◆ 生活習慣病の管理

Summary
・栄養、運動、休養、喫煙、飲酒の5者の適切な管理が治療の原則である。
・患者自身に疾病を理解させ、行動変容を起こすように指導する。
・相手に応じて説明の方法を工夫し、患者が進んで治療するように支持する。
・運動療法指導料、運動の処方箋料が保険で認められ、今後増加が予想される。
・心理的アプローチは重要で、特に否認に対する対応が望まれる。

はじめに
 生活習慣病管理のためのインフォームドコンセントは、患者自身に疾病を理解させ、行動変容を起こすように指導することにある。多くの疾病が含まれるが、適切な食事、運動、休養、嗜好の習慣が、共通した治療となる。
 本稿では、プライマリ・ケアの現場で、患者に簡潔で明瞭に説明できるように、実際的で役に立つ内容を記したい。

 1・生活習慣病
 1970年代に米国で行われた調査で、7つの健康習慣の有無が、寿命に影響することが確認された(表1)。1978年には、聖路加病院の日野原重明先生が「生活習慣病」という用語を提唱し、90年代になってようやく厚生省が本用語を導入した。
 本邦の三大死因は、生活習慣病であるガン、心臓病、脳卒中である。1年間の全死亡者の92万人中の60%の55万人は、この3大原因で亡くなっている。ガン発症の調査では、食事と喫煙がいずれも全体の1/3で、これに飲酒を足すと、約2/3は生活習慣が原因で発症するとされる。
 5つの因子とは、栄養、運動、休養、喫煙、飲酒である。現在、本邦で生活習慣病に属する疾患を表2に示した。生活習慣病誘発の因子を表3に、予防の因子を表4に示したので活用されたい。
 厚生省は、従来の3大成人病に糖尿病を加えて、1)糖尿病対策、2)脳卒中対策、3)ガン・循環器病対策、を進めている。厚生省から唱える「健康日本21」の中に、生活習慣の目標が掲げられて
いるので参考にされたい(表5)。
 
 2・生活習慣病はなぜ起こる?
 喫煙や過度のアルコール摂取、ストレスなどは、体内で活性酸素を増やす。これが体内の様々な組織を攻撃して変化させ、ガンなどの病気が発症してくる。また、過酸化脂質が血管に付着して、周囲を酸化させ変質させる。これにLDLなどが付着し、動脈の内腔が狭窄や閉塞に至り、動脈硬化が進む。
 この活性酸素を消すのが、抗酸化物質である。野菜には強い抗酸化力を持つ物質がある。カロチノイドという色素の仲間(βーカロチン、リコピン、カプサンチンなど)やフラボノイド、ビタミンEやCといった抗酸化ビタミンなどである。従って、野菜の摂取は、生活習慣病の予防につながるのである。以上の説明は、説得力および客観性に富むので有用と思われる。

 3・患者指導に役立つ方法 
 プライマリ・ケア医学では、患者に対する説明を重要視する。筆者は米国の家庭医学レジデンシープログラムで臨床研修を行った経験があり、具体例を紹介する。
 パンフレットを患者に渡し、どれくらい読んだかを調査した研究である。
 1)単に渡すだけの場合、家に帰って読むのは10人中たった2人
 2)医師自身が、「あなたの場合はここが重要」と、アンダーラインを引いて説明すると、10人中6人は読んでくる。
 3)アンダーラインを引いて、「次回来院時にチェックしますよ」と言うと、10人中9人は読んでくる。
 このように、医師のささいな配慮によって、指導の効果は大きくなる。本邦に多くあるものか、各施設で作成した生活習慣病のパンフレットをうまく活用し、一言つけ加えよう。

 4・相手に応じた説明を
 1)理論派:自己管理能力は高いので、正確な知識を提供する。毎回議論すれば、興味を持ちつつコントロールできる。  
 2)自由奔放型:好きな生活スタイルを望む。最初に詳細な説明は混乱を招く。毎回1つずつ話題を提供し指導する。
 3)お任せ型:難しいことは面倒と感じている。詳しい理由は不要で、ポイントのみを強調する。家族にも同席してもらう。
 4)情報過多型:ドクターショッピングで、診断や治療方針の差異に固執する。説明しても懐疑的。氾濫する医療情報ではなく、ガイドラインや診療基準を示して、理解させる。

 5・数字でたとえ話 
 数字をうまく用いて、たとえ話をすると納得しやすい。糖尿病や痛風の具体例を表6に示した。風邪で発熱した場合の対応は、患者が身近に感じられるからである。

 6・運動療法について
 1960年台には運動不足病という認識が提唱された。運動の重要性を平易に説明しておく(表7)。
 このたび、運動療法指導料、運動の処方箋料が保険で認められた。個々に応じて指導する。成書に紹介されている運動の処方箋例に準じて、tailor-madeの処方箋を作成する。エネルギー消費の目安として、簡便な表を示した(表8)
 通常、散歩を推奨するが、運動療法ではなく歩行療法と説明する。歩行が良い理由は、筋肉が収縮と弛緩を繰り返すことで、血流や血管への刺激も適度な有酸素運動であるからである。
 単に「散歩しなさい」と指導している医者はダメである。患者のライフスタイルや生き甲斐を把握し、歩行療法を生活に取り入れるようにする。使い捨てカメラを持って散歩して、1日1枚、好きな景色を撮ろう、という楽しみ方を示唆してもよい。
 時間がなくて散歩できない、と患者は言う。本当に歩く暇もないのか?医師の腕のみせどころである。生活日記をみながら患者と一緒に考えてみよう。

 7)心理的アプローチ
 患者のセルフケアの行動変化ステージを表9に示す。どの段階かによって、指導法は異なる。医師の説明に対する患者の反応には、衝撃、否認、直面化、適応、合理化、再調整などがある。この中で、
否認について、具体例を表10に示す。
 概して、自己責任能力が低い患者が、生活習慣病に罹患しやすい。自己管理やコンプライアンスに問題がある場合には、患者に対してアイデンティティの再構成を行う。自分とは何か、社会での役割、家庭での役割、将来の夢は、目標は、健康がどのように関わっているか、などを問いかける。
 慢性疾患と長期につきあっていく患者をマネージするには、行動科学の知識が不可欠である。患者への対応について、表11にヒントを示した。

おわりに
 本稿の内容は、筆者の日常診療および数百回におよぶ生活習慣病に関する講演活動の経験からまとめたものである。読者の先生方の診療に参考となる情報が含まれていれば、幸いである。

以上が本文、図表はカット あとは予備の文章

 8・代替治療
 米国のNIHには「代替療法対策室」が設置され、医学校の多くにその講義ある。代替療法には、鍼灸や漢方、音楽療法、アロマテラピーなどが含まれるが、主流は栄養療法である。本邦でも次第に様々な療法が広がりつつある。
 厚生省は、健康食品について、「いわゆる栄養補助食品の取り扱いに関する検討会」を設置し、「特定保健用食品」として、体調を整える機能医が期待できる食品を認可した。後者は錠剤やカプセルではなく、血圧が高めの食品、お腹の調子を整える食品、など100種を越えている。

 9・食事について
 1)摂取エネルギーについて、標準体重あたり1日30-35kcal/kgで十分である。60kgでは1800-2100kcal、それについては、食品交換表のイラストや絵を見せて指導するとよい。
 2)脂質の過剰摂取。タンパク質、脂質、糖質の3大栄養素のうち、脂質割合の上限は25%とされるが、近年、増えている。70年代は23%から現在27%まで増加している。
 3)塩分については、1日10g以下がめやす、だが、日本時の平均は12-13gで、上回っている。日本の伝統的な和食は、栄養のバランス、豊富な食物繊維などの天から、健康食として優れている。ただ、食塩が多い欠点があり、減塩の工夫が必要。
 4)食事時間:
・早食い、咀嚼回数の減少し、血糖値が上昇せず満腹感を得られないことから過食になりやすい。
・欠食:朝食を抜くと、体が飢餓状態に適応しようとするために、食事の際の栄養素の吸収が異常に更新し、肥満につながる。
・間食・夜食:間食が必要な場合は、1日の摂取エネルギーを考慮する。間食のメニューは通常、油分、塩分が多い。夜間は副交感神経の働きが更新し、栄養素の吸収が亢進し、肥満になりやすい。
 5)タンパク質:
 通常1日1.0-1.2g/標準体重kgを摂取する。鶏卵や大豆などは、必須アミノ酸を効率よく含み,タンパク価(プロテインスコア)が指標となる。
 6)脂質:
 脂質の過剰摂取が問題となっているが、摂取不足でははある程度必要である。牛、豚などの肉には脂質が多い。魚類の脂質には、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)など身体に良い脂質が含まれので推奨したい。
 7)糖質:
 糖質とは、炭水化物から繊維を除いたもの。その種類には、でんぷん(米、麦、じゃがいも)、ショ糖(砂糖)、乳糖、果糖などがある。糖質は小腸粘膜で主にブドウ糖(グルコース)となって吸収され、肝臓を経て各組織へ。インスリンの働きにおり細胞内に取り込まれ、ATPを産生しエネルギーとなる。インスリンが不足
すると、ブドウ糖を細胞内に取り込むことができないので、細胞外の血糖が高くなるのである。
 8)3大栄養素のバランス:
 1日30品目をめざし、できるだけ他種類の食品を摂取し、栄養素の偏りを避ける。朝食のみそ汁だけでも10品目近く摂取できる。エネルギー比で、蛋白質・脂質・糖質の比率を20%:20%:60%程度を目標とする。
 9)ビタミン:
 ビタミンは様々な代謝を円滑に進める触媒、または潤滑油のように働く。通常の本邦の生活では欠乏症はないが、偏食があればみられる。水溶性ビタミンはB1, B2, B6, B12, C, ナイアシン、葉酸などで、過剰症はない。脂溶性ビタミンはA, D, E, Fで摂取過剰により過剰症を生じることがある。
 10)ミネラル
 カルシウムは成人で1日に600mg必要である。小魚、ひじき、小松菜など多く、牛乳は消化管からの吸収がよい。骨骨粗鬆症では摂取が推奨される。
 マグネシウムは、Caが血管に沈着するのを防ぎ、大豆、ごぼう、魚介類に多い。Ca/Mg摂取比が重要である。
 ナトリウムは細胞外液のpH、浸透圧の調整など重要な働きがある。摂取過剰は、体液量を増加させ、高血圧をまねく。高血圧、心疾患、腎疾患では塩分摂取を控える。
 カリウムは、ナトリウムと置き換わることで、血管拡張や血圧を低下させる。高血圧の予防には、1日に3.5gの摂取が望ましい。果物、野菜、海草などに多く含まれる。
 11)食物繊維:
 食物繊維は消化管の活動を高め、便量を増加し、腸の蠕動を高め、便秘を予防する。1日に20-25gn摂取が望ましいが、本邦では摂取不足の状態である。

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