◆ 代謝のしくみー2

 「代謝」とは何だろうか?これは、下記のように
・エネルギーの産生と消費のこと
・同化と異化の反応
・3大栄養素の糖質・蛋白質・脂質が、 その姿や形を変えること、と表現される。本稿では、代謝の担い手と働きについて、糖質と脂肪を中心に概説するとともに、基礎と臨床をつなぐ知識についても触れたい。

●1)糖質の代謝
 糖質は炭水化物とも呼ばれ、Cn(H2O)nで表される。主にデンプンやショ糖の形で食物に含まれ、消化管で単糖類に分解され吸収される。糖質の種類について、主なものを示す。
1) 単糖類
 ブドウ糖:脳のエネルギー源となる
 果糖:果物や蜂蜜に含む、別名フルクトース
 ガラクトース:二糖類や多糖類の形で存在する
2) 二糖類
 ショ糖:砂糖の成分、乳糖:ほ乳類の乳、麦芽糖:別名マルトース
3) 多糖類
 でんぷん:穀類やイモに含まれる
 グリコーゲン:肝臓や筋肉にエネルギーを貯蔵
 セルロース、ペクチン:食物繊維として知られる
 以上の中で、ポイントとされる主なものを図7に示す。

 単糖類の中で代表的なものがブドウ糖(glucose)だ。ブドウ糖は、細胞の中に取り入れられて燃える。目に見えるように炎を出して燃えるのではないが、ゆっくりと化学的に燃えるのだ。専門的には、ブドウ糖が解糖を受けてTCA回路でATPを産生し、これでエネルギーをつくり出すことになる(図8)。
 この場合、無酸素的代謝(嫌気性解糖系)では、ATPの産生はわずか2個だけだ。ダッシュなど瞬発系運動で筋肉でみられる状態である。
 一方、有酸素的代謝(好気的解糖系)では、TCA回路でATPが38分子が産生される。エアロビクスなど有酸素運動をしている際に、持久系の筋肉で認められるものである。
 エネルギー源であるブドウ糖は、肝臓や筋肉の中にグリコーゲンという形で貯蔵される。必要時には、容易に分解されてエネルギーを供給できるのだ。糖質1gは4kcalの熱量を有する。
 この栄養学で用いる4kcal(キロカロリー、kcal=Cal)は、化学で用いる4000calに相当し、40ccの0℃の水を100℃まで上げられるエネルギーを有する。10gなら400ccの水を0℃→100℃にできるパワーがある。
 これはどれほどのエネルギーなのだろうか。コーヒー缶1本(250cc)には約120kcalのエネルギーがあり、糖分30gが含まれる。缶の3分の1を飲んで10gの糖分を摂取した場合を考えよう。身体の中で産生されるエネルギー量は、カップラーメンを食べる際に注ぎ込む400ccの熱湯を作るために、0℃から100℃まであたためるパワーと同じである(図9)。エネルギーが一瞬で燃えて爆発するダイナマイトとは異なって、身体の中でゆっくり燃えるので、私達はそのエネルギーの大きさを感じられないというわけだ。
 生体内には300~400gの糖が、主に肝臓や筋肉にグリコーゲンとして存在している。しかし、絶食を行うと約1日ですべて消費される量である。従って、エネルギー貯蔵として大きな働きは望めない。

●2)糖質とインスリン
 糖質代謝とは、ブドウ糖とインスリンの関係であり、臨床的には糖尿病の病態に関わってくる。ここでは、そのポイントを解説しよう。
 化学コンビナートの工場群がある。パイプラインが巡り、その傍らにいくつかの工場があり、各入口には力自慢の力士が待機している(図10左)。パイプの中に流れているのが、エネルギー源の「米俵」。これをせっせと運び込むのが力士である。工場に入った米俵は工場で燃やされて、大きなエネルギーを作っているのである1)。
 これと似ているのが、人間の身体である。図10右のように、バイプラインは血管に相当し、米俵はブドウ糖に、工場は細胞に、力士はインスリンに該当する。ブドウ糖を細胞にとりこむときに助けとなるのが、インスリンである。従って、もしインスリン量が不足したり、インスリンの働きが悪ければ、ブドウ糖を細胞内にとりこめない。すると、血液中を流れるブドウ糖がだぶついてくる。これが血液中の糖分が高い状態で、高血糖となるのだ。
 次に、この細胞がブドウ糖を取り込むメカニズムをみてみよう。図11は筋肉や脂肪の細胞を示しており、細胞表面にはインスリン受容体がある。インスリンの粒子が流れてきて、ここにくっつく。するとシグナル(様々な命令)が伝わって、GLUT(ブドウ糖輸送担体)4を刺激させる。GLUT4によって、ブドウ糖が細胞の中に入ることになる。つまり、インスリンの働きで、血液中を流れているぶどう糖が筋肉や脂肪の細胞の中に取り込まれ、エネルギーを作る。この時に血液中のブドウ糖が消費されるので、血糖が低くなる、というわけだ。

 それでは、このインスリンはどこから流れてくるのだろうか?ご存じのように、膵臓のβ細胞のランゲルハンス島である。次に、インスリンがどのように分泌されるのかを図12で説明しよう。β細胞の表面にあるGLUT(ブドウ糖輸送担体)2を介して、ブドウ糖が流入してくる。次に、シグナルが伝わってカリウム(K+)チャンネルが閉鎖されることで、カルシウム(Ca2+)チャンネルが開き、Caが流入してくる。その刺激により、分泌顆粒内のインスリンが血中へ開口して分泌されるのだ。
 これらの基礎的知識が、臨床へとつながっていく。車が走るのと人間が動くのは同様なものであると前項で述べた。車では、ガソリンがうまく燃えるためにはキャブレターやオイルなどが必要であり、その量が不足せず、きちんと働く必要がある。
 同様に、ヒトで糖質がうまく燃えるためには、インスリンが必要であり、インスリン量が不足せず、きちんと効率よく働く必要がある。ここで、インスリン量が全く不足している状態が1型糖尿病であり、量が不足したり効率よく働かない(インスリン抵抗性がある)のが2型糖尿病である。
 健常者では食事摂取で血糖が上がりかけても、インスリンが迅速に十分に分泌され、図13のようにインスリンが肝臓、筋肉、脂肪組織に働きかけて血糖を安定させる2)。
 
●3)脂質の基本
 脂質は、脂肪酸やその誘導体などを含む一群の物質を総称したものである。
 体内の脂質は、2つに大別される。一つは、栄養素としての脂肪を指すもので、単純脂肪と呼ばれる。他方は複合脂質(類脂肪体)であり、リン脂質、糖脂質、アミノ脂質など脂質と他の成分が結合したもの。人体では、脳や神経、肝臓などの臓器で大切な構成成分を担っている。
 また、構成成分や存在部位によって、下記のように分類される。
 1)組織脂肪:細胞膜や細胞の構成の成分となっている脂質。主に、リン脂質やコレステロールなどの成分であり、これらは体内でエネルギー源としては用いられない。
 2)貯蔵脂肪:よく知られているものに皮下脂肪があり、内臓脂肪として腸間膜や筋肉の間、臓器の周囲などに貯えられているものもある。これはエネルギー源であり、必要時に脂肪を燃焼させてエネルギーを産生する。過剰になった状態が肥満と言える。
 3)血中脂肪:人の血液中には、
・中性脂肪(triglyceride)、
・リン脂質(phospholipd)、
・ステロール(sterol)、
・遊離脂肪酸(free fatty acid; FFA)などがある。
 脂質の構成元素はCとHとOである。
 脂質の主な働きとして、まず貯蔵栄養があり、そして必要時に大きなエネルギーを生み出すことがある。糖質やタンパク質に比べて、1gあたりの熱量が9kcal/gと大きいからだ。
 脂質の代謝として、脂肪酸がβ酸化したアセチル-CoAはTCA回路に入ってエネルギーを生み出したり、ケトン体を産生する(図6)。

●4)脂質の運び屋
 日本では宅急便が普及しており、配達する荷物を荷台に乗せたトラックが、全国各地をくまなく移動中。大きなトラックの場合もあれば、乗用車の屋根のキャリアーに荷物を載せて走る乗用車の場合もあるかもしれない。なお、その名前は可愛いくて、ネコとかペリカンだったり?!
 さて、これとよく似たことが、ヒトでも常に起こっているのだ(図14)。配達する荷物は「脂質」であり、乗り物は「リポ蛋白」というもの。名前の通り、脂肪(lipo)+蛋白から構成され、数種類がある。「脂質」は次々と乗り物を換えながら、体内を移動しているのだ。
 リポ蛋白の特徴は、水とも脂(油)とも仲がよく、身体の中のすみずみまで運ぶことができる。運び屋という意味で、担体やキャリアー(carrier)と呼ばれていた。そのリポ蛋白の基本的な構造を図15に示す。
 リポ蛋白の種類には、カイロミクロン(CM)、VLDL、IDL、LDL、HDLなどがある(表1)。その大きさは、CMを2000個並べるとようやく1mmになる程度(図16)。
 通常、試験管に土や砂、石を入れて遠心すると、軽いものは上に、重たいものは下に沈む(図17)。この原理を利用して、、超遠心法によって分類されたものである(図18上)。
 また、超遠心法とは別に電気泳動による分類がある。ポリアクリルアミドゲル電気泳動(polyacrylamide gel electrophoresis; PAGE)は、構造的(容積的)な大きさ、構造的特徴、その物質が有する荷電の性質を利用してふるい分ける方法だ(図18下)。構造が大きくマイナス荷電の弱い物質は流れにくく原点付近に留まり、逆に、構造が小さくマイナス荷電が強い物質は流れやすい。最も大きく流れた下流のバンドをαとし、続いてβ、preβ、原点と名付けた。比重の分類と合わせて照合すると、原点にカイロミクロン、preβがVLDL、mid bandがIDL、βがLDL、αが球状化したHDLとなった。
 リポ蛋白の代謝は、外因性と内因性経路に分けられ、その概要を図19に示した。

●5)脂質のしくみ
 ナースが脂質に関わることが多いのは、栄養学的にみる場合である。基本的理解としては、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がある。この違いは、飽和脂肪酸は、炭素の4本の手すべてに水素が結合し飽和し、不飽和脂肪酸は炭素同士の二重結合があり、炭素の4本の手がすべて飽和していないことを意味している(図20)。
 不飽和脂肪酸の炭素数(n個)について、最後(メチル基)から何番目に二重結合があるかによって、
n-9:最後から9番目
n-6:最後から6番目が最初の二重結合
n-3:最後から3番目が最初の二重結合
と分類される。以前はnの代わりにω(オメガ)が使われていた。二重結合が一つあるのが一価で、2つ以上が多価と呼ばれている。
 必須脂肪酸は2つに大別され、n-6系とn-3系とに分かれる。n-6系の代表的なものはリノール酸で、n-3系の油にはα-リノレン酸、EPA、DHAなど知られている3)(表2)。
 なお、人が栄養を摂取する場合に、三大栄養素によるエネルギーバラ ンスは、英語の頭文字をとって「PFCバランス」と呼ぶ。適正な比率として知られているのは
・糖質(Carbohydrate, C) 55~60%
・タンパク質(Protein, P) 15~20%
・脂質(Fat, F)    20~25%である。簡単に60、15、25でもよい。重量ではなくエネルギー比率であることに注意する。1日熱量が1800kcal、脂質摂取が25%の場合、脂質は450kcal/日。9kcal/gで割算し、脂質摂取量が50g/日となる。なお、実際の食物では不純物があるため、1gあたり7 kcalで計算する。

文献
1) 板東浩. イラストと川柳で学ぶ糖尿病. 総合医学社. 2003.
2) 竹田津文俊, 中村美鈴. 高脂血症. 月刊ナーシング22(14): 94-103, 2002.
3) 板東浩. 高脂血症に対する栄養学. 治療85: 2931-2937, 2003.

●補)代謝に関わる英単語
 さてここで、英単語の話題に触れよう。日本語の代謝は英語でmetabolismと言う。
この中で、meta-とは、後~、共~、超~、変化した、という意味だ。癌の転移はmetastasis で 、meta(変化して)sta(立っている)sis(状態)と分解される。
 動物の変態は、metamorphosisと言い、meta(変化して)+morph(形、形態、型)+o(連結形)+sis(状態)である。なお、morphは形態、 変異型、変身を意味し、Morpheus(ギリシャ神話のモルフェウス、眠りの神、夢の神)や、morphia(モルヒネ、痛みを押さえ七転八倒の状況を変えて楽に眠らせる薬)にも関係している。以前に、昼の主婦向け番組で、髪や化粧、服を変えて別人のように変身するコーナー「metamorphosis」があったのを覚えているだろうか。
 metabolismとは、物質が身体の中にはいってきて変化することである。物質は身体で異化されたり同化されたりする。代謝のプロセスが障害されると、身体のホメオスタシス(恒常性、homeostasis= home(類似の、同種の)+o+stasis)が保たれなくなる。関連する医学用語に、近年注目されているホメオパシー(homeopathy)がある。これは、ホメオパシー医療、同種療法、類似療法と呼ばれ、健康人では大量投薬しないと効果がない薬を患者に少量与える治療法とされる。

表1 リポ蛋白の種類
VLDL very-low-density lipoprotein    超低比重リポ蛋白
IDL intermedicate-density lipoprotein   中間比重リポ蛋白
LDL low-density lipoprotein        低比重リポ蛋白 
HDL high-density lipoprotein       高比重リポ蛋白
VHDL very-high-density lipoprotein    超高比重リポ蛋白

表2  脂肪酸の種類とその特徴  (9-10ポイントの活字で表となる)

種類    脂肪酸の名称   炭素数 二重結合数 含む食品など   特徴ほか

飽和脂肪酸   ラウリン酸    12   0   ヤシ、ココナツ   基本的には常温で「固体」
        ミリスチン酸   14   0   ヤシ、ココナツ   血清TC、TGを増加させる
        パルミチン酸   16   0   牛肉、バター、ラード  血小板凝集能を高める
        ステアリン酸   18   0   牛肉、バター、羊肉、 動脈硬化のリスクを高める

一価不飽和脂肪酸  オレイン酸  18  1  オリーブ、キャノーラ  血清TCを減少させる
                                  
  過酸化脂質を作りにくい(n-9 系)                               
  心臓病・癌の発病率を低下
                       

多価不飽和脂肪酸  リノール酸   18   2   大豆、コーン、紅花  体内で合成できず食品で摂取
 (n-6 系)    γリノレン酸   18   3   大豆、コーン、紅花  血清TCを減少させる
          アラキドン酸   18   4   卵、レバー   過剰摂取で心臓疾患、癌、アレルギー、老化を促進

多価不飽和脂肪酸  αリノレン酸   18   3   しそ、ごま    血圧降下、抗がん作用
 (n-3 系)                                
  血小板凝集を抑制

          EPA      20   5   いわし、さば、さんま
  基本的には常温で「液体」
          DHA      20   6   かつお、まぐろ   
  TCおよびTGを減少
                                      
  LDLを減少、HDLを増加
                                      
  動脈硬化や心筋梗塞を防ぐ

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