国体への道

 内科専門医の中でもピカ一の変わり者板東浩先生がまたまた新聞紙上を賑わしてくれました。何と今度は国体のスピードスケート成人Bクラスの徳島県代表で500mと1000mに出場したというあつかましさ。42才の医師?にしてこの快挙。ワルツで滑って転倒しても絵になるこの人は予選落ちしてもなお意気軒昂、本番で自己ベストを更新し、まだまだ速くなると豪語しています。ピアノコンクールには優勝するは、バイオミュージック学会はやるは、とにかくしばしも休まず努力を続けています。本当に医者をやっているのか心配になる板東先生の活躍ぶりを見てやって下さい。(日本内科学会内科専門医会会長 小林祥泰)

 長野五輪の金メダリスト、清水宏保選手と同じ氷上に、私は選手として立っていた。Mウェーブに響きわたる拍手と歌声。平成11年1月27日、第54回国体冬季国体の開会式が行われた。

 全国からの代表選手が、音楽隊の演奏に合わせて行進。リズムは1分あたり120歩、歩幅は65cmとの規定だ。やっぱり、マーチはこの速度でなくっちゃ。音楽は止まることなく、いろんな曲がメドレーで繋がる。「日の丸飛行隊」のジャンプが記憶によみがえる札幌五輪の「虹と雪のバラード」に続いて、長野五輪のテーマ曲「瞳の中のヒーロー」だ。憧れの清水宏保選手の勇姿が、眼前に浮かぶ。胸には熱いものがこみ上げてくる。

 この感動的なシーンに、自分の姿が重なる。思い返せば、1年前、清水選手の滑りに魅せられて、私はアイススケート靴を履いたのだった。スケートができる機会をさがし求めては、1周111mのショートトラックの練習を始めた。少しさまになった頃、知り合いの勧めで1周400mのロングを走ってみた。すると、国体出場の標準記録を突破することができた。南国徳島から、42歳で初めて国体出場。悪友からも冷やかされる毎日であった。よくぞ、ここまで来たものだ。我ながら、高ぶる感情を押さえきれず、目頭が熱くなっていた。

 出場種目は500mと1000m。    Go to the start。   Ready。

 ゆっくりと上体をかがめる。スタートラインには7人の選手。緊張感がみなぎる。号砲までのわずかな時間が、何秒か、とてつもなく長く感じられる。「パーン」という音が全身を貫いた。

 スタートはぴったり。上半身が前傾し、ぐんぐん加速していく。北国の強者たちの筋肉の動きが肌に伝わる。ほとんど一直線に並んでいる。スラップスケートのぐらつきもなく、足と腰のバネも十分。足の動きの一つ一つを認識できる。心身ともに最高調だ。最初の8歩は2拍子でダッシュ。その後、次第に3拍子で滑走に移行しようとしたその瞬間、右足のブレードが、右側の選手に接触。バランスが崩れる。天井がぐるぐると回転、身体が氷上にたたきつけられる、頭の中が真っ白に。

 ああ・・、転倒だ。

 くやしくて、しかたがない。即座に起きあがり、すこしでも追いつこうと滑った。あとは必死。すでに他の選手達はゴールイン、私の予選落ちは確定的だった。だが、止めたくなかった。ひたすら目指したゴールは誰もいない。ゴールの瞬間には、不思議と口惜しさも何も感じなかった。やった・・・完走した。

 しばらくして我にかえると、拍手が全身を温かく包んでくれた。何ものにも換えがたい満足感。自分が求めていたものは形こそ違えたが、「これ」だった。

 1000mは、リラックスした滑りで、1分36秒と自己ベストを6秒短縮。予選は通過できなかったが、心と身体のコンデショニングもうまくでき、得るものは大きかった。現在、滑るたびに記録はどんどん伸びている。今後も体力が続く限り、スケート道に精進していきたいと思うこの頃である。

<日刊スポーツの記事>

   医師兼音楽家 板東さん 冬季国体スピードスケートに挑戦 徳島
   ワルツで予選突破へ   27日から開幕 長野エムウエーブ
   ワルツでスケートを・医師であり、音楽家である徳島市の板東浩さん(41)。

 今月27日から長野冬季五輪スピードスケートの会場となったエムウエーブ(長野市)で開かれる冬季国体スケート競技に出場する。板東さんが氷の上を滑る時、いつも体の中には音楽があると言う。昨年の五輪で金メダルを獲った清水宏保選手(24)に触発されて、アイススケートを始めたマルチスケーターは”リズム”に乗った滑走で、予選突破を目指す。「健康もスポーツもリズム」が持論。(8分の6拍子で)

 板東さんは徳島大学医学部附属病院第一内科の医師であると同時に、音楽家でもある。70年には全四国エレクトーンコンクールジュニア部門で優勝、93年にも全四国音楽コンクールピアノ部門大学一般の部で優勝した。現在も心や体を癒す力をもった”バイオミュージック(音楽療法)”の研究や普及に力を入れるかたわら、様々な演奏活動を行っている。
 
「健康もスポーツも、その根底にはリズム(音楽)がある」というのが持論の板東さんは「私はフィギュアスケートは3拍子、アイスホッケーは2拍子、スピードスケートは8分の6拍子(ワルツ)だと思っている」という。つまりワルツのリズム刻みながら、氷の上を滑走しているわけだ。

 ”ワルツでスケート”とー聞けば、なんとなく優雅(悠長?)なものをイメージする人が多いだろうが、競技者としての板東さんはかなりの本格派だ。もともとは車輪が縦一列に並ぶインラインスケートの第一人者だったが、昨年の長野冬季五輪スピードスケート500メートルで金メダルを獲得した清水宏保選手に影響され、昨年2月にアイススケートへ転向。4月の中四国地区ショートトラック大会(島根)新人部門でいきなり総合優勝し、11月に長野で行われた記録会で500メートル、1000メートルとも日本学生選手権のC級標準記録を突破。国体出場権を獲得した。

 練習は早朝の吉野川河川敷を利用して行われる。スケート(普段はインラインスケート)を履いての練習は1日30分程度だが、筋力トレーニングやイメージトレーニングなど練習メニューは豊富。「風呂場で素っ裸のままスクワットをしたり、出張先のホテルでイスやテーブルを肩に乗せてスクワットをしている」。”毎日コツコツ”が板東さんのトレーニング法だ。

 板東さんが出場するのは成人Bクラス(35ー42歳)の500メートルと1000メートル。冬季国体では北国の選手が強いが「なんとか予選を突破したい」と気合満々。南国・阿波のスケーターは音楽を胸にエムウエーブに挑む。

  ◆板東浩(ばんどう・ひろし) 1957年(昭和32)1月25日生まれ。徳島市出身。
現在は徳島大学医学部第一内科の医師で、専門は糖尿病などの生活習慣病。医学関係の著書、論文、エッセイなどを多数執筆。音楽家でもあり、現在、日本バイオミュージック学会四国支部支部長。演奏活動も行っている。35歳だった6年前からインラインスケート(ローラースケート)を始め、97年の全国大会(秋田県)16歳以上男子2000メートルスプリントで6位に入賞。昨年の同大会スラロームでは3位に入った。昨年2月からアイススケートを始める。徳島県在住。  
 バイオミュージック:音楽で心と体を癒すバイオミュージックの研究をしている板東さんは、昨年、「春の小川」など日本の四季の歌を斬新なハーモニーでアレンジした曲集「日本の四季のうた <バイオミュージックから 斬新なハーモニーへ>」を音楽之友社から出版(1200円、ミニCD付き)した。心地よさを誘うゆらぎの理論により、これらの曲を聞けば心がリラックスすると言う。

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