糖尿病 肥満 糖質制限 ダイエット 音楽療法 新老人の会 徳島県スケート 板東浩 

地球の歩き方ー医療編

地球の歩き方ー医療編

私は二十面相ではないが、3つの顔がある。
 1)糖尿病や肥満など生活習慣病の診療にあたっている。現代の
日本人のライフスタイルを、あなたはどう思いますか?
 2)音楽療法の啓蒙活動を行っている。かつてピアニスト・作曲家
を目指した私の経験が,人々の役にたてば嬉しく思う。すでにリリース
したCD付き楽譜集「日本の四季のうた」(音楽之友社)で、「心も
身体も健康」を目指してほしい。
 3)日本プライマリ・ケア学会の国際交流活動で、アジア太平洋
諸国の医療事情を報告してきた。家庭医療学に関わるようになった
きっかけは、米国のfamily practice residency program (FPRP)で
臨床研修したことによる。本稿では、FPRPや日米の様々な比較に
ついて記す。

1)ECFMG資格
 私は1981年に徳島大学を卒業後、内科の研修で多忙を極めていた。
その時、ECFMG資格や米国の臨床研修の存在について、初めて知ら
された。とてもタフな試験で、米国の実状を考えると実際に留学する
のは難しいという。
 しかし、チャレンジする価値はあると思い、準備を始めた。手元
には何の情報もなく、参考書を捜し求めて受験。Medical部門は
1回目で合格したが、English部門のハードルが相当高い。VOAや
FENなど英語のシャワーを浴び、TOEFLで593点を取ってようやく
バスできた。
 資格を取得したが、留学の方法がわからない。やみくもに、米国の
病院や関係機関に約800通の手紙を出した。友人は呆れていたが、私は
いたって真面目。返事が来た約200通の中から連絡を取りあって、
ミシガン州に行くこととなった。

2)教育病院の概要
 ミシガン州は五大湖のミシガン湖に接し、医学部はミシガン
大学、Wayne State 大学、ミシガン州立大学(MSU)の3校がある。
 MSUの教育病院にはサギノー協同病院があり、St. Luke(聖ロカ),

St. Mary(聖メリー), General(総合)の3病院で構成される。

それぞれの病院には特徴があり、外科はLuke、救急はMary、
産婦人科はGeneralが有名だ。ここのFPRPで私は臨床研修を受けた。

3)レジデンシープログラム
 医学校の卒業後、家庭医療学の専攻を希望する卒後研修生は、
3年間のFPRPに入る。研修内容は、内科、外科、小児科、産婦人科、
行動科学の主な5つの科に、救急や他科など、ほぼ全科をローテー
ションする。同時に、長期にわたり家族を継続的に診療していく。
 レジデンシーの終了後は、各自の道は異なっている。ただちに
2-4名で家庭医のグループ診療を始める人もいる。チーフレジデントを
経験したり、後輩の指導が好きな人は、FPRPの教育スタッフのポジ
ションを捜す。研修中に外科研修に魅力を感じ、もう一度、5年間の
外科のレジデンシーを選び入る人もいる。

4)日米の医学部入学と教育
 日本では高校卒業後、ただちに6年間の医学部に進学する。一方、
米国では、4年間の大学教育後、全米の医学部入学共通試験(MCAT)
を受けて、医学部へ進む。その際には、MCATの点数、大学の成績、
ボランティア活動など履歴、推薦状などが評価され選抜される。
 米国の医学部1, 2年生は大学で基礎医学を学ぶ。3, 4年生は教育
病院における研修が主となる。日本では、内科の系統講義や臨床講義
などのマスプロ的な講義が一般的だ。一方米国では、臨床の勉強はBST
またはBSL(bed side teachingまたはlearning)による教育が重視されて
いる。東京の聖ロカ病院名誉院長である日野原重明先生がしばしば紹介
されているウィリアム・オスラー先生の素晴らしい遺産と言える。

5)医学生のBSLは驚きだ!
 私が1ヶ月にわたる産科のローテーションに入った時、数人の医学生
も同様に参加した。驚く事に、彼らは産婦人科の本を読んだことがなく、
何の知識もない、という。
 陣痛で苦しむ妊婦が病棟に運ばれてきた。patient-orientedという
考えで、患者に接することからスタートだ。卒後レジデントが問診・
診察し、モニターをつけててきぱきと対処していく。医学生は医療
現場で手伝いながら、何を優先し、何がポイントかを身体で覚えていく。
様々な処置が一段落しても、ほっとする間はない。寸暇を惜しんで
教科書を開く。たった今行った手技について、むさぼるように読んで
覚えていく。
 夜は、医学生が交代で当直し、レジデントや産婦人科医の手伝いに
走り回る。何も知らなかった医学生が、短期間に豊かな経験を得る。
 産婦人科を例として述べたが、内科、外科、小児科などでも同様
である。机上の理論ではなく、現場における実践的な臨床能力が
培われる。

6)日米の臨床能力の差
 米国の医学部4年生は、日本の卒後2-3年の医師と同等もしくは
それ以上の臨床能力があると言われるが、私も同感である。医学生が
診療して大丈夫か、という懸念する人もいる。しかし、実際には、
医学生、卒後レジデント、チーフレジデント、教育スタッフなど、
二重三重四重のダブルチェックが常に行われているのである。
 例えば、分娩介助では、産婦人科医、産婦人科専攻のレジデント、
家庭医療学専攻のレジデントや指導医、医学生など3-5人がチームを
組んで分娩介助にあたる。産婦人科医は高齢の先生もいれば若手も
いる。その場合、分娩介助や切開、縫合の方法が異なる場合がある。
レジデントや医学生は、様々なバリエーションの手技に触れ、体験
することができる。

7)頭の中はフローチャート
 私は内科を数年間研修後、FPRPに入ったので、内科領域の知識と
経験で困ることはなかった。しかし、いろんな症例検討会に出席して、
驚いたことがある。日本では、このデータをいかに読むか、なぜこう
なるか、などの細かい点がポイントとなり、学術的・学究的な雰囲気だ。
 一方、米国での症例検討会では、まず、目の前の患者をどうするか、
どのようなstrategyで攻めるか、が重要である。指導医から「この
病歴と検査結果から、診断名の可能性は?」という問いかけに、レジ
デントや医学生は、立て板に水を流すごとく10以上の病名をすらすら
と答える。「何の検査をするか」には、「検査Aで5つにしぼり、次に
検査BとCでおそらく診断Dと出れば、治療Eをただちに開始」との
返事。患者のデータはすべて記憶し、フリーハンドで意見を交わし
ている。
 彼らの大脳は、エクセルみたいにマトリックスの構築なのか。思考の
プロセスは、YesまたはNoで矢印に沿って進むフローチャートになって
いるに違いない、と私は確信した次第であった。

8)レジデントの午前
 レジデントのある1日の生活を概説しよう。午前7時、眠たそうな
目をしたレジデントが集合。朝食をとりながらのミーティングだ。
昨晩入院した救急患者の申し送りが行われ、指導医、レジデント、
学生と活発な議論が行われる。
 午前8-9時は、病院内の講義室でレクチャー。内科、外科、産婦
人科、小児科、家庭医療学の5つの科が、月から金曜日まで組み込ま
れている。講師は他大学や病院から招かれ、興味をもつコメディカルも
自由に参加できる。
 9時からは、毎朝打ち出される患者リストを片手に、病棟を回って
いく。小児、妊婦、オペ後の外科患者、癌患者など、午前中に約10-
16人ほどを回診する。
 12-13時は昼食時間だが、週に2回は、ピザカンファレンスや行動
医学のランチョンがある。月に数回は、サンドイッチを食べながら
テレカンファレンス。これは、通信衛星と電話回線を利用した全米
同時のレクチャーで、電話で質問するとその声は全米に放送される
こととなる。

9)レジデントの外来と当直
 午後は、家庭医療センターで予約制の外来。患者数は、1、2、3年目
のレジデントで、それぞれ6, 10, 14人ほどだ。1人の医師が2つの
診察室を使い、出たり入ったりする。患者のプライバシーは完全に守ら
れており、脱衣などで無駄な時間を節約できる。診察で日本と異なる
のは、ルーチンに眼底検査や肛門診も行うことだ。処置や産婦人科的
診察の際には、看護婦が手伝う。
 守備範囲は日本より広く、経口避妊薬の投与、妊産婦の管理、子宮癌
の定期検診、新生児や乳児の診察、ギブス固定、外科小手術(膿瘍摘出、
パイプカット)なども含まれている。
 診療録はほとんど書かず、診療の合間に電話器を使ってディクテー
ションしておく。病院のタイピストがテープを起こし、翌日の午前には
きれいにタイプされたページがチャートに加わる。日本のカルテの
ように、解読する必要はない。
 午後5-6時は外来の症例検討会。どのレジデントも積極的に問題点を
提起する。わからない症例とは、決して恥ではなく、素晴らしい
チャンスなのだ。この機会を逃さず、同僚や指導医の助言によって
自分を高められる。この継続的な取り組みが、レジデント全員の臨床
能力を飛躍的にアップさせる原動力となる。
 当直は数日に1度まわってくる。腰にペイジャーをつけ、病院内を
駆け回る長い夜が始まる。ペイジャーとは日本のポケットベルに
スピーカーがついたようなもの。「こちら救急、電話ください」との
連絡があれば、ER(emergency room)に赴く。患者一人について、
問診、診察、検査、チャート記載、ディクテーションというワーク
アップにほぼ1時間かかる。病棟や病院外からも連絡が入り、腰を
落ち着ける暇もない。不眠不休で、朝7時の申し送りへと続くの
である。

10)研究手法と相互の医学教育
 医学には、診療、研究、教育の3本柱がある。本邦では、診療の
研修は当然行われている。しかし、研究方法や医学教育学についての
オリエンテーションやガイダンスの機会はほとんどない。
 米国のレジデンシーでは、常に診療のトレーニングを行っているが、
時には集中講義やワークショップで、研究および教育学の講座が企画
され、専門家から教えを受ける。
 研究方法の講座では、何が知りたいか、どんな仮説か、をまず
考える。その上で、どんなstrategyで、期間や予算を概算し、
計画性をもって研究を開始するのである。
 教育については、相互教育が重要である。「教え方と教えられ方」
というワークショップに参加した。講師が具体例を挙げながら、
「こんな下手な教え方の指導医はダメね」、「こんな態度の医学生は
医師になる資格はないわ」と厳しく指摘。この講義を、指導医やレジ
デント、医学生が一緒に受けているのには、私は驚かされた。
日本では考えられず、さすがオープンな国だなと感じた。

11)パッチアダムス
 映画「パッチ・アダムス」は世界を席巻し、若手医師に衝撃を
与えた。当時、パッチは医学生とレジデント対象の講演会に招待
され、理想の医療について熱っぽく語った。講演後、彼は私との
面談にゆっくりと時間を割いてくれた。
 2000年6月、彼はニュージーランドで行われた世界家庭医会議
(WONCA)の特別講演に招待された。少しの時間だが話ができ、
著書を2冊送付して頂いて現在読んでいるところである。

おわりに
 以上、レジデンシープログラムでは、臨床を中心に、研究や教育、
さらには医師の目的、目標の設定方法と人生の考え方、などについ
ても適切なタイミングで専門家が講義をしてくれる。
 現在、本邦では、病気だけを診て、人を診ない医療が懸念され
ている。Family Medicineまたはプライマリ・ケア医学に触れること
により、より良き医療が成されるものと確信している。本稿が何か
参考になることがあれば幸いである。

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