◆ 肥満と診断されたときのダイエット指導

・リバウンドやウェイト・サイクリングの病態をきちんと説明しておく。
・見かけの体重よりも、除脂肪体重(LBM)の意義や重要性を理解させる。
・生野菜の摂取は繊維質が多く、咀嚼運動により満腹中枢を刺激できる。
・テレビを見ながら室内で行える有酸素運動や筋肉トレーニングがある。
・超低カロリー食(VLCD)を適応する場合は、医師の監視下で実施する。

はじめに
 日本では生活習慣病が増加しつつある。この中で、最初は肥満から他の疾病に進展することも多い。従って、肥満への対処が重要となる。
 肥満に対する正式の治療法は多くの成書に示されている。しかし、理論と実践は異なるもので、減量がスムーズにいくケースは少ないだろう。
 本稿では、肥満と診断された際におけるダイエットの指導について述べる。ただし、ポイントと考えられる注意点や指導のコツ、現場で有用な情報などに重点をおき、通常と異なる順序で記す。実際的な内容により、患者が行動を変容でき、継続できるように期待したい。

I.リバウンドが起こりがち

 ダイエットによりある程度減量しても、その後再び体重が増えることをリバウンド(rebound)と呼ぶ。この繰り返しは、ウェイト・サイクリング(weight cycling)、または玩具のヨーヨーに例えて、ヨーヨー現象、ヨーヨーダイエットとも言われる。なぜ、このようになるのだろうか。典型的な経過の一例を下記に示す。
 ? ダイエットをしようと始める
 ? 食事量を減らす生活を続ける
 ? この間、ほとんど運動はしない
 ? 体脂肪は若干減り、筋肉も減る
 ? 基礎代謝が落ちてくる
 ? 努力しても減量できず、挫折する
 ? リバウンドで体重が元にもどる
 ? 以前より代謝↓筋肉↓脂肪↑の身体になる
 この場合、減量が5kgで再び同じ体重まで戻ったと仮定しよう。減った時点で脂肪が3.5kg、筋肉が1.5kg少なくなり、その後5kg増えたのは脂肪のみ。見かけ上、体重は以前と同じだが、筋肉1.5kgが脂肪1.5kgに置き換わり、さらに基礎代謝までも落ちてしまった。
 これを何度か繰り返すととどうなるだろうか?
 ? 筋肉量が次第に減っていく
 ? 体脂肪だけがどんどん増える
 ? 基礎代謝は落ちてくる
 ? 簡単には減量できなくなる
 ? 以前と同じ量を食べても太りがちになる
 ? 脂肪が燃えにくい身体となる
 ? 立派な難治の肥満のできあがり
 このメカニズムを是非とも患者に教えてほしい。医師サイドから注意すべき点を表1に、患者サイドから参考となる項目を表2に示した。

II.減量のポイント

1.生活・食事日記
 減量に際しては、最初に、患者のライフスタイルについて尋ねる。食習慣のチェックを含め1)(表3、4)、食事や運動、休養、仕事、余暇について詳細に把握しておく。これが中途半端になると、途中でドロップアウトしかねない。
 そのために、生活日記を1週間程度つけさせる。食事の内容や運動の種類などまで、時刻をつけて書いてきてもらう。その際に、「どのような内容でも医師は叱ったりしない。自分の健康と将来のために、ありのままに冷静に記載すること」と伝える。あるがままにが大切で、英語ではas it isまたはlet it beとなろう。

2.体重の増減は有害
 weight cyclingを起こすのなら、はじめから減量しないほうがよいという意見もある。体重の増減の繰り返しにより、代謝、脂肪分布、罹病率、死亡率、心理面などにマイナスの影響がみられる2)。BMIの変動が大きい者は、男性で1.7倍、女性で1.3倍死亡率が高く、特に虚血性心疾患による死亡が多いとされる。
 エビデンスに基づく成人肥満の臨床ガイドラインが、NIHから発表されている(3)。その中で、減量後2年以内に体重の再増加が3kg以内の例が、減量成功例とされる。この基準にあてはめれば、臨床的に成功例はわずかであろう。

3.体重よりも除脂肪体重(LBM)
 急激な減量は、なぜだめなのか?それは、脂肪だけでなく、筋肉が減ってしまうからである。脂肪を除いた体重のことを、除脂肪体重(LBM, lean body mass)と呼ぶ。
 LBMのほとんどは、筋肉や骨である。理想的な減量とは、LBMが減らず脂肪量のみが減ること。逆に、無理な減量によって、筋肉量が減り骨も弱くなる。LBMをきちんと理解すれば、患者は正当に判断ができて、よい結果へと自分で導く。

4.見かけの体重よりも毎日の心がけ
 標準体重まで減量しなくともよい。その理由は、数kgという若干の減量だけでも、肥満症による様々な合併症が改善するからである。特に、中性脂肪(TG)の濃度は有意に減少する。
 食事を減らし運動を続けるという毎日の習慣や心がけが大切。たとえ、見かけの体重に変化がなくても、気にしない。近いうちにベルトの穴の場所が変わるなど、内臓脂肪の減少など効果がみられるだろう。目の前の指標に惑わされず、目標を遠くに設定して、無理せず、あせらず、迷わず、生活していくように、指導したいものだ。

III.食事指導のコツ

1.生野菜の摂取
 野菜は、1日に300~400g摂取するように推奨されている。その目安は、両手に載せて山盛り一杯になるほどだ。しかし、この量を食べるのは実際には難しい。従って、熱を通して温野菜を摂取するように勧めることも多い。
 一方、減量を目的とするときには、生のままの野菜を活用したい。カラフルでいろいろな生野菜をボール一杯に入れ、低カロリーのドレッシングで食べる。毎食事の最初のディッシュや、空腹で間食するときなどに食べるとよい。
 これが有効な理由は、繊維質が多くボリュームがあり胃が膨れること。また、咀嚼運動が長く続くことで、満腹中枢を刺激できるからである。

2.VLCD
 必要な症例では、視床下部に働きかけて食欲を抑制するマジンドール(サノレックスR)を処方する。また、超低カロリー食(very low calory diet,VLCD)としてオプティファスト70(1袋84kcal)を利用できる。以前から、減量を行う場合に臨床の場で使用されてきている。
 比較的、成功に導きやすい減量法を示す。朝食、昼食は通常の食事で計600~800kcalほど摂る。その後、間食(15時)や夕食(18時)、夜食(20時)の際には、オプティファスト70を1袋ずつ内服させる。なお、お茶など水分は多めに飲む。
 ほかに、人工甘味料なども用いられる。同じカロリーでも、主食の量、副食の種類、デザートの量などを多くできるからだ。しかし、本来の姿としては、甘味料の使用よりも、甘い物を好む味覚や嗜好、食習慣を変えていきたいものだ。

3.遺伝子の検討
 最近の動向として、オーダーメイド(テイラーメイド)指導法が紹介されている。これは、肥満関連遺伝子を調べることで、患者の体質にあわせた食事指導ができるものだ(4)。
 具体的には、?β3アドレナリン受容体遺伝子多型(Trp64Arg)、?UCP1遺伝子多型(A-3826G)、?β2アドレナリン受容体遺伝子多型(Arg16Gly)を測定する。?では1日の安静時代謝量が200kcal/日少なく、?で100kcal/日少ない。従って、?and/or?がある場合、通常1200kcal/日で減量指導する際に、900~1000kcal/日で実施しなければいけないことになる。エビデンスを示せるので、患者も納得するであろう。
 また、脂肪の吸収を30%程度抑える薬剤であるオルリスタットがすでに開発されている。近い将来に、日本でも使われる可能性がある。

IV.運動のヒント
 減量の際には、「絶対に運動は併用すべし」と、何度も患者に伝えておく。運動の種類は、
 ? 有酸素運動   :歩行など
 ? 筋力トレーニング:ダンベルなど
 ? ストレッチング :柔軟体操など
の3つに分類される。?が主となるが、ダンベルや室内の体操などで?を併用すると効果的である。なお、?だけでも筋肉には刺激となり、カロリーを消費できることを伝えておきたい。

1.テレビをみながら室内で運動
 運動する時間がないと多くの人が訴える。しかし、ちょっとした工夫により、毎日、室内でテレビをみながら有酸素運動が可能である。
 自転車踏みの器械があれば、居間に持ち込む。わざわざ購入しなくても、床の上で十分なエアロビクスができる。それは、昇降運動である。床の上に、高さが20~30cmの台や箱を置く。わずか1段の段差があればよい。右足、左足と交互にステップし、12で上にあがり、34で下に降りる。初めはゆっくりと、慣れれば速いリズムで行う。要は、話をしながらできる程度に、負担を感じず無理のないレベルからスタートしてみよう。
 なお、テレビをみながら片足か両足を空中に挙げれば、膝、腹筋や側腹部、背中の筋肉を鍛えられ、シェイプアップにもプラスとなる。

2.メディカルウォーキング
 有酸素運動として、一番代表的で簡単なものは、歩行である。ただし、ぶらぶらの散歩では効果がない。きびきびと手を振って歩いたり、速歩~急歩を勧めたい。
 最近の話題はメディカルウォーキング5)。まず歩数計を購入して、数日間使ってみるとよい。高価なものは不要であり、正確に足数が計れたら十分だ。消費カロリーなど詳細な数字の掲示は、特には必要ないだろう。それよりも、過去数日間の歩数値のメモリー機能の方が有用と思われる。
 手を大きく振って大股で歩くと、消費カロリーは予想外に大きくなる。そのコツは、太ももの後ろの筋肉(大腿二頭筋、ハムストリング)で、腰を前に突き出すように、足裏で地面を後ろにぐっと押し出すように、力を加えてみることだ。

3.階段を昇ろう
 筋力トレーニングのために、わざわざフィットネスクラブに通う必要はない。階段をゆっくり昇るだけで筋トレになる。1段ずつ飛ばすと、さらに消費カロリーは大きくなる。この場合に鍛えられるのは、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)だ。
 なお、階段の25階分を昇ると、200kcal消費されるという。筆者はしばしば出張中に、ホテルの非常階段で運動する。地下3階から18階まで昇ると20階分、降りる20階分は5分の1の4階の昇りに相当するので、1往復で合計24階分、ほぼ200kcalとなる。これと同じカロリーを消費するとすれば、速歩では60分程度かかるとされる。
 なお、筋トレとして簡便なものとして、歩行の際に軽いダンベルを両手に持つ方法がある。また、ゴム製チューブを用いてレジスタンス運動を行う「チューブ体操」も施行してみるとよい。

4.ストレッチもカロリーを消費
 昔から行われているラジオ体操は、反動をつける運動であり、ストレッチとは異なる。ストレッチのコツを示す。
 ? 反動をつけず、じっくりと   
 ? 1つのポーズで、15秒数えてじっとする
 ? 筋肉のすじが痛みを感じる手前の姿勢で
 ? 息をはきながら、息を止めず力まない
 ? 脱力してイチ、ニー、サンと喋るとよい
 ストレッチだけでも、ある程度カロリーを消費していることが明らかになっている。運動せずにダイエットだけを1ヵ月すると、基礎代謝は約15%低下するとされる。したがって、日常生活であまり時間がない人でも、居間のカーペットの上でストレッチを継続するのは効果的である。

V.ダイエット食の留意点
 近年、VLCDのひとつとして、ビタミン剤を補充したマイクロダイエット(サニーヘルス社)が市販されている。この記載にあたり、パンフレット6)や、本製品の使用経験があるナースや患者からも情報を得て、記する。
 ? 本製品の1食は170kcal。味はバナナ、ストロベリー、コーヒー、グリーンティー、ミルクティーなど7種の味がある。
 ? 摂取方法として、レモン汁やコーヒー、ヨーグルトを加えるなど工夫が可能である。凍らせてシャーベット、ゼラチンで固めてもよい。
 ? 本製品で減量に成功するためのに、5つのポイントが記載されている。その第1に「具体的な目標を決めましょう。たとえば、2週間で3kg、4週間でウエスト5cmなどと目標をしっかり決め、絶対やせると強い意志をもつ」とある。
 ? 第5のポイントとして「積極的に身体を動かせばさらに効果的です」とある。
全体的にはダイエットの知識がコンパクトにまとめられている。ただ、?については目標を1ヵ月に2kgとしたい。リバウンドを起こさないのが大切であるからだ。また、絶対やせる、との記述については、短期の目標をクリアーするよりも、心理学的なリスポンスを考慮し、長期の展望をより重視する姿勢が望まれる。
 また、?に関して、運動の重要性は5番目ではなく第1に置いてほしい。対象者がパンフレットを読む場合を考慮した記載であろう。なお、医療従事者のナースでさえも、手軽な情報や魅力的な内容を鵜呑みにする傾向があり、インタビューを通して、不十分な理解を実感した。
 これに関連して、一般人に対する最新のアンケート結果を示す7)。対象者は成人200余名で平均年齢は44.2歳。「健康で悩んでいる点は」に対する上位3項目の回答は、太っている20.2%、疲れ9.0%、腰痛・関節痛9.0%であった。肥満に対する関心の高さが明らかである。診療の場や社会的な機会で、正確な知識やアドバイスをきちんと伝達する必要があると思われる。

おわりに
 本稿では、肥満に対するダイエット指導について、最新の情報を含めて実際に役立つコツやヒントを記述した。今後の医療では、オーダーメイドとまではいかなくとも、各人の個性やライフスタイルに応じた食事や運動を指導し、心理学的なサポートも適切に行っていくことが重要であろう。本稿が臨床もしくは教育の場において、参考となれば幸いである。

文献は省略

表1 医師サイドからみたリバウンドの要因と策

1.対象者は適切か? 減量が必要な状況か
           成功を収めるかどうか
           肥満の改善は
2.画一的な指導か? 患者の状況に応じた柔軟性
           患者のニードは何かを考える
           現実的な方法を選択する
           ノルマを押しつけたりしない
3.減量目標が無理? 医師が数値を設定しない
           患者本人に決めさせる
           実行可能な目標とする
           1ヶ月に2kgまでとする
4.体重のみで判断? 体重という数値だけではない
           運動など日常生活の内容を評価
           腹囲が減れば内臓脂肪も減少
5.減量後に無関心? 減量後にも体重や生活を問診
           ケアは一生涯に継続していく
           生活習慣のポイントをチェック

表2 患者サイドからみたダイエットのヒント

1.自分の生活習慣の特性について、食事や運動を含めた生活日記を1週間つけて、医師にみてもらう。
2.医学的・心理的・社会的・経済的なものさしで考え、現実的で実行可能な方法を医師とよく相談する。
3.目標は体重という数字のみではない。体重に変動がなくても腹囲が減れば、内臓脂肪の減少が予想される。
4.短期の結果で一喜一憂する必要はない。1ヶ月に2kgまで、3-6カ月で体重の5-10%ほどで十分である。
5.運動は絶対必要である。運動をせず痩せた場合、リバ  ウンドなど、逆に有害であることを銘記しておく。

表3 問題となる食行動をチェック

□孤食     □過食    □ばっかり食
□夜食     □偏食    □やけ食い
□欠食     □早食い   □週末過食症候群
□間食     □変食    □拒食  

表4 減量では食べる工夫を

□ 一口で30回噛み、丸飲みをしない
□ 20-30分以上かけてゆっくりと味わう
□ 最初に、サラダや汁物を食べる
□ 一回ずつ箸を置いて、会話を楽しむ
□ 上品な貴族のように、一口残す勇気を持つ

powered by Quick Homepage Maker 4.91
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM