家庭医のグループ診療
家庭医のグループ診療
ニュ-ジ-ランドのGPグル-プ診療をかいまみて
日本プライマリ・ケア(PC)学会は、世界家庭医学会(WONCA)の一員として
重要な任務を担当している。WONCAのアジア太平洋地域学会が2000年6月に
ニュ-ジ-ランド(NZ)で開催された際に、general practitioner(GP) のグル-プ
診療をかいまみることができたので、報告する。
1。NZのクライストチャ-チ
関西空港から11時間でクライストチャ-チ(Christchurch,CC) に到着。CCは
NZ南島にある同国第三の都市で、人口は30万人。オックスフォ-ド大学出身者
により町造りがなされ、英国以外で最も英国的な街とされる。古き文化が感じ
られて治安がよく、人々は非常に親切である。日本からも1年間のワ-キング
ビザで滞在する若者も少なくない。
2。繁華街の中心に診療所
NZ家庭医学会の紹介で、筆者はOzimek医師を訪れた。ショピング街の真ん中
に数多くのテナントが入ったビルがあり、その2階フロアがメディカルセンタ-
である。患者の利便性を考えると良い立地条件だ。
受付では麗しい3名の事務員の女性がテキパキと対応。待合室はホテルの
ロビ-のような落ち着いた雰囲気だ。ここで5人のGPがそれぞれの部屋で開業
している。
3。グループ診療
診察室には、血圧計、検眼鏡、ベッドなどが設置。診察机のコンピュ-タの
画面には、刻々と変わる予約状況やメッセージが示されている。
仕事は月から金曜日で8:30から17-18時ごろまで。診療は電話による予約で
1人15分。氏は木曜午後は休診とし、代わりに氏が雇ったパート医が同室で
診療している。
風邪や腹痛で本日診てほしい、という電話を受けても予約で一杯な時がある。
この場合、他の4医師の中で空白の時間がある医師が診察してくれるのである。
5人のグル-プ診療だが、5週に1度の週末on callはない。徒歩で10分の
所にAfter-Hour Surgeryという施設があり、若年の医師が週末を担当している
からだ。救急の場合には、CC病院のERやICUに搬送される。
同国では、solo practiceのGPもいるが,多くのGPは2-10人でグル-プ診療を
行なっている。以上のように、経費を節約でき、患者のニ-ドにも対応できて
いる様子であった。
4。NZの医療制度
同国の医療制度は本邦と異なる。健康保険に入っていない国民が多い。政府が
医療費用を負担してくれるためである。5才以下の子供や妊婦の検診や分娩も
すべて無料。国がカバーする額は6-16歳の受診で1回に15ドル、17歳以上では,
低収入の人は15ドルで段階的に増え、高収入の人は35ドルとなる。
なお、1NZドルは約50円であり,今回の訪問でNZの物価は本邦の半分ほどに
感じた。すなわち、ドルの感覚では生活感が一致し、生活はゆったりと余裕が
あるようだ。
風邪や上気道炎で受診した場合の診療費と薬剤費を尋ねた。近年、抗生物質の
投与を少なくする傾向で、必要最小限しか処方しないという。3日間の解熱剤と
抗生物質を処方したと仮定すれば約10-15NZドルで、国がカバーするので本人
の負担はあまりないだろうとのことであった。
7。事故は無料で訴訟なし
興味深かったのは交通事故や様々なアクシデントによる負傷の場合である。
いかなる事故であっても、国が全額負担する。その代わりNZでは訴訟ができ
ない制度になっている。バスとの接触で外傷を負っても、バス会社を訴えられ
ない。さらに、外国から医学会に参加している著者がホテルの床で滑って骨折を
した場合でも、国がすべての治療費を負担してくれるのである。
おわりに
NZはカトリックを基礎とし、地理的に交流が少ないながら、欧米の文化の
良い面を取り入れて平和に発展してきた。これらの歴史・文化・慣習を考慮する
と、NZの医療制度やGPのグループ診療はよくマッチしているように感じた。
本稿が本邦の医療に参考になれば、幸いである。