◆ 肥満症-1 脂肪の貯蓄

 前回は、これから始まるシリーズ「生活習慣病」について、概説の話がありました。この地球上で生物が進化してきた長い歴史に比べ、私たち人類の歴史はとても短いものです。私たちの先祖は、ずっと飢餓との戦いを続けてきました。朝から晩まで野山を駆け回って、ようやく獲物を捕まえて食べることができたのです。しかしその後1週間は何も食べられないかもしれません。もし読者の皆さんがこの時代にタイムスリップしたとしたら、どうしますか?

 食物がいつ手に入るかわからないので、食べる時にたくさん食べておいて、エネルギーを身体に貯めておくのが一番の得策と言えます。これをうまくできる素質を持った人類が、現在まで生き残ってきたのです。読者の皆さんは優秀な遺伝子を受け継いでいるのです。
 さて、エネルギーを貯めるにはどうすればよいでしょうか?牛には胃が4つあり、大きな分量の食物をとりあえず胃に入れておくことができます。しかし、これではお腹が膨れて大変ですし、人間はこのようにはできません。身体に都合が良くて効率的な方法は、多くのエネルギーを小さなものに貯めておくことです。このような便利なものが私たちの身体の中にありますが、おわかりになりますか?

 正解は「脂肪」です。脂肪1gには、9 キロカロリー(kcal, Cal)のエネルギーを貯めることができます。9Cal(9000cal)というのは相当大きな熱量です。0℃の水90ccを100℃まで暖めるほどの力があります。たとえば、
皆さんがラーメンを食べようとお湯を沸かす場合を考えてみましょう。ガスやプロパンのかわりに脂肪を使うとすれば、450ccのお湯なら、燃やす脂肪の量はわずか5gでよいのです。このような脂肪は家庭の冷蔵庫に入っています。バターやマーガリン、ラードなどが相当します。料理に使う時に、どれくらいの熱量があるか、ちょっと考えてみたらいかがでしょうか。

 さて、皆さんの腕、背中、お腹をすこしつまんでみてください。これが脂肪です。皮膚の下には脂肪があり、また内臓にも脂肪があります。これらの脂肪は人間にとって無用の長物ではなく、大切な働きが3つあります。まず、身体の断熱材として寒い冬には助かります。次に、クッションとして胃や腸など内臓を支えています。3番目はエネルギーの貯蔵庫としての重要な働きです。食事が取れなくてお腹がすいていても活動できるのは、脂肪からエネルギーが出てくるからなのです。
 私たちが生活していくにはお金が必要で、収入と支出を考えながらやりくりしています。同じように、私たちの身体は食事によってエネルギーを得て、活動によってエネルギーを消費しています。皆さんはこのバランスがうまくとれていますか?余ったエネルギーは、脂肪として身体に貯められます。お金なら貯金がいくら増えてもよいですが、脂肪の貯蓄は多すぎると身体にいろんな不都合が生じてきます。このように、身体に脂肪が多すぎる状態が「肥満症」です。

次回は、さらに肥満症について話を進めます。

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