愛とともに雪や氷も昇華する

 新しい年、平成15年。1月下旬に国体の冬季大会が開催された。全国からアイススケート代表選手が集結したのは群馬県の伊香保リンク。気温は氷点下と冷たいが、選手の滑走や関係者の声援で熱気はムンムン。汗は瞬時に蒸発してしまうほどだ。競技の後、伊香保温泉に足を運び、ようやくほっとできた。

 同温泉は万葉集でも詠まれ、鎌倉時代から湯治場として発展。明治時代には御用邸も開設された。名物の石段街で行われる祭りでは、芸妓が叩く太鼓のお囃子が素晴らしく、人々を慰めたという。東大教授のベルツ博士はここで研究を重ね、わが国の温泉医学の父と称されている。

 このように魅力ある当地を愛した中央の政財界人や文人は少なくない。夏目漱石や芥川龍之介なども訪れ、徳富盧花が著した「不如帰」で、伊香保の名が全国に知れ渡ったのだ。

 古くから日本では、温泉で病気を治す温泉療養(湯治)が知られ、疲れた身体を癒してきた。人々が驚いたのが、霊験新たかな温泉の効用。その感謝の気持ちが神や仏の信仰にまで昇華されていったのであろう。

 日本人は温泉が大好き。年始のテレビ番組では、しばしば全国の温泉地が紹介される。湯けむりに包まれる麗しい女性の姿だけを、目で追っている人がいるかもしれない。一方、文豪の場合、雪や氷が水蒸気に昇華する姿をじっと見ることにより、恋を愛に昇華させるエネルギーがふつふつと沸き上がってきたのではあるまいか。

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