手足を使って脳若く

 平成14年夏は、とてもスリリングだった。私の両手両足が最大限に刺激されたからである。手足が動けば脳もよく働く。さらに脳から手足に命令が伝われば、可能性も広がっていくだろう。

 平成14年7月には、スキー選手とスケート選手が一緒に競う「全国スラローム大会inモンデウス」が開催された。場所は岐阜県の飛騨高山で、モンデウススキー場に隣接した広い駐車場。やや斜面があり、路面は通常のアサファルト舗装だ。
 
 競技種目は「ジャイアントスラローム」と「スラローム」の2つ。これらは、かつてスキー競技で使われていた用語の「大回転」と「回転」にほぼ相当する。雪面をスキーで滑る代わりに、路面をインラインスケートで滑るのだ。いずれも、赤と青の旗門を通過し、タイムを競うもの。

 スキー選手は夏のトレーニングとして、インラインスケートを取り入れている。スキー板で滑るイメージで、滑降する。その際には、パラレルターンのように、両足を揃えている。

 一方、スケート選手の動作は根本的に異なる。滑るときは通常片足ずつ。アイススケートのスピード、フィギア、ホッケーのいずれの競技でも、片足で滑るのが普通だ。

 私は今までにスラローム競技で運良く入賞歴がある1)。ジグザグには滑るが、旗門がそれほど左右に振られていないので、片足で滑走できた。しかし、今回の大会では、左右への振り幅が大きく、片足で滑ると曲がりきれず、間違いなくコース外に飛び出してしまう。両足を揃えて滑り、スキーのようにテイルを横滑りさせたり、減速しなければターンできない。タイムを目指せば曲がれない、ゆっくり曲がればタイムが遅くなる。この兼ね合いがポイントだ。

 もうひとつの課題は、可倒式のポールを、いかに攻めるかである。スキー競技を映像で見ると、旗門ぎりぎりに内側を通過している。身体を倒して膝や上肢でうまくポールを押し倒し、できるだけ最短距離を滑っているようだ。

 私は、スケートとスキーの動作をビデオで研究した。スケートのターンでは、外側の足で体重を支え、身体の重心をかかとから足先に移動し、最後にぐっと押さえて蹴るのである。

 一方、スキーのターンでは、両足が微妙に関わり合う。最初、体重の重心は谷足の上にあり、曲がりながら重心が次第に山足に移動。スキー板のインの部分で雪を削り取りながら、方向を変える。近年は、先端とテイルが丸くなった「○○スキー」に変わった。軽い力で楽にターンができるのだ。スノーボードにも応用され、種目に応じて4種類あるという。なんと、スピード用のアイススケートの刃でも、先端と後ろが幅が広く、中央部が薄い特殊の刃が研究されているとつつあるというのは驚きだ。

 インラインスケート靴で両足を揃えてターンをする場合、どうすれば最大限に力を有効に使えかを考え。私見だが、1)左右の足の両方、2)かかととつま先の両方、3)外側エッジと内側エッジの両方、これらを無駄なく組み合わせたら、相乗効果が得られないだろうか。

 次に大切なのは、可倒式のポールに対する手や前腕、上腕、肩の使い方。私は路面の上に小さなパイロンを置き、その上に旗がついたポールをイメージして、手ではらう動作をしながら滑る練習をした。手の動きに注意を向けると、足の動きを忘れる。かかとやつま先など下肢に意識を向けると、上肢の動きを忘れてしまう。難しかった。

 大会の当日。この大会には、国体のスキー代表選手など150名が参加。タイムの測定は、国際大会でも使用しているシステムで千分の1秒まで計測できる。オリンピックのスキー競技のスタートと同様に、ピッピッピ、ピーの音でスタート。

 ジャイアントスラロームの1本目。スタートラインから12mで1本目の関門だ。最初の5本目までは楽だった。6本目から急ターンで、ブレーキをかけなければ曲がりきれない。ポールに激突しそうになりながら、どうにか走破した。

 各部門のトップタイムは、一般男子が25秒台、高校生男子が26秒台、シニア男子が27秒台、一般女子は29秒台。私は28秒台で、シニアで2番目の成績だった。2本目を滑った合計タイムで、私は3位に入賞できた。

 もうひとつのスラローム競技では、急ターンの連続。未熟な私は焦って、すぐに頭の中は真っ白。スタート直前に考えていた注意点などは、一発に吹っ飛んでしまった。急ブレーキを頻回にかけながら、ようやく滑り終えた。手や足のリズムは、全くばらばら。スキー選手はストックを使い、柔らかい膝の動きでしなやかに滑降していた。この競技で私は10位で、総合7位となった。 

 私は結果には全くこだわらず、自分なりに工夫した練習を楽しんだ。それにしても、手と足とに意識を集中させるのは、至難の技と感じた。

 さて、次は8月の話。徳島では15年前からジャズストリートが開催されてきた。徳島市の歓楽街には、ジャズスポットが多く、この夏は12のライブハウスで開催された。各会場とも熱気ムンムンで、阿波踊りの前奏曲として、暑い夏をさらに熱くフィーバーさせたのである。

 以前から、友人とDr. B & Brothersというジャズバンドを組んでいる。「今回はタップダンスと音楽というテーマでどうだろうか」とメンバーに相談し、スケジュールを調整していた。すると困ったこととして、どうしてもドラマーが都合がつかない。今回はあきらめようかな、と思ったとき、ハタと気がついた。

 キーボードができる人がいるので、私がドラムを叩けば、この問題は解決!天才バカボンのように「それでよいのだ!」。とても単純な思いつきだが、本当に大丈夫か?

 ただちに友人に相談し、教えてもらうことに。ただし時間がないので、まず曲を決定し、それを目標に、最短時間で恥ずかしくないレベルになるように指導してもらった。概して、右手は一定のリズムで、シンバルを叩く。左手は、いろいろな装飾的な音を入れたりする。右足は平易に言えば、大太鼓の担当。左足がとても重要だ。シンバルが二枚上下に組み合わさった「ハイハット」という名前の楽器がある。足でペダルを踏むと、シンバルが上下に動いて音が出る。この楽器が、リズムを刻むのに主要な働きを演じる。4拍子の曲なら、2拍目と4拍目にカシャという音が必要だ。

 今回のコマンドは、短時間で上手になれ、と「ミッション」が下されたようなもの。[MissionImpossible]ではみんなが困ることになる。

 どのように練習していくか。数時間ドラムを叩き続けても、指や手を痛めるだけ。足に靴擦れができるように、指にスティック擦れを起こしてしまう。英語の学習や楽器の習熟法を参考に、15分間ずつ集中し、1日に何回も練習を試みた。

 2本のスティックをいつでもどこでも持ち歩いた。時間をみつけては、分厚い電話帳を机の上に置いて、スティックの基本練習。最初は、思うように叩けない。どうしても微妙にリズムが狂う。しばらくすると、スティックが手になじみ、リズムのずれが消失し、次第に上達してきた。

 右手と左手だけなら、割合簡単である。しかし、左足を2拍目と4拍目に踏み込み、右足を曲に応じて変えるのは容易ではない。ほとんど無意識でも足が動くようにしておかないと、止まったり、表と裏のリズムが逆になってしまう。

 どうすればよいか。思いついたのが運転中の時間。両手はハンドルに、右足はアクセルに必要だが、オートマチック車のため左足は遊んでいる。これを使わない手はない。ジャズを聞きながら、左足でずっとステップを踏んでいた。その結果、無意識で左足が貧乏揺すりをすることもあった。

 今回は、タップダンサー4人の踊りと歌と音楽というジョイントコンサート。一緒に練習するプロセスが大切で、ドラムという視点から音楽を考える機会を得て、とても勉強になった。基本リズムは同じでも、歌やサックス、キーボードの旋律がちょっと変化すると、ドラムも対応せねばならない。旋律は同じでも、踊りの状況に応じて、ドラムが急に音を止めるブレイクをする場合もある。視野が広がった経験となった。

 それにしても、4つの手と足を使うドラムというポジションは、凄いと感じた。私はまだまだ初心者で、その奥深さはまだ理解できるレベルにはない。でも、新しい楽器へのチャレンジは斬新な体験で、楽しかった。

 両手でスティックを叩き、両足でリズムをとっていれば、まず、痴呆にはなりたくてもなれないと思う。大脳にスリリングな刺激が伝わっていくのが実感できる。惚(ぼ)けることなく、音楽に惚(ほ)れることができるドラマーとは、本当に素晴らしいものだ!

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