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歌とダンスと音楽と

歌とダンスと音楽と

ステージでは二人の男性ダンサーが踊っている。白のシャツに黒の
ズボン姿で、身体をくねらせ長い手足が印象的だ。そこに一人の女性が
加わった。ひらひらとしたドレスを身に纏い、バイオリンを華麗に
弾き始めた。最初は、それぞれのペースでばらばらだったが、次第に
音楽と舞踏が互いに歩み寄って、融合してきた・・・。

 これは、先日、新国立劇場で行われたコンテンポラリ-ダンス
「Close the door, open your mouth」の一こまである。振付は世界で
注目を浴びている伊藤キム氏。舞台には伊藤本人、一流のダンサー、
歌手、バイオリンやチェロなどの演奏者が共演した。

 ダンサーは、バイオリンの波動に共鳴したのかのように、衝動に
かられて歌い始めたのである。驚いたことに、二人のダンサーは
カウンターテナーだった。裏声を使って、澄み切った高い声で歌う。
その発声法は正統なもので、専門的な指導を受けて訓練を続けている
ことがわかる。一流のダンサーであるとともに一流の歌手でもあっ
たのだ。

 清々しい声は私の心の琴線を振るわせ、心の中に様々な映像が蘇って
きた。透明感のある声で米良美一さんがテーマ曲を歌っていた映画
「もののけ姫」。この映画がきっかけで、カウンターテナー歌手が
世に認められたのだった。また、18世紀に活躍したソプラノ歌手
ファリネッリを主人公に描いた映画「カストラート」。兄に去勢
(カストレーション)されたことで「神の声」を与えられ、兄が作曲
した歌で名声を勝ち得たが、天才作曲家ヘンデルとの確執もあり、
波乱に満ちた生涯を送ったのだった。

 こんな思いに耽っていて、ハッと我にかえった。静まりかえった
会場に、カウンターテナーの声が小さく響きだす。一筋の光のようだ。
これに、もう一人の声が加わり、バイオリンやビオラ、チェロなど
弦楽四重奏がおり重なっていくハーモニーの世界。音楽が盛り上が
れば、舞踏も激しくなりクライマックスへ。調子に乗りすぎて、
二人のダンサーは演奏している女性のバイオリニストの背中と足を支え、
高々と頭の上に持ち上げてしまった。それでも、彼女は全く気に介さず、
難曲を完璧に弾き続けていたのである。

 この舞台では、ダンサーは舞踏で、演奏家は音楽で、演出家はストー
リーで互いにコミュニケーションを行っている。嬉しい、悲しい、腹が
立つという基本的な気持ちだけでなく、気恥ずかしい、寂しい、ため
らい、などの複雑な情感も表現している。それも、言葉ではなく、
ちょっとした仕草やウィットを込めた音楽の編曲によって、観衆を
癒し和ませてくれる、これらがとっても魅力的でお洒落に感じたの
である。

 以前私は、米国でクラシックバレーの舞台を観たことがある。
アメリカで生まれ育ったバレリーナは、マニュアルで覚えたような
手足の動きだった。一方、韓国出身のキムというプリマドンナの踊りは、
恥じらいやはにかみなど、東洋の文化圏で育まれて体得された細かな
情感が伝わってきた。また、インドネシアのダンスのように、ちょっと
した眼差しや手指の先のほんのわずかな動きにも、ほのかな色気が
漂っていた。

 近年、日本の新しいダンスには、大きな展開がみられる。フランス
では1960年代に、近代思想を中心とするあらゆる既成概念や芸術意識
が見直される芸術革命があり、ここからヌーヴェルダンスが誕生した。
その後、70年代後半から急激な社会風俗の変化に対応した若者文化が
花開いた。1986年には勅使河原三郎が国際コンクールで入賞し、現代
日本のコンテンポラリーダンスの活躍へとつながってきている。今や、
世界はグローバルスタンダードの時代。今後、諸外国の言葉、文化、
習慣、芸術、芸能に触れて感性を磨けば、日本人の舞踏家は、さらに
世界の舞台で羽ばたくことになるだろう。

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