◆ 免疫と生活習慣ー1

●はじめに

 抗加齢医学の中で、サクセスフル・エイジングが注目されている。その中で重要なものに「免疫の機能」がある。つまり、加齢で免疫機能が低下してくると、悪性腫瘍が発生したり、種々のタイプの感染症を来たす。逆に免疫機能が亢進し過ぎると、アレルギー疾患や自己免疫疾患などが起こる。前者は外来抗原に対する過剰な免疫応答のために個体に不利な反応が起こる場合であり、後者は自己抗原に対する過剰な免疫応答によって病態が引き起こされる場合である。
 次に必要なのが、適切な生活習慣であり、食事、運動、休養、アルコール、喫煙という5つが含まれている。
 以上の2者を概観すると、免疫は目に見えず自由にコントロールできないものだ。一方、生活習慣は各自の意志によって、行動変容が可能である。適度な生活習慣の継続によって、加齢による免疫能の低下が最小限に抑えられ、サクセスフル・エイジングにプラスに働くことになろう。

●1・免疫のポイント

 免疫とは「疫を免れる」ことで、疾病から逃れて身を守るという意味である。免疫担当細胞について、理解しやすい標準的な図を示す1)(図1)。
 多能性造血幹細胞から、骨髄系幹細胞とリンパ系前駆細胞とに分かれる。前者は「自然免疫系」で顆粒球やマクロファージが関わり、誕生後すみやかに働き始める。一方、後者は「獲得免疫系」でB細胞、T細胞、NK細胞と分化する。生後から十分に働くのではなく、環境の中で様々な抗原に曝露され免疫機能を獲得していく。
 B細胞とT細胞の差異を考えてみよう。B細胞は骨髄で生まれ、速やかに末梢リンパ組織で働き始める。しかし、T細胞では、前駆細胞が骨髄で生まれた後に胸腺に移動。胸腺内ではT細胞の機能が厳しく選別されて95%が消滅し、わずか5%が末梢に出ていく。

 以上から、免疫システムでは、まずあらゆる抗原に対応できるB細胞と、T細胞のグループを作り出しておく。その後、自己と反応する不都合な細胞を除去し、抗原と適切に反応できる優秀な細胞を残しているのだ。
 その結果、自己と非自己をリンパ球が識別するという以前の説ではなく、むしろ、自己とは反応せず非自己と反応する有用なリンパ球を選りすぐっていると考えてよい。

図1 血球細胞の分化1)
 リンパ系幹細胞から、B細胞、T細胞、NK細胞の系が分化していく。最近になって第4番目のリンパ球として、NK細胞特有の細胞表面マーカーを有したT細胞が同定され、現在研究が進んでいる。

●2・CD4-T細胞と胸腺

 加齢に伴って免疫能が低下する。その主因は、人やマウスの検討で「CD4T細胞の機能低下」という。2ヵ月と20ヵ月のマウスCD4Tを刺激すると、老齢細胞には十分な活性誘導が認められなかった1)(図2)。
 CD4T細胞の由来は、T前駆細胞が胸腺で分化・成熟し、成熟したCD4T細胞が胸腺から末梢に移動する。胸腺の重量変化はよく知られ、新生児期のピーク後次第に萎縮して脂肪組織になる。この重量変化と平行し、CD4T細胞の数が激減してくる。
 この胸腺の萎縮こそが、加齢に伴う免疫機能の低下に大きく影響している。マウスT細胞の機能と、胸腺や生体環境、T前駆細胞などとの関係を検討すると、胸腺年齢が最も重要であった。胸腺が免疫系の形成と衰退に主な役割を演じていると言えよう。
 胸腺萎縮には、内分泌系が関わっている。新生仔期の成長ホルモン(GH)血中濃度はadult期の10倍高く、胸腺は機能を発揮し重量も維持される。GHは4週でadultレベルまで低下し、併せて胸腺重量も低下する。また、ラットの視床下部を破壊すると血中GH濃度が10倍に上昇し、同時に胸腺肥大が認められるという。
 以上をまとめると、免疫機能を担う胸腺の機能は新生児~乳児期に高く、数え切れない抗原刺激を受け、T細胞が教育を受けて免疫を獲得する。思春期には胸腺が明らかに萎縮し、加齢とともに免疫能は劇的に低下していく。従って、中高年期における免疫能の低下は、本来生体の遺伝子にプログラムされていると考えてよいだろう。

 なお、免疫の加齢変化について、概要を表1にまとめた。

図2 若齢・老齢マウス由来のCD4T細胞の応答性2)
 △は2カ月齢、□は20カ月齢、抗CD3抗体でポリクローナルにCD4T細胞を刺激し、細胞増殖を測定した。A: 抗体濃度を変えて刺激。いずれの濃度でも老齢CD4T細胞の活性化は、誘導されていない。B: 刺激培養時に抗原提示細胞(APC)数を変えて培養。若齢CD4T細胞の活性化は誘導されたが、老齢では誘導が認められなかった。

表1 加齢に伴う免疫能の低下

胸腺の機能  免疫機能は生後の早期から低下
       誕生時に比して、4週以内に6~15%程度まで低下
胸腺の重量  約20gの重量は加齢とともに退縮
       新生仔期の成長ホルモン(GH)血中濃度はadultの10倍
       4週でadultレベルまで低下し、胸腺重量低下と同時期
       視床下部破壊によりGH濃度上昇と胸腺肥大を認める
       免疫能の低下について、主な原因の一つ
Tリンパ球  T細胞の増殖能やキラーT細胞活性、T細胞に依存する抗体産生能 
       などが、ピーク時の10分の1以下まで低下
Bリンパ球  B細胞の増殖能は、加齢によっても1~2割程度の低下にとどまる
       抗体産生能は低下
      (B細胞の内在変化and/or ヘルパーT細胞活性の低下が関与)
       IgGおよびIgA濃度は上昇、形質細胞数は増加
T細胞subset 胸腺のT細胞産生能は新生仔期100%、4週で85%、2年で65%
       T細胞の全体数は加齢とともに減少
       末梢でCD4+T細胞よりCD8+細胞がより大きく減少
       胸腺でCD4+T細胞よりCD8+細胞の産生がより大きく減少
       CD4+T細胞にはナイーブT細胞とメモリーT細胞の亜集団あり
       加齢に伴いナイーブT細胞は減少、メモリーT細胞は増加
NK細胞    NK細胞数は加齢に伴って増加する、
       NK細胞の機能は低下(5割超えない程度)
NKT細胞   T細胞とNK 細胞の両方のマーカーを有し、免疫機能調節に関与
       加齢に伴ってNKT細胞数は増加
樹状細胞   樹状細胞(DC)は抗原を提示する機能あり
       健康高齢者では著変が認められない
       健康問題を有する高齢者では、機能が低下
       皮膚の樹状細胞のランゲルハンス細胞数が低下、樹状突起の減少

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