◆ 糖尿病-4 明治天皇

 先週は、糖尿病により腎臓が弱るという話をしました。腎臓は「ざる」または「濾紙」にたとえられます。私たちの腎臓は、体にとって必要なものは体の中に残し、不要な老廃物は捨てるというように、働いています。しかし、糖尿病を患うと、この優秀な濾過装置の調子が悪くなってくるのです。

 この理由を簡単に説明しましょう。糖尿病では,血の中の糖分が多くなります。すると,多すぎる糖分がタンパク質にくっついて、腎臓の細胞がうまく働かなくなるのです。腎臓の病気は、まず、大切なタンパク質が尿に漏れ出てくることから始まります。次に,タンパク尿→むくみ→高血圧→腎不全→尿毒症へと進みます。
尿毒症とは,体にとって毒となる老廃物が、尿の中に出ていかなくなり、体の中に貯まってしまう状態です。放置すると、意識がもうろうとなるなど、命にかかわります。
 その尿毒症を患った方のお一人が、明治天皇(1852-1912)です。47歳ごろから糖尿病を発症されて、最後は糖尿病性尿毒症で崩御されました。当時の医療レベルや食生活には、興味が惹かれます。
 糖尿病は、医学技術が進歩をとげた現代においても、本人の生活習慣が改善されない限り、次第に悪くなってしまいます。

 これは、今も昔も同じです。要は、何度も繰り返しますが、まずは、食事が大切です。私たち日本人はもともと農耕民族でした。本来、私たちの体は穀物や野菜中心の食生活には合い、肉が多い欧米の食生活には合わないとされています。理想的なものは、江戸時代の食事です。時代劇の番組には、お膳の料理が出てきますね。大根の煮物や和え物をはじめ、バラエティに富んだ品々が並んでいます。この和食こそ日本人の体にぴったりの食事なのです。カロリーは控えめで、栄養のバランスも良く、現代の日本人に不足している繊維質(ファイバー)が多く含まれています。噛む回数が多くなり、その信号が脳の満腹中枢に伝えられます。脳は「たくさん食べて満足」と感じて、腹持ちもよいのです。では、明日からどうすればいいのでしょうか?

 アドバイスしましょう。
三つの「白色」を控えてください。塩分、砂糖、そして精白され過ぎたお米です。塩分は血圧を高くして腎臓に負担をかけ、動脈硬化を起こします。砂糖の摂取は、舌が甘い味を覚え、甘い誘惑に負ける習慣により、摂取熱量がオーバー気味になります。精白しすぎると、お米の「胚」に含まれる栄養分豊かな部分がなくなって
しまうからです。

 明治天皇のほかには、当時、フランスに留学して西洋文明にいち早く触れた西園寺公望も糖尿病を患いました。さらに、作家の夏目漱石、画家の岸田劉生、詩人の北原白秋などが、糖尿病で亡くなりました。このうち、多くの人が洋行など外国生活を経験しています。
 明治になり西洋の文明が日本にやってきて、日本は日の出の勢いで近代化しました。しかし、同時に伝わった食習慣で食生活が豊かになり、ぜいたく病の糖尿病がまん延したのは皮肉な話です。

 世は健康ブーム。フィットネスクラブへ通うノリで、健康食たる昔の食生活に挑戦し、体の外と内から健康体を目指してみましょうね。

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