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南アフリカ共和国

南アフリカ共和国

日本プライマリ・ケア学会は世界家庭医学会(WONCA) の一員で、WONCAは、WHOと協調しながら、様々な企画・運営・後援を行なっている。今回、第3回International Symposium on Problem-Based Learning が、1996年9月12-25 日に、南アフリカ共和国(以下「南ア」)のダ-バン(Durban)で開催された。これはThe Network of Community-Oriented Educational Institutions for Health Sciencesが主催しており、医学教育に関わっている240 以上の医学校から専門家が集まる世界的な規模の学会である。今回、私は本シンポジウムに参加するとともに、「南ア」の医療を視察する機会を得たので報告する。

「南ア」の概要
 日本から空路で約22-27 時間で「南ア」(Republic of South Africa,RSA)に着く。「南ア」の面積は日本の約3倍、人口は約3,800 万人でその内訳は、アフリカ系黒人が2,900 万人、混血(カラ-ド)が300 万人、白人が500 万人、アジア系が100 万人である。豊富な鉱物資源に恵まれており、金、ダイヤモンド、プラチナ、チタンなどを世界中に輸出し、日本との貿易も多い。1994年にマンデラ大統領が就任してから、多民族国家として新しい国への歩みが進んでいる国だ。国際空港は、ヨハネスブルグとケ-プタウン、ダ-バンがある。

「南ア」の医療の概要
 「南ア」の医療は、大学病院、地域の病院、および個人開業医が担っている。国民皆保険制度はなく、医療費に関しては経済的に余裕がないとのことである。サラリ-マンなどは会社の保険がカバ-してくれるが、一般の人は私的な保険に入る。しかし、保険に入っていない人や入れない人もあり、実際に、経済的な理由で医療機関にかかれないことも実際にあると聞く。上気道感染の症状で受診し、3日間の解熱剤と抗生物質を処方されると、その経費は通常で10-15 ランド(300-450円) 程度であるという。
 「南ア」には8つの国立の医科大学があり、私立大学はない。それぞれの1学年の学生数は40から60ないしは80へと、現在医師数を増やしつつあるところである。したがって、以前から叫ばれていた医師数の不足は、若干解消される状況であるという。

「南ア」の医学教育と卒後研修
 「南ア」の医学教育と卒後研修制度について、今回のシンポジウムを担当しているTranskei大学のMazwai学長夫妻から詳しく御説明頂いた。Mazuwai 学長は外科医で、奥様は麻酔科医である。
 医学教育は5年間で、卒業してDoctor(医学士)の資格を得た後、教育病院で1年間のinternshipがある。その後、現在では、約70-75%が家庭医療学(Family Medicine) を専攻して家庭医(Family Physician,以下FP) となり、残りの25-30%が専門医(specialist)の道を進む。なお、古くから開業して、一般医療をしている医師は、一般医(General Practitioner,GP) と呼ばれている。
 まず、FPを目指す人は、大きく2つに分かれるという。ひとつは、インタ-ンを終了した後に開業して、ずっと一生開業医を続ける場合。一方は、病院勤務医として働く場合で、この医師はMedical Officer と呼ばれる。しばらく勤務した後に、開業しようと思えばいつでもできる。なお、病院勤務医には、FPも専門医もいるが、FPが数倍多く、実際に医療を担っているのはFPが中心である。なお、医師の目からみて、専門医の仕事量はFPより少ない。
 次に、専門医についてであるが、現在、家庭医学、内科、外科、小児科、産婦人科など、すべて4年の研修システムがある。これらは1年間のインタ-ンの後、教育病院で臨床研修をうけるものだ。これらを終了すると、大学病院で教育や研究の分野に進んだり、病院で勤務したり、または開業(Private Service) する場合などに分かれる。

Family Medicine が人気がある理由
 現在、Family Medicine が医学生に人気があるという。その理由の第一は、大学を卒業して1年間のインタ-ンシップを終了すれば、すぐに開業することができるという。すなわち、この場合は、Family Medicine の4年間のresidency に入らずに開業するということである。人種の関係もあり、早く開業して高い収入を得たいと考えている人が多いというのが、実状のようだ。
 第二には、FPとして数年間診療しながら、自分の将来の進路について考えることができるからである。すなわち、卒後しばらくたったあとからも、希望すれば、専門医のresidency program にも入ることができるのである。すなわち、選択肢の幅を広げておく、という意味で選ぶ人も多いという。

Family Medicine とCommunity Medicineの分化
 家庭医療学と地域医療学は本邦では、ほぼ同様に扱われることが多いが、「南ア」では、この両者は分化しつつある。Transkei大学には両科があるので、比較したい。
 Family Medicine の授業と実習は、学生の2年から6年(インタ-ンの年度)まで、大学病院、地域の病院、ヘルスセンタ-、診療所などで行なわれる。その目標は、1)できるだけ早期に、H&P(history-taking and Physical、病歴と現症) ができる、2)医師の臨床決断や、H&P,検査デ-タの評価を通じて、基礎医学の重要性を認識し、基礎医学と臨床医学の懸け橋となる、3)ロ-ルプレ-による学習をも行い、お互いに批判しあえるようにする、4)二次および三次医療の患者と比較して、プライマリ・ケアレベルの患者が持っている問題の内容を認識する、5)有効的な医師・患者関係を築く、6)個人でなく、家族をひとつの単位として考慮して診療する、などがあげられる。
 一方、Community Medicineは、2から5年生にかけて、講義、セミナ-、地域での実習を通じて学ぶ。そして、学生はそれぞれ課題を与えられ、都市周辺部あるいは辺鄙な地域で1ヵ月を過ごして研修する。その目標は、1)社会的、経済的、心理的、ならびに環境因子が、地域の健康の諸問題に関与していることを認識する、2)行政的な医療サ-ビスの内容を把握する、3)医療経済学や疫学、生物統計学、地理学を習得する、4)母子、乳児の栄養、学童の健康を維持管理する、5)医学の研究手法を習得し、医学論文を読みこなして批判できる、などである。
 ほかに興味ある科としては、プライマリ・ケアレベルで神経精神疾患をみるPsychiatry and human behavioural Sciences 、Problem-based の方法を用いて、臨床検査デ-タから基礎医学的な方向に検討するDepartment of Chemical Pathologyなどがある。また、コメディカルとして、看護婦養成のDepartment of Nursing Science(3年間)や、健康教育増進士養成のDepartment of Heath Education and Promotion (3年間)も設置されている。

ナタ-ル大学病院の視察
 南アフリカで卒前卒後の教育は、教育病院すなわち大学病院で行なわれている。ダ-バンにあるナタ-ル大学は、以前にMrs.Mazwaiが勤務していた病院で、知己も多く、案内して頂いた。内科、外科、家庭医療(地域医療)科など、すべての科がそろっている。同病院医師に、現在のトピックスはと尋ねると、エイズ、臓器移植、骨髄バンクとの返事が返ってきた。
 この病院の勤務は、昼夜を問わず超多忙であり、医師は憔悴しきってしまうこともあるという。約5日に一度夜勤がまわってくるが、その時は一睡もできないのが普通である。 視察した科のなかで、印象的であったのが救急部門である。私は、夕方に救急外来の現状を目のあたりにしたが、まさに戦場であった。まず、一般救急のロビ-には、患者が列を作ってならび、ロビ-の中央には、ストレッチャ-が10数台ならび、それも満杯である。夜間に診察する医師数は5人、その内訳は、3人が卒後研修生(junior)、1人が病院のスタッフ(senior)、1人が専門医が、必要な場合に上級医に相談できる体制をとっている。彼らは翌朝まで不眠不休で診療を行い、翌日も通常に勤務する。また、外科救急のロビ-も、交通事故や怪我などの患者であふれていた。

現在の問題点
 まず、保険がすべての患者にいきとどいていないことがあり、これは、従来の様々な問題があり解決するには時間がかかる。
 次に、卒業後わずか1年間のインタ-ンを終了すれば開業が可能であるということが、医師の見地からすると、一番の問題点であるという。厚生省からは、卒業後2年の研修が、そして、医学校協議会からは、3年の研修を義務化するべきだとの声があがっている。しかし、現行の法律では規制できないので、法律を改正するように働きかけている段階とのことであり、しばらくすると、法律も改正される見込みであるとのことである。
 また、時間外の患者が病院に集中するのも、問題点としてあげられる。その理由として、医師数の不足や、個人開業医が夜間の診療をあまり行わないことがあげられる。その結果、病院医師の負担も大きくなり、勤務医から開業する動機づけのひとつになるという。

おわりに
 「南ア」の滞在は短かったので、詳細な視察はできなかった。しかし、卒前卒後の研修や家庭医療学に関する概要は、報告できたと思われる。「南ア」は、アフリカ最南端にあるが、歴史的にみても、実際に人々と接しても、欧米的な文化や生活の影響が強いという印象をもった。この数年間で大きな変革がみられており、今後のはさらなる医療および医学の発展に期待したい。

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