◆ 脂質のFAQ Frequently asked question

質問1 高脂血症はなぜいけないの?

 高脂血症とは、血中のコレステロールまたは中性脂肪が高い状態のこと。血液検査で数字が高いだけで、命に関わるようではないのに、高脂血症はなぜ困るのでしょうか?
 答えは「動脈硬化が起こりやすくなるため」です。重要な3つのポイントを順に説明します。
 まずは、たとえの話から。ガスやプロパンのゴムのチューブをご存じですね(図1ー1)。新しい頃は弾力に富んでいたのに、古くなると硬くてもろくなり、表面にはヒビが入ったりします。この状態が動脈硬化。高齢者が、脳の血管がもろくなって脳出血などを起こすのはこのためなのです。
 次に、動脈の壁のしなやかさが減ってくると、血液を押し出す心臓に負担がかかります。その抵抗が対抗するため、次第に血圧が高くなります。
 さらに、動脈硬化とは通常アテローム性(粥状)動脈硬化のことを指します。お粥みたいに、動脈の壁の内側が肥厚して血管の内腔が狭くなり、詰まりやすくなるのです(図1ー2)。

 以上のポイントをまとめると、
・血管が弱くもろくなる
・血圧が上がってくる
・血管が詰まってくる
 この特徴がある動脈硬化は、いろいろな原因で起こってきます。たとえば、肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙などが有名です。この中で最も重みがある因子が高脂血症なのです。
 動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002)をみたことがありますか?高脂血症診療ガイドラインではないことに意味があります。すなわち、総コレステロールが220や240mg/dlなどという数値ではなく、リスクファクターで考えることが重要です。LDL以外の主要な冠危険因子には、加齢、高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、低HDL血症などがあり、糖尿病が存在するだけで、リスクが3つもあることになります。

質問の2 卵を食べるとコレステロールが上がるって本当ですか?

 卵の摂取で高脂血症になるという議論が以前からあります。その最初は、1913年にロシアの病理学者がウサギにコレステロール(Cho)を与えた実験でした。大動脈にChoが付着して動脈硬化が起こり、Choが動脈硬化の原因であると発表したのです。
 しかし、ここで大きな誤りがありました。草食動物のウサギは常に脂質を全く摂取しないのです。この研究方法でウサギのCho濃度が急上昇したとしても、実験結果はヒトには全く当てはまらないことが、わかるでしょう。
 ナースは患者さんから、卵の摂取について頻回に尋ねられることがあると思います。そのときに、どのように答えていますか?
 ここで、Choについて記憶しておくべき大切な基礎知識をお話します。
・卵黄一個の中には250mg
・1日の摂取適正量は500~600mg
・1日の必要量は1000-1500mg
・食品で2-3割、体内で合成7-8割
・体内の合成率は状況に応じて変わる
・卵の摂取が多い場合は体内でCho合成 量が減るメカニズムが働く
 世界では数十年にわたり、卵摂取とChoに関する研究がなされてきました。国立健康・栄養研究所で成人3群に毎日卵を5, 7, 10個の摂取を5日間行ったが、TC値には変化がなく、他に、毎週0-2個の群と7-24個の群を8年間追跡しても有意差はなかったとされます。
 一方、26年間の222論文中、条件が備わった17論文では、卵制限は高脂血症に多少の効果があるとのことです。多くの報告をまとめてみると、おおよそ次の結論が得られます。
・通常、常識範囲の卵の摂取はTCを上昇させない
・responderとnon-responderの体質が ある(respondとは反応する人の意味で、卵摂取の影響を意味する)
・高脂血症の患者では、わざわざ多く の卵の摂取は特に勧めない
・正脂血症の患者では、本人の自由意 志にまかせておく
・どちらの体質か知りたい場合、従来 の卵摂取が2個/日なら2日に1個に 減らしたり、逆に増やして、1カ月後 にCho濃度を調べてみる
 卵には様々な成分が含まれています。血清TC値を特に上昇させず、栄養学的に優れた食品であると考えてよいのです。黄身にはリン資質のレシチンが含まれ、LDLを減少させHDLを上昇させるとされます。また、黄身のリン脂質の主成分であるコリンは神経伝達物質「アセチルコリン」の原料で、最近アルツハイマー病やボケ防止に対する効果が期待されているのです。
 白身に含まれるシスチンにも、LDLを下げHDLを上げる効果があるようです。白身にはリゾチームが含まれ、風邪薬のリゾチームは100%卵の白身から精製されたものなのです。リゾチームは、in vitroの実験でシャーレ内で細菌に対する溶菌作用で繁殖を抑えます。最近は食品の防腐剤の効用や、エイズウイルスの抑制効果なども報告されています。
 卵は栄養学的に優れており、この点から毎日数個の摂取は、通常差し支えないと考えてよいでしょう。
卵1個には、たんぱく質6.3g、炭水化物0.6g、脂肪5.0gが含まれ、貴重な蛋白源です。タンパク質とは20種類のアミノ酸が様々な割合でつながったもの。良質なタンパク質はアミノ酸の構成比率が人間に近いものを指します。この点から、タンパク質の良質度を示す尺度に「プロテイン・スコア」があります(表2ー1)。

表2ー1 プロテイン・スコアの表
  卵は         100点
  サンマ         96
  イワシ、マグロ、豚肉  90
  あじ、あさり      88
  鶏肉          85
  チーズ         83
  牛肉          79

質問の3 高脂血症の分類について、わかりやすく解説してください。

 高脂血症の分類として、WHOによる表現型分類(フレドリクソン分類)が知られています(表3ー1)。増加するリポ蛋白の種類によって、I型からV型までに分けられたもので、どの教科書に記載されています。でも、この分類を覚えるのは、それほど簡単ではありません。
 実は、工夫をすると直ちに覚えられる三角形があるのです(図3ー2)。三角形の頂点にCM(カイロミクロン)、LDL、VLDLをまず記載します。そこに、増えるリポ蛋白によってI, IIa, IIb, III, IV, V型と書き込んでいきます。この中で、IIa型とはLDLだけが多い型、IIb型はLDLとVLDLが多い型ということ。なおIIIという字はわざわざ幅広く記しているのはbroadの意味であり、LDLからVLDLまで幅広くIDLの成分が多くなっている状態を文字の幅でも表わしているというわけ。
 CM、LDL、VLDLの3者は超遠心法による分類で、一方ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)による分類もあります。両者を比較すると、カイロミクロンが原点、LDLがβ、VLDLがpreβにほぼ照合するのです。ですから、図3ー2のCM、LDL、VLDLという記載を、原点、β、preβと置き換えても差し支えありません。
 なお、専門的なこととして、PAGEでpreβと名付けている場所は、本来postβと言う地点に相当します。別の検査法で、アガロースゲル電気泳動の結果と内容が一致するので、そのままpostβではなくpreβと記載しています。そうするほうが、混乱を生じないからなのでね。

表3ー1 高脂血症の分類(Fredrickson、WHO)

       I  IIa   IIb    III     IV  V

増加する  CM  LDL   LDL と   IDL   VLDL CMと
リポ蛋白         VLDL (broad)     VLDL

電気泳動法 原点 β β+preβ broad-β pre-β 原点+pre-β

図3ー2 三角形の図 割愛

質問の4 LDLコレステロールの計算式をやさしく教えてください.

 高脂血症の検査について、変遷があるのです。初期の頃は、総コレステロール(TC)と中性脂肪(TG)だけでした。その後、善玉とされるHDLが追加され、最近はT-C, TG,HDLの3者の測定が多くなってきています。
 確かに、高脂血症とは、TCまたはTGが高い状態のことを意味しています。しかし、最近、悪玉とされるLDLの直接測定が普及し始めており、提出項目や考え方が次第に変わりつつあります。
 T-Cには善玉のHDL、悪玉のLDL、TGの一部という、いくつかのファクターが混在しています。この総計について議論をするよりも、善玉のHDLが少な過ぎないか、悪玉のLDLが多すぎないか、という個々のファクターについて考えるほうが、重要だからです。
 そこで、ここでは、LDLコレステロールの計算式を簡単に解説しましょう。図4ー1をみてください。総コレステロールの中には、T-Cには、善玉のHDL、悪玉のLDL、TGの5分の1が含まれているのです。最近は、T-C, TG, HDLの3者の測定が広く行われてきています。ですから、たとえば、図4ー2のように、T-Cが200mg/dl、HDLが50mg/dl、TGが150mg/dlとすると、200 - 50 - 150/5 = 120mg/dlとなるわけです。
 このような図を描くと、とても理解しやすいでしょう。本図は、筆者が考案したもので、特許を出願するつもりはないので、多くのみなさまに教えてあげてください。
 さて、どんな理由で、TGを5で割算するのでしょうか?実は、空腹時の血中TGの由来のほとんどは、VLDLなのです。そして、VLDL中のトリグリセライドとコレステロールエステルの割合は約5対1であることがわかっています。この事実から、空腹時のトリグリセライド」の値を5で割算した数値が、VLDLコレステロール値であると推測できるのです。
 すなわち、血清TGが150mg/dlであれば、VLDL値はその1/5の30mg/dlと推定できます。もし、空腹時に採血したTGの値が極端に高い400mg/dl以上の場合には、5で割算せずに4.5で割算すると近似値になるとされています。
 この式は、以前からフリードワルド(Friedewarld)の計算式と呼ばれているものです。ただし注意点として、12時間以上絶食して採血した検体を用いること、TGが400mg/dl以上でカイロミクロンを含む検体の場合は正しい値が得られない、などが挙げられます。
 脂質検査で注意すべきことは、少なくとも12時間以上は、物を食べない状況で、採血をしてもらうことです。朝食を食べずに午前中の採血が薦められます。

質問1ー4に関する図は割愛

powered by Quick Homepage Maker 4.91
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM