心と身体のリズムNo.2

 前回に引き続き、今回も心と身体のリズムについて考えてみる。人は生まれる前には,お母さんのおなかの中で母親のある心臓の音を聴きながら育っている。

 さて、生後に泣いている赤ちゃんをあやす方法がいくつかあるので紹介しよう。まず,乳房やほ乳ビンを吸わせ、十分お乳を与えて空腹を満たしてやることだ。

 次に,手足を毛布で包んで押さえる。毛布による温熱効果や、よい肌触りによる皮膚感覚効果があるらしい。乳児は様々な刺激で興奮し、手足をいくら動かしてもどうすることもできないという苛立ちが生じるという。従って、毛布で手足の動きを押さえることが、鎮静効果がもたらすとの研究結果もある。

 赤ちゃんを抱きあげて、スキンシップで泣きやませることもできる。もともと皮膚は、外胚葉由来で神経とつながっているので、皮膚の感触で落ちつくのであろう。ここで重要なことは、母親の左胸に赤ちゃんを抱くことである。というのは、母親の心臓の鼓動が直接乳児に伝わることによって、胎生期の記憶が呼び覚まされて、赤ちゃんが安心感を感じるからである。母親の「ゆらぎ」のある心音の録音テープを聴かせると泣きやむことはよく知られている。

 最も注目すべきは、赤ちゃんをあやすときは、抱きあげてリズミカルに揺すったりすることが日常自然に行われていることだ。英国の研究者が揺らし方と効果について特別の振動装置を使って行った研究がある。彼らが対象にした乳児は、揺れの幅が7 cm,1分間に60回揺らすのが最も効果があったという。母親は無意識のうちにこれを実践しているという。ゆらぎと安らぎに関する本能と遺伝とでも言えようか。

 私たちの心にも「ゆらぎ」がある。なんと、人の心の移り気なども「ゆらぎ」に関係しているそうなのである!?。恋人に心を奪われたら、一緒に居たいと思う。これは緊張感もあるが、「やすらぎ」をも感じたいからではないだろうか。恋人の言動がある程度予想どおりであったり、時々、可愛らしい仕草やおしゃれな言葉を再発見または新発見することで、さらに心地よさを感じるのである。やはり、規則性と意外性の適度な組み合わせが良いのだろうか?

 歌人の与謝野晶子が「海恋し、潮の遠鳴り、数えては、少女(おとめ)となりし、父母(ちちはは)の家」と詠んでいる。海岸から少し離れたところに生家があり、子どもの頃から海の音を聞きながら成長して乙女になったという情景が眼に浮かぶ。静寂の夜、子守歌のように、遠くから伝わってくる打ち寄せる波の音を聴きながら、ゆらぎのリズムが心地よい夢の世界へと導いたのだろうか。

 そもそも,海は”水”と”母”が合わさった漢字であり,生命の源泉である.生物は進化してヒトとなり,人間は0.9%食塩水の体液成分を持ち、母の胎内の羊水の中で育ち生まれてきている。従って、母親や乳房の訳であるMamaやMammaの語源は、フランス語で「海」を意味するLa Merに由来しているのである。だから、私たちは、水やせせらぎの音を聞くと、何かしら懐かしい気分になる。おそらく、古皮質の脳には、水や波の音を聴くと、太古の昔を思い出すように、私たちの身体の中の遺伝子にインプットされているのであろう。

 さて、先日、「理性のゆらぎ」という、医学とサイババの世界を研究した興味深い本を見つけた。その中の一節を紹介しよう・・・あらゆる科学は最終的には「近似」である。量子の世界には「不確定性」と表現される原理的に避けがたい「ゆらぎ」が存在し、マクロの世界には相対論的な「ゆがみ」が存在する。それ以外にも、理論の一つ一つ、技術の一歩一歩に近似が登場する。その「ゆらぎ」や「ゆがみ」は、おそらく存在の深いレベルに由来している。それは、粒子や波動のゆらぎではなく、理性のゆらぎ、人間の理性そのもののゆらぎなのである・・。

 
資料
 1)与謝野晶子。歌集「恋衣」明治38年
 2)青山圭秀。「理性のゆらぎ:科学と知識のさらなる内側」、三五館(株)発行。

 

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