◆ 糖尿病合併妊婦の外来管理

1)妊娠と糖尿病との関係は?
 妊娠すると、身体の代謝・内分泌の環境は変化する。通常、性腺ホルモンは視床下部・下垂体・卵巣の系で機能している。しかし、妊娠中は、胎盤からプロゲステロン、エストロゲン、HPL、ヒト胎盤ゴナドトロピンが分泌され、内分泌環境は大きく変貌する。この際、胎盤からインスリンを分解する蛋白分解酵素が分泌されることによって、インスリン抵抗性を来たすことになる。
 このために、家族歴に糖尿病があるなど、本来、糖尿病の素因を有する患者では、妊娠を契機に新しく糖尿病の発症がみられる。それまでに、糖尿病が明らかになっている場合、糖尿病の状態は悪化する。
 妊娠中は、妊娠前と比して、血糖コントロールのために、インスリンの需要量が増加する。その目安として、1型糖尿病では1.5倍、2型糖尿病では2倍ほどという。なお、本邦における糖尿病妊婦の内訳は、1型が30%、2型が70%の割合でみられる。

 2)妊娠糖尿病のスクリーニング
 妊娠中に発見または発症した糖代謝異常は、妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus, GDM)と呼ばれる。GDMが問題となる主な理由としては、?巨大児分娩が多い、?母体が将来、真の糖尿病に進展する、?胎児の子宮内死亡の可能性、?母体の糖尿病性昏睡の可能性、などが挙げられる。
 妊娠糖尿病のスクリーニング法を図1に示した。総合診療医・家庭医は、本法に従って、チェックしていく。この中で、75gOGTTの結果は、通常と異なる基準で判断する。日本産科婦人科学会1)および日本糖尿病
学会2)による報告に基づいて、空腹時>100mg/dl、1時間>180mg/dl、2時間>150mg/dlの3点のうち2点以上を満たす場合に、GDMと診断する。GDMの場合、分娩後6-12週の間にも、再び75gOGTTを行い評価を行う。
 なお、GDMに対する代表的なリスクファクターには、?家族に糖尿病を有するもの、?肥満者、?35歳以上、?かつて巨大児を分娩したことがあるもの、などがあり、診療の際に注意しておく。その詳細を表1に示した。

 3)厳格な血糖管理が必要
 妊婦で、血糖コントロールが悪くなると、様々な合併症を来す(表2)。きちんと血糖管理が続けば、胎児に対する糖代謝異常の影響は全く認められず、患者に対する詳細な説明を行い、十分理解したかどうかを確認する。
 血糖の正常化とは、どのレベルであろうか?通常の管理よりも、極めて厳格なコントロールが必要である。すなわち、?食前血糖は70~100mg/dl、?食後血糖および2時間血糖値は120mg/dl以下で、できれば100mg/dl以下が望ましい、?HbA1c値は全国の標準正常範囲である4.3~5.8%である。
 HbA1c値と過体重児を分娩する頻度との関係について報告がある。正常者では3.0%であるが、妊婦の場合、HbA1c値が5.5%以下で
8.3%、5.5-7.0%で17.1%、7.0%以上で38%であった。

 4)指導のポイント
 妊婦は若く、子供のために、厳しい食事制限を理解し、血糖管理にも協力的な場合が多い。食事療法として、妊娠初期は標準体重X30kcal+ 150kcal、妊娠後期は標準体重X30kcal + 350kcalを目安とし、ほぼ1200~1440kcalの低カロリーを指示する。
 経口薬を用いず、インスリンで治療し(表3)、厳密な血糖管理には、インスリン注射の回数が多いほど良いことを理解させる。インスリンは、各食前に速効型、就寝前に中間型を使用するとよい。2型糖尿病患者では、インスリン30Rを朝晩に2回投与する方法が、比較的多い。
 指導のポイントを表4に示した。1日7回の測定とは、毎食前と食後2時間、および就寝前の7回である。1週間に1~2回程度測定し、変化がある時にも測定し、これらをきちんと記録をつけておくように指導する。
 また、血糖の変化に応じて、どれほどのインスリン単位数を変えるのかを、わかりやすく伝えておく。また、経過とともにインスリン需要量が増えることも、あらかじめ説明し、刻々と対応することが重要である。
 網膜症や腎症がある場合には、表5のように緊密に連絡をとって診療する。必要時には帝王切開など早期分娩を行うこともあり、眼科医、新生児医、内科医、産科医による緊密な合議で対処する。

文献 1) 妊婦耐糖能異常の診断と管理に関する検討小委員会:周産期委員会報告. 日産婦誌47: 609-610, 1995.
2) 糖尿病診断基準委員会: 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告. 糖尿病42: 385-404, 1999.

表1 妊娠糖尿病のハイリスク因子

糖尿病の家族歴
肥満
35歳以上の年齢
巨大児の既往
尿糖陽性の既往
先天奇形児の分娩歴
原因不明の周産期死亡歴
原因不明の習慣性流早産歴
羊水過多
妊娠中毒症

表2 不良の血糖コントロールにおける合併症

胎児 低血糖、巨大児、呼吸障害、低Ca血症
   高ビリルビン血症、多血症、先天奇形
母体 低血糖、妊娠中毒症、早産、子宮内胎児死亡
   羊水過多症、尿路感染症、網膜症・腎症の増悪
   飢餓性ケトーシス、糖尿病性ケトアシドーシス、

表3 経口薬でなくインスリンを用いる理由

経口薬
 胎盤を通過し胎児の血液中に入る
 分娩後、胎児に低血糖を誘発
インスリン
 胎盤を通過しない
 微妙に血糖を調節できる
 妊娠時はインスリン抵抗性が増加
 胎児のケトアシドーシスを予防
 インスリン需要量の増加に対応

表4 妊婦に対する指導のポイント

食事療法を守る
 食前血糖 70~100mg/dl
 食後血糖 120mg/dl以下 
血糖自己測定を続ける
 1日7回測定を1~2回/週
インスリン注射を行う
 1型DMには3~4回/ 日
 2型DMには2~3回/ 日
HbA1c値の目標
 全国の標準正常範囲
 である4.3~5.8%
妊娠中の体重増加
 1型DMは10kg以下
 2型DMは 8kg以下
 肥満者は 6kg以下

表5 糖尿病妊婦へのアプローチ

妊娠前管理
 血糖コントロール、
 網膜症、腎症のチェック
血糖の正常化
 血糖、HbAic、自己血糖測定
 インスリン注射、食事療法
チーム医療
 教育ナース、栄養士、助産婦、検査技師
 眼科医、新生児医、内科医、産科医

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