◆ 糖尿病・肥満に対する代替療法

代替医療による糖尿病・肥満へのアプローチ

板東 浩(徳島大学医学部第一内科) 
石田 芳彦(石田内科医院)

サマリー
・食品は医薬品(医薬部外品)、保険機能食品、一般食品(健康食品)に大別できる。
・保険機能食品には、特定保健用食品、栄養機能食品(サプリメント)が含まれる。
・特定保健用食品は血圧や血糖など7つの分野で、現在271品目が許可されている。
・糖の吸収をおだやかにさせる特定保健用食品として、現在8品目がある。
・糖尿病に対する薬剤には、朝鮮人参、アロエ、ギムネマ、グアバなどがある。

はじめに
 代替療法は、「現代の西洋医学領域で科学的未検証および臨床未応用の医学/医療体系の総称」(2000年日本補完/代替医療学会)と定義されており、近年急速に普及してきた。この中で糖尿病や肥満に関わるものには、栄養療法や特定保健用食品がある。本稿ではこれらを紹介し、実際的に有用な情報を含めて概説したい。

I. 栄養療法

1)米国の現状
 1992年、NIH内にOffice of Alternative Medicine(OAM)が新設され、健康食品や伝統医療の有効性について科学的検証が開始された。98年には、国立代替/補完医学センター(National Center forComplementary and Alternative Medicine) に改組され、アメリカ食品医薬品局(FDA)が栄養補助食品法を施行した。その中で、医薬品と食品の間に位置する栄養剤/栄養補助食品(わが国では「特定機能食品」が相当)のカテゴリーを新設した。2000年、アメリカ医師会が代替医療に関する本を出版し拡く啓蒙を始めた。今や健康を害している米国人の3分の1以上が、西洋医学に加えて代替療法を実施しており、代替医療は年商150億ドルのビジネスとなっている。

2)日本の現状

1997年に第1回日本代替医療学会が開催され、テーマは「薬効食品の医療への応用」であった。同年、第1回日本臨床漢方医会、日本アロマセラピー学会も開催され本格的な代替医療の検討が開始された。1998年には、厚生省が「いわゆる栄養補助食品の取り扱いに関する検討会」を設置し、2000年には厚生労働相が「栄養補助食品の制度的な取り組み」を報告した。その中で、食品を4つに大別して管理を始めた。それらは、A) 医薬品(医薬部外品を含む)、 B) 特定保健用食品、C) 栄養機能食品(サプリメント)、D) 一般食品(健康食品)である。なお、BとCとが「保健機能食品」と呼ばれる。

II. 特定保健用食品とは

1)トクホとは
 特定保健用食品≪トクホ≫とは、「食生活において特定の保健の目的で摂取するものに対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品」である。栄養改善法第12条第1項に基づき、厚生労働大臣の許可を受けなければならないものとして、平成3年9月1日からスタートした。その特徴は、

・「身体の調子を整える」などの働きがある成分(=「関与する成分」)を加工した食品であり、
・効果や安全性が動物やヒトなどへの試験で科学的に証明され、
・健康表示(健康への効用を示す表現)を厚生大臣が許可した食品、となる。

2)特定保健用食品の分類と数
 平成13年9月の時点で、271品目の特定保健用食品が許可されている。その詳細や本の情報はHPで得られる1)(表1)。
 特定保健用食品は、7つの分野に分類されており、表2に示す2)。
これらは、生活習慣病の発症を予防する目的のものが多い。あくまでも、生活習慣病を気にする「健康な人」が、将来への不安を軽減するために用いる程度と割り切って考えて、患者に対しても適切な説明が必要であろう。

3)血糖値が気になり始めた人の特定保健食品
 特定保健用食品の中で、「糖の吸収をおだやかにして、糖尿病などの生活習慣予防の一次予防に役立つとされる食品」を、表3にまとめた。現在、この範疇では、8つの食品が認可されている3)。また、糖尿病や肥満に対する薬剤および食品の作用機序を表4にまとめた。

 III. 糖尿病に対する代表的な民間薬

 糖尿病に対する伝統的な食物を3つ挙げれば、中国では朝鮮人参、ヨーロッパではアロエ、インドではギムネマとなる。ほかには、グアバ、ヤマイモ、大豆、舞茸などがある。

1)朝鮮人参
 朝鮮人参は、昔から「生津止渇」の薬として使われてきた。口の渇きを止めて、皮膚にうるおいを与えるとされる。中国には、朝鮮人参の7つの効力をまとめた「人参七効説」がある(表5)。この中で、体力増強や咳止めにはギンゼノサイドが働き、皮膚の改善にはパナキサンという多糖類が役だっている。

2)アロエ
 ヨーロッパでは、アロエは昔から「医者いらず」と呼ばれてきた。300種類以上あるが、家庭で栽培されたり健康食品に使われているのは、キダチアロエ、アロエベラである。アロエに含まれるアロエボランやアロエマンナンというような粘液多糖類が、血糖効果作用があり、血糖値を下げるという。
 アロエミチンはガン細胞に対する免疫力を高め、殺菌力のあるアロエチンは風邪を予防し、化膿や水虫にも効果がある。アロエウルシンは、炎症を抑え、潰瘍やただれに有効で、化粧品の成分として多用されている。バルバロイン、アントラキノンは腸の蠕動を高め、下剤として使用できる。

3)ギムネマ
 4000年前からインドに伝わる伝承医学のアーユルベーダでは、ギムネマという植物が糖尿病の薬として使われてきた。ガガイモ科のギムネマシルベスタの葉に由来するギムネマシルベスタ茶が代表的である。ギムネマ酸という成分が、腸管壁からの糖分の吸収を抑制するとされる。
 さらに、ギムネマ酸は、舌の上に膜をはって味覚を鈍くさせ、甘みを感じなくなったり、甘い食物を食べたくなくなるという作用もあるという。以上から、ギムネマは、糖尿病の予防や改善、ダイエットなどに効き目があるとされて、本邦でも使用している人も多い4)。

4)グアバ 
 グアバは熱帯アジア原産の低木である。古くはインカ族が、別名バンジロウを栽培していた。16世紀にフィリピンに、17世紀には台湾や沖縄にも伝えられ、現在琉球諸島で野生化している。
 グアバの果実と葉には、血糖降下作用がある。果実がザクロに似ているため、中国では番石榴(ばんせきりゅう)と命名された。
 中国やインド、東南アジアでは止瀉薬として用い、台湾では糖尿病の治療薬や肥満防止や大腸ガン予防の薬として知られている。インドでは、グアバは神々への献果に加えて、僧侶の禁欲剤ともされる5)。
 特定保健用食品の認可を受けたものに、グアバ葉ポリフェノール飲料がある。小腸における糖質の分解を抑制して、食後の血糖値の上昇をなだらかに抑える。食後1時間後の血糖が165から150mg/dlまでに抑制されている6)。

おわりに
 本稿では、糖尿病に対する代替療法について、主に、民間薬について記述した。
 「糖の吸収をゆるやかにする」という作用は、αグルコシダーゼ阻害薬である、アカルボース(グルコバイ)やボグリボース(ベイスン)と同様なものと考えられる。ただ、その作用の強さが軽微であるので、副作用もなく安全性も高いと言えばそうかもしれない。この程度であれば、他の代替の行動・方法として、食事の中に食物繊維を多くしたり、食後に散歩をしたり、食事の摂取量を少なくしたり、という方法で、ほぼ同等の効果が得られるであろう。
 従って、本稿の内容は、糖尿病の患者よりも、将来、生活習慣病である糖尿病が心配される現在「健康な人」に対して、日常の食生活の一助として、有用であると言えるのではないだろうか?

文献・資料
1) http://www.health-station.com/jhnfa/news.htm 
2) http://channel.goo.ne.jp/health/product/tokuho/ 
3) http://channel.goo.ne.jp/health/product/tokuho/list11.html
4) 林 輝明。食医が見立てる症状別健康食品の選び方。現代書林。
5) 漢方のくすりの事典 ー生薬・ハーブ・民間薬ー 医歯薬出版 
6) http://www.kochi-yakult.co.jp/new/guaba/index.htm

  表1 特定保健用食品の本とビデオ

・特保技術部会活動報告書『特定保健用食品のあり 方』、4,000円
・『特定保健用食品の申請・評価に関する指針解説』、2,000円
・特定保健用食品・トクホごあんない2001年度版』400円
・『特定保健用食品・トクホ紹介ビデオ』 約20分: 3,000円、約5分: 2,000円

  表2 特定保健用食品の分類

 1)おなかの調子を整える食品
 2)コレステロールが高めの人の食品
 3)血圧が高めの人の食品
 4)血糖値が気になり始めた人の食品
 5)ミネラル(カルシウム、鉄)の吸収を助ける食品
 6)食後の血中の中性脂肪を抑え、体脂肪をつきにくくする食品
 7)虫歯になりにくい食品

表3は、別紙に記載、

表4 糖尿病、肥満症に対する薬剤および民間薬の作用機序

1)消化吸収阻害物質
  α-アミラーゼインヒビター:アカルボース、ボグリボース 元来、大豆から抽出され”スターチブロッカ   ー”と呼ばれ一時欧米でやせ薬として使用されたが活性と副作用の問題で消滅。以後、遺伝子組み換え技術  で製造。さらに消化の進んだ段階で働くα-グルコシダーゼインヒビターも開発中。
2)リパーゼインヒビター
3)食物繊維

   キトサン:腸管内で胆汁酸と結合し再吸収を抑え、体内でのコレステロールの原料となるのを抑える。

  オリゴ糖:甘味や満腹感を与えつつ脂質の吸収を抑制する。
4)体脂肪異化促進物質
  基礎代謝を上昇させ体脂肪の燃焼を促進 脂肪細胞の脂肪取り込みを抑制:中鎖脂肪酸、ジアシルグリセロールなど
5)食欲抑制物質
  セントジョーズウォート:抗肥満作用(セロトニン再吸収阻害作用)
6)インスリン抵抗性改善物質
  カイアポイモ、ギムネマ酸、クロム

 表5 朝鮮人参の「人参七効説」

1)体力を増強し、疲労を回復する
2)貧血を改善し、虚弱体質を治す
3)自律神経の狂いを正常化し、動悸や不眠を改善したりストレスを解消する。
4)糖尿病を改善する
5)咳をとめる
6)胃腸を丈夫にし、下痢や便秘をなおす
7)皮膚病を改善する

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