続けている。著者の経験に加えて,脳生理学に基づく確かな治療理論等,高い次元でまとめられた本書から学ぶべきことは多い。高齢社会となり,慢性疾患を抱える人が不得手いる現在,本書が出版された意義は大きい.看護や介護、教育、福祉に携わる人々、医師などあらゆる分野の科学者、音楽関係者、さらに人の心や身体に働きかける音楽の不思議な力に興味を持つ方々に、一度ぜひ読んでほしい本である.

 (徳島大学医学部 第一内科 板東 浩)

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