◆ 肥満症-6 食欲中枢

 先週までは、肥満について、栄養学や運動生理学からの話がありました。
今週と来週は、肥満の精神・神経的な側面を紹介し、今までのまとめもしたいと思います。

 先日、びっくりするような肥満のニュースが米国から世界中に流れました。食べ過ぎて動けなくなり、家から出られなくなった人を助け出すために、家の壁を壊して、クレーンでつり上げて救出したというのです。その人の体重は何と480kg。体形は超肥満体で、起きあがることも立つこともできません。本人の弁は、「食べはじめたら止まらない。病気なのだ」。
 なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?実は、皆さんの脳の中にある「視床下部」という場所に、この謎を解く鍵があるのです。小指の先の半分ほどの小さな中枢ですが、身体全体の調子をうまく整えるように働いています。たとえば、体温は身体の状態や環境にあわせて、知らないうちに調節されています。「よし、今から体温を38℃に上げるぞ」と意識してもできません。視床下部は、無意識のレベルで身体をコントロールしている司令塔と言えます。
 ここに、食欲にかかわる大切な中枢が2つあるのです。一つは「摂食中枢」(空腹中枢)で、お腹がすいたと感じて食べようと指令するところです。もう一つは「満腹中枢」で、お腹がいっぱいになったと感じて食べるのをやめようと指令するところです。普通の人は、この2つのバランスがうまく保たれています。ですから、「空腹を感じて食べ始め、満腹感とともに食べるのをやめる」ことができるのです。いろんな原因や病気によって、このバランスが崩れると、食べ過ぎて肥満症になったり、食べるのを拒んで「やせ」や「拒食症」になったりします。皆様の「摂食中枢」と「満腹中枢」は、喧嘩をせずに仲良くバランスを保っていますか?

 不思議なことに、野生動物には肥満症や拒食症はないとされています。食べ過ぎもないし、食べるのを拒否することもありません。ライオンがシマウマを倒すのは、本能に従って、その時の空腹感を満たすためです。
人間のように、余分に食べ物を保存したり、貯えておいたりはしません。ですから、いったん満腹になると、餌にはもはや見向きもしなくなるのです。
 一方、人間に飼われているペットには、肥満症がみられます。太った猫が、ゴロニャーン、と寝そべった姿をテレビで見た人も多いでしょう。この猫は、人間の生活習慣の中で生きているうちに、中枢の働きが狂ってしまったのかもしれません。

 私たちは、長年の知恵によって、食べ物を貯えてきましたが、人間は野生動物と比べて、はたして賢くなったのでしょうか?

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