◆ 歯の痛みに効く漢方薬

 歯髄炎や歯根膜炎では、歯髄処置や根管治療などの歯科治療が先決で、漢方はあくまで補助手段として使用する。一方、根管充填後や抜歯後の疼痛の場合には漢方が適応できる。
 本稿では、「立効散」を紹介し解説したい。本薬は、抜歯後および歯痛、額顔面領域の疼痛に適応される歯科領域で、健康保険適応となる数少ない漢方薬である。体力や証に関係がなく(1)、臨床の場で用いやすい薬剤である。
 立効散エキス7.5g(ツムラ)の主成分と作用は下記の通りである(2,3)。
 細辛 2.0g 解熱・抗菌・鎮痛(局所の麻酔作用)・鎮静作用、
 防風 2.0g 発汗・解熱・鎮痛・利尿・抗ウイルス作用、
 升麻 2.0g 解熱・解毒・鎮痛作用、
 甘草 1.5g 甘味効果
 竜丹 1.0g 解毒・抗炎症作用・コルチコイド様作用・水分の排出を抑制し他の薬物の作用を緩和する。
立効散の服用方法は、本薬を白湯に溶かし、10秒間口腔内に含んでから服用する。その際に口にふくんでゆっくり服用するとよい。その理由は、主成分の細辛が局所麻酔の効果を有するからである。そのため、含嗽でも鎮痛効果が期待でき(5)、10分程度の含嗽で30-40分程度の疼痛抑制効果があるという(4)。
 抜歯術を受けた50例に対する立効散の鎮痛効果をみた報告がある(4)。普通抜歯では著効21.6%、有効35.1%、やや有効34.1%、無効8.1%で、難抜歯では著効15.4%、無効30.8%であった。普通抜歯による軽度疼痛にはよく効くが、抜歯が困難など強い疼痛には効果が弱いとされる。患者が評価した鎮痛効果と証による効果との検討では、証による効果の差異はなかった。証にこだわらない処方が可能で、使いやすい漢方薬と
考えられる。
 本薬には特に副作用はなく、アスピリン喘息患者でも発作は認められなかった(4)。ただ、使用感として、苦味22%、臭意8%、量の多さ16%、の訴えがあるので、あらかじめ患者に説明しておくとよい(4)。
 この領域でほかに重要なものに、口内炎と舌痛症がある。口内炎には黄通湯や半夏しゃ心湯が用いられる(6)。また、非定型的で多岐な症状として、舌の痛みを訴える患者が近年増加している。理学的所見や臨床検査、病態生理が明らかではないが、加味しょうよう散が用いられている(7)。

1)福岡 明。歯科医療に、代替医療はこんなに活用されている。日本歯科評論686: 173-184, 1999
2)原 桃介:漢方の症と体質.代謝29:60-71 ,1992
3)岡村興一:歯科臨床に役立つ漢方の合理的視点?冷水痛を伴う歯痛.Quint,14:81-84,1995
4)吉野昇:日口診誌.第13巻 第1号:107-112 ,2000
5)山口孝二郎ほか:摂食事の疼痛緩和に漢方薬が有効であった舌癌の1症例.痛みと漢方,12,87-90,2002
6) 宮崎瑞明:歯科口腔疾患の漢方治療について. 漢方の臨床46:1163-1176, 1999
7)兵東巌:舌痛症に対する漢方薬の使用経験.日本東洋医学雑誌,51-3:437-446,2000

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