◆ 抗加齢とエネルギー代謝1

●1:エネルギーと栄養
 ヒトにはエネルギーが必要である。それは、
1)乳児期から青年期に成長するため、
2)損傷を受けた組織を修復するため 、
3)生命を維持して活動していくため、
である。そのエネルギーは、身体の外部から物質を摂取することで獲得する。その過程が栄養(nutrition)で、基本となる物質が栄養素(nutrient)であり、下記の5種がある1)。
1)炭水化物(carbohydrate)
2)脂質(lipid)
3)タンパク質(protein)
4)ビタミン(vitamin)
5)無機質(mineral)
 生存のために栄養素は必須である。その理由は、
1)エネルギーの産生:主に糖質と脂質が使われる。体温維持や筋肉活動、酵素反応などのエネルギーを供給する。
2)代謝を調節:タンパク質が酵素やホルモンなどを構成する。ビタミンは補酵素として、ミネラルは酵素活性、筋肉の収縮などに働く。
3)身体の成分を構成:主にタンパク質と脂質が組織を作る。しかし、栄養素すべてが細胞の構成に関わっている。
 以上が様々に関わることにより、体内で種々の物質が合成されるのを同化反応(anabolism)、エネルギー産生のために物質が分解されるのを異化反応(catabolism)という。

●2:糖質の代謝
 糖質は炭水化物とも呼ばれ、Cn(H2O)nで表される。主にデンプンやショ糖の形で食物に含まれ、消化管で単糖類に分解され吸収される。糖質の種類のポイントを示す。
1) 単糖類
 ブドウ糖:脳のエネルギー源
 果糖:果物や蜂蜜に含む、別名フルクトース
 ガラクトース:二糖類や多糖類で存在
2) 二糖類
 ショ糖:砂糖の成分、ブドウ糖+果糖、
 乳糖:ほ乳類の乳、ブドウ糖+ガラクトース
 麦芽糖:ブドウ糖+ブドウ糖、別名マルトース
3) 多糖類
 でんぷん:穀類やイモに含まれる
 グリコーゲン:肝臓や筋肉にエネルギーを貯蔵
 セルロース、ペクチン:食物繊維
単糖類の中で代表的なものがブドウ糖(glucose)だ。ブドウ糖は解糖を受けてTCA回路でATPを産生し、これがエネルギーとなる(図1)。
 エネルギー源であるブドウ糖は、肝臓や筋肉の中にグリコーゲンという形で貯蔵される。そして、必要な時には、容易に分解されてエネルギーを供給する。糖質1gは4kcalの熱量を有する。
 生体内には300~400gの糖が、主に肝臓や筋肉にグリコーゲンとして存在する。絶食を行うと1日ですべて消費される量である。従って、エネルギー貯蔵として大きな働きは望めない。

●3:脂質の代謝
 脂質は、脂肪酸などを含む一群の物質の総称である。人の血液中には、
1)中性脂肪(triglyceride)、
2)リン脂質(phospholipd)、
3)ステロール(sterol)、
4)遊離脂肪酸(free fatty acid; FFA)
などがある。
 構成元素は、CとHとOである。臨床的には、血清コレステロール、中性脂肪、HDL値が重要である。栄養学的には、必須脂肪酸であるリノール酸、リノレン酸、アラキドン酸がある。
 脂質の主な働きとして、まず貯蔵栄養があり、そして必要時に大きなエネルギーを生み出すことがある。糖質やタンパク質に比べて、1gあたりの熱量が9kcal/gと大きいからだ。
 血中では、脂質はタンパクと結合してリポタンパクの形態で存在する。その種類には、カイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDLがある。
 脂質の代謝として、脂肪酸がβ酸化したアセチル-CoAはTCA回路に入ってエネルギーを生み出したり、ケトン体を産生する(図1)。

●4:タンパク質の代謝
 タンパク質は20種類のアミノ酸が数十~数千つながってできたものである。アミノ酸には、アミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)があり、種類は、側鎖(R)の部分で決定される。
 体内のタンパク質は、身体を構成する成分になる「構造タンパク質」と、体の中で様々に働く「機能タンパク質」とに大別される。
 体内に取り入れられたタンパク質は、消化管でアミノ酸に分解される。アミノ酸は吸収されて、アミノ酸プールを形成し、下記の代謝を営む。
1)窒素化合物の原料:核酸やホルモンを合成
2)タンパク質を合成:必要な状況に応じて作る
3)エネルギー源:必要時には分解される
4)再合成:糖質や脂質、他のアミノ酸に合成
 アミノ酸が分解された場合、その窒素は尿素サイクルに入り尿中に排泄される。通常は窒素平衡が保たれ摂取N量と排泄N量は等しい。しかし、タンパク異化が相対的に多くなれば、窒素平衡は負となる。熱量は糖質と同様に4kcal/gである。

●5:エネルギーと3大栄養素
 3大栄養素である糖質、脂質、タンパク質は、代謝されてTCA回路に入ることができる(図1)。TCA回路は、アデノシン三リン酸(ATP)を生成し、ATP 1分子は8 kcalのエネルギーを有する。ブドウ糖1分子が完全な好気的な代謝を受けた場合、38個のATPを産生する1)。
 3大栄養素の代謝ルートから、相互の変換がある範囲内で可能である。この基礎的事実は臨床的事象につながってくる。たとえば、
1)糖質を過剰摂取すると脂肪沈着が起こる
2)脂質の過剰摂取により血糖値が上昇する
3)糖質を摂取しなくても血糖値はほぼ一定
4)絶食時、脂質やタンパク質から熱量を産生
などがある。タンパク質の異化を抑制するには、糖質投与が必要だ。これはproteinsparing effectとして知られる。絶食時には、糖質100gの投与によりタンパク質の異化は半減するという。

●6:エイジングに対する代謝の影響
 3大栄養素の中で、エイジングに大きく影響するのはタンパク質代謝である。高齢者ではタンパク質の同化よりも異化が相対的に多く、タンパク代謝が負のバランスになりがちだ2)。
 そのために、高齢者は若年者よりも筋肉量が減り3)、筋肉量、筋のパワー、最大酸素摂取量なども少ない4)。この理由として、ミトコンドリアの活性低下やミトコンドリアでのタンパク合成速度の低下がある。さらに、筋肉収縮で主なタンパク質であるミオシンのH鎖(MHC)の合成速度の低下などもある3,4)。しかし、高齢者でもレジスタンス系の運動を行うことにより、MHCの合成速度や筋力が改善されるという4)。
 また、タンパク質の吸収も影響する。食後のタンパク質摂取に対する吸収速度は、年齢によって蛋白の吸収、代謝、合成の速度が異なる5)。タンパク質として、速く吸収されるホエイと遅く吸収されるカゼインを比較すると、高齢者では前者がより効果的であるという5)。
 筋力が増大するのは、骨格筋細胞数の増加ではなく、筋細胞の増大と分節数の増加のためである6)。このメカニズムには、筋の興奮性の反復と筋細胞の直径の増大とがある。後者に対して、抗加齢作用を有する成長ホルモン、インスリン、テストステロン、DHEA、甲状腺ホルモンなどのホルモンが働きかける7)。

文献
1) 岡 博. 代謝・栄養の異常. 内科学 第5版. 上田英雄監修, 朝倉書店, 東京,p1473-1483, 1991.
2)Starling RD. Energy expenditure and aging: effets of physical activity.Int J Sport Nutr Exerc Metab. Suppl: 208-217, 2001.
3) Yarasheski KE. exercise, aging and muscle protein metabolism. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 58(10): 918-922, 2003.
4) Short KR, Nair KS. muscle protein metabolism and the sarcopenia of aging.Int J Sport Nutr Exerc Metab. Suppl: S119-127, 2001.
5) Dangin M, Boirie Y, Guillet C, Beaufrere B. Influence of the protein digestion rate on protein turnover in young and elderly subjects. J Nutr.132:3228-3233, 2002.
6) 中屋 豊, 馬渡一諭. 筋肉をつけるための栄養学. 治療 85(11):2993-2997,2003.
7) 米井嘉一. 動脈硬化. 抗加齢医学の基礎. 日本抗加齢医学研究会監修,2001.p137-148, 2001.

図1 栄養素の相互変換
   (上代淑人監訳:ハーパー生化学, 1986)

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