◆ 免疫と生活習慣ー2

●3・臨床における免疫能

 日本人の3大死因は癌、心臓病、脳血管障害である。しかし、60歳以上の高齢者の剖検例を検討すると、第1死因は感染症39.2%で、100歳以上では66.7%に至る2)(表2)。
 またSARS患者の致死率(WHO推計)は、全体の平均で14~15%である。しかし、これは年齢によって大きく異なり、24歳以下は1%未満、25~44歳が6%、45~64歳が5%、65歳以上が50%以上となる2)。
 一般的な免疫機能は20歳を過ぎると低下傾向となり、40歳代でピークの50%、70歳代で10%程度まで低下する。従って、臨床の場で高齢者の免疫能は重要な問題となる。
 抗加齢医療における3つの柱として、1) ホルモン(抗加齢療法・HRT)、2)免疫強化、3)抗酸化ストレスが挙げられる。免疫強化の中で、測定できるものとして、NK(natural killer) 細胞活性があり、最も重要なものの一つとされている。
 なお、著者自身がアンチエイジングドックを受け、動脈硬化、血液の老化、活性酸素と抗酸化力、ホルモン、免疫、一般検査、身体の構成、長寿関連遺伝子などの領域で精査を行った3)。この中で、免疫およびホルモンの一部の結果を表3に示した。NK細胞活性は身体の抵抗性を示し、interleukin 6は免疫・神経・内分泌・造血系の機能に関わる指標である。
 表3では、NK細胞活性が正常、血中interleukin 6濃度が高値、free testosteroneが低値である。被検者の概要は、現在48歳で、15歳のときと比べて体重は不変で、50mの短距離走も6.9秒と同一である。現役のスケート選手として日常的に15分から60分の運動習慣を継続している。
 以上の情報だけから検査結果の解釈するのは難しい。他のホルモンデータや酸化ストレスプロフィールなども合わせ、総合的判断が必要である。
 換言すれば、免疫と加齢との関係には、内分泌系や神経系も複雑に影響している。ヒトに対する外界刺激は一般的なストレスや免疫に関わる感染に大別される。ストレスの刺激は視床下部に伝わり、一方、感染で免疫系が賦活されてサイトカインが産生され、血流を介して視床下部に伝わる。
 視床下部からのCRFが、下垂体からのACTH分泌や交感神経を刺激する。副腎皮質から放出されたグルココルチコイドは、生体の損傷を治癒させるが、一方で免疫系を抑制させる。交感神経の刺激で副腎髄質から放出されたノルアドレナリンは、血圧上昇でストレスへの闘争反応を示すが、一方で免疫系を抑制させる。
 このように、免疫・内分泌・神経の相関を考慮することが重要である。

表2 高齢者の直接死因(剖検例)2)

60歳以上(923例)       100歳以上(42例) 
 感染症      39.2%   肺炎・敗血症  66.7%   
 心・脳の循環障害 29.7%   窒息死     11.9%
 悪性腫瘍     18.7%   心不全      9.5%
 その他      12.4%   栄養不良     7.1%
                 脳卒中      4.8%      
 東京都老人医療センターの統計より改変

表3 アンチエイジングドック結果の一例

・NK 細胞活性      24 %  (18~40)
・interleukin 6 5.8 pg/ml ( < 4.0)
・DHEA-S        1280 ng/ml (830-3960)
・free testosterone 12.3 pg/ml (14-40)
・IGF-1         160 ng/ml (106-398)

●4・免疫能の測定
 アンチエイジングドックの領域で、免疫能の評価に関連する項目について概説する。
 
1)インターロイキン6(IL-6)
 近年、加齢とサイトカインやリンパ球サブセットとの関係の研究が進み、IL-6と加齢との関連が報告されている。Il-6はいろいろな細胞で、Nuclear factor (NF)-κBやNF-IL-6など複数の転写因子によって作られる多機能を有するサイトカインである。
 従来、エストロゲンやアンドロゲンなどの性ホルモンがIL-6に抑制的に働き、加齢のため性ホルモンの減少によってIL-6が上昇することが知られている。実験的にラットの卵巣を摘出するとIL-6濃度が上昇し、骨細胞におけるIL-6に関わるmRNAが増加する。またin vitroでも、エストロゲンが骨髄でのIL-6のmRNA合成を抑えるという。
 IL-6濃度が高い高齢者は、疾患を発症する率が高い。IL-6は骨吸収を亢進し、破骨細胞を活性化させ、骨粗鬆症を増悪させる。ちょうど性ホルモンが低くなる時期から更年期になり、その後IL-6の上昇と骨粗鬆症の発症との時期が一致している。
 また、IL-6は炎症機転により脳の神経細胞を変性させるという。アルツハイマー(AD)病の脳で、IL-6の刺激で産生された炎症物質としてCRPやα2-MGなどが認められている。都内在住の百寿者で痴呆の有無とIL-6濃度を検討すると、痴呆がない群(n=19)では4.6+-1.8 pg/dL、痴呆がある群(N=56)では12.8+-12.2pg/dLと、有意差(P<0.001)が認められた。AD病と対照群の培養細胞で、刺激に対するIL-6, IL-12,IF-γ, TNF-αの反応をみると前者で低く、単球やマクロファージにおける分泌機能の低下が示唆され、ADの進展への関与が疑われている4)。
 冠血管病変について、高齢者1300人を4.5年経過観察すると、IL-6とCRP高値の上位25%は、下位25%に比し、全死亡では1.9倍vs1.6倍、冠血管系死亡では2.2倍vs1.8倍のリスク上昇が認められた。両者ともに高い対象者では冠血管系死亡は2.9倍に跳ね上がった5)。
 これらのデータはIL-6が炎症に深く関わっているのを示唆している。
中高年女性におけるDHEA-S, IGF-1, IL-6濃度の検討で、同化作用(IGF-1)の低下と骨融解に対抗するIL-6の作用に、DHEAの不足が加わり、骨粗鬆症になるという。

2)CD4/CD8比の低下
 免疫担当臓器である胸腺は加齢により縮小し、高齢者では消退する。末梢血中の白血球数、リンパ球数、そのサブセットのCD4, CD8, naive(CD4+CD45 RA+)細胞絶対数も加齢によって減少する。一方でmemory細胞は加齢とともに増え、natural killer(NK)細胞も増え、高齢者でのT細胞機能低下を代償しているようだ。
 B細胞系について、数は減少するが、IgGおよびIgA濃度は増加する。臨床的には単クローン性ガンマグロブリン血症がしばしば認められる。
 百寿者にみられるCD4/CD8比の低下は、主にCD4の低下が大きく影響している。百寿者のCD8の内訳ではNK細胞がむしろ高く、NK細胞が備わっている人が長寿になるとも考えられる。
 HLA-DRの検討で、百寿者ではDR1が6.1%と高く、DR9が8.5%と低い。DR1はcandida抗原やPHAテストで免疫機能が高められ、逆にDR9は自己免疫疾患の発症に関連する。以上から、免疫機能と健康長寿者との間には、関連性が認められている。

3)testosterone(T)濃度
 血中総T濃度は従来から測定可能だ。ただし総Tの60%は性ホルモン結合蛋白と特異的に結合し生理活性がない。一方、bioavailable T(bio T)はアルブミン結合Tと遊離Tから成る。Bio Tの測定は煩雑なので、通常遊離T値を生理活性の指標としている。
 最新の報告で、唾液中T濃度がbio Tおよび血中総Tと高い相関を示した6)(図3)。
3者で加齢による濃度低下が最も明確だったのが、唾液中T濃度だ。総T→遊離T→唾液中T濃度へと、測定方法が変遷していく可能性がある。

図3 加齢に伴う唾液中T濃度(A)と血清中総T濃度(B)の関係6)
横軸は10歳代から60歳代の年齢を、縦軸は唾液中T濃度(A)と血清中総T濃度(B)を表す。年齢に伴って濃度の低下が明らかなのは、唾液中T濃度であった。唾液中T濃度(y)と血清中総T濃度(x)との間には有意の相関があり、y = 9.543x + 13.99, r=0.63,n=158であった。

4)CRP
 CRPは近年、動脈硬化進展の指標としても用いられている。CRPの上昇が血管障害の原因か結果なのかは、議論中である。少なくてとも、IL-6などの炎症関連のサイトカイン、血管内皮上で接着分子の発現誘導などとの関連が示唆されている7)。

5)自己抗体
 自己抗体による自己免疫疾患は、若年期で免疫機能の発達途上には見られず、機能が下降してくる時期から認められる。SLEは20歳代の女性から、関節リウマチは40歳代から、橋本甲状腺炎は50歳代から発症してくるのが通常である。これには、遺伝因子や環境因子、加齢に伴う免疫応答の調節異常が関与している。臨床的に明確ではないが、subclinicalなレベルで高齢者には、多種多様の自己抗体が検出されることが多い。

6)自己反応性Tリンパ球
 従来、高齢者の剖検例で多くの臓器に認められたリンパ球浸潤巣について、大部分がCD4+のTリンパ球であることが明らかになってきた。これがシェーグレン(SS)症候群や橋本甲状腺炎のCD4+のTリンパ球の浸潤様式と類似しており、炎症性ではなく自己免疫的機序によるという。これがSS症候群のモデルマウス(NSF/sld)における自己反応性Tリンパ球で、認識する抗原が細胞膜の自己抗原αフォドリンの分解産物であり、ヒトでも同様であると明らかにされている。

●5。生活習慣
 抗加齢医療の中では、単に老年病に対する診療だけではなく、疾病の予防を目指すには、生活習慣の改善と維持が重要なのは言うまでもない。これに加えて、前述した免疫能の増加、酸化ストレスの減少、必要に応じたHRTが合わさることによって、サクセスフルエイジングへの道が導かれる。食事、運動、休養、アルコール、喫煙という5因子が重要であり、米国の国立老化研究所による10か条を表4に示す。本稿では運動について触れたい。
 著者らは今回、運動習慣の重要性についてエビデンスを報告した8)。対象者は、マスターズ陸上の男性選手63例(平均58.11歳)と健康な成人男性63名(平均56.94歳)である。方法は、共通問診票(Anti-Aging QOL Common Questionnaire (AAQOL) を用い、身体的質問30項目、精神的心理的質問21項目、運動習慣、アルコール、喫煙に関する回答を解析した。その結果、運動習慣を有するマスター群で、身体や心理的症状が有意に少なかった。
 一般の高齢者で運動能力を測定する方法として、簡便な評価法がある。400mを歩行させ、かかった時間を計測するものだ。その根拠として、
1) 高齢者の自由歩行は約300mで呼吸循環系反応が定常状態となる、
2) 高齢者は3分でという最短時間で有酸素性機構に達する、
3) 歩行時間とpredVO2maxやV02@ATなどとの間に高い相関がある、
4) 再現性が高い、などが挙げられる。

評価基準は下記の4段階を用いる。

A: 非常によい:250秒以内
B: 良い:250~270秒
C: 平均的:271~300秒
D: 悪い:301秒以上
 本テストの能力と生活機能(老研式活動能力指標調査)との関連でも、A,B,Cの該当者には活動能力指標で満点例が多いが、Dには満点者は少なく、妥当な結果と考えられる。
 以上から、共通問診票の活用や400m歩行テストの実施を推奨したい。待ち時間を利用して数分で実施でき、担当医師は対象者の概要を知り問題点を把握できる。必要ならTEGやPOMSなどの心理テストも数分で実施できる。その後、血液検査やアンチエイジングドックを実施すればよい。

表4 健やかな老いのための10か条(米国立老化研究所)

1)果物や野菜のジュースを1日最低5杯分とる。
2)定期的に運動する。
3)定期的に健康診断を受ける。
4)タバコは吸わない。今喫煙中なら絶対に禁煙をする。
5)転倒や骨折をしないよう、家の中の安全をチェックする。また車に乗るときには、必ずシートベルトを着用する。
6)家族や友人と頻繁に会うこと。仕事や遊び、コミュニティなどの活動にも参加する。
7)日光や冷気にあたりすぎない。
8)飲酒するなら軽く済ます。
9)予算や投資を節約するため日記や家計簿をつける。住宅費や必要な経費は計画をたてる。
10) 人生に対して前向きな考え方をする。

 
●おわりに
 本稿では、免疫機能・生活習慣の切り口から、アンチエイジングにおける検査について記述した。アンチエイジング医療は現在infancyの時期であるが、近い将来にはadolescenceとなり、免疫能の検査としてIL-6やNK細胞活性の測定が普及していくだろう。ただし、すべてのデータから総合的に判断することや、免疫・内分泌・神経系は常に相互に相関があることを忘れてはならない。
 生活習慣の立場からは、主として日々の運動習慣の継続が大きなポイントとなってくるであろう。

文献
1) 宮坂信之 監編. わかりやすい免疫疾患. 日本医師会雑誌134(特別号1):S2-S15, S28-S56, S106-110, 2005.
2) 廣川勝晃. 老化と免疫. 日老医誌. 40(6): 543-552, 2003.
3) 久保明. アンチエイジング医療の実際. 医学のあゆみ214(2) : 135-143, 2005.
5) Harris, TB et al.: Associations of elevated interleukin-6 and C-Reactive protein levesl with mortality in the elderly. Am J Med 106(5):506-512, 1999.
4) Richartz E, Batra A, Simon P, et al. Diminished production of proinflammatory cytokines in patients with Alzheimer's disease. Dement Geriatr Cogn Disord. 19(4): 184-188, 2005.
6) 坂口菊恵, 長谷川寿一. 唾液中testosteroneの液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析による測定. 臨床病理, 53(5) : 388-394, 2005.
7) Deanfield J et al.: Endothelial function and dysfunction. J Hypertens.23: 7-17, 2005.
8) 板東浩、吉岡稔人、中村巧、米井嘉一. マスターズ陸上選手に対する身体的・心理的検討. 臨床スポーツ医学22(12): 1523-1528, 2005

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