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ラオスの医療

ラオスの医療

日本プライマリ・ケア学会
有馬弘毅、川久保 亮、小松 真、広川 恵一、石川 澄、板東 浩

 日本プライマリ・ケア学会では、今回、会長以下6名が平成6年8月20ー25日にベトナム・ラオス・タイ3国を訪れ、厚生省や医療施設などを視察した。本稿では、この中でラオスの病院について報告する。
 ラオス人民民主共和国は、面積23万Km2で、人口380万人を有し、首都はビエンチャンである。今回、我々は、ビエンチャンにあるMahosot病院を視察し、管理責任者である外科医のThovisuk氏と臨床検査部長のSoukhaseum氏から話を伺い、病院内を視察することができた。
 まず、ラオスの医療の現況であるが、経済的に余裕がないため必要十分な医療機器を購入できていない。従来より病院の通院代および医者の診察代は無料である。しかし、1993年2月からは、薬の代金は患者が支払う制度に変わった。ただし、僧職にある者、60歳以上の高齢者、学生は無料である。現在、6割の人々は支払う能力があり、彼らが他の人々をも支えているのが現状である。これは互助の精神で、現在の制度で大きな問題はないので継続している。
 ビエンチャンには4つの大きな病院があり、いずれも国立病院である。Mahosot病院はその一つで、ベッド数は420、医師数は150, そのうち心臓病専門医、泌尿器専門医、産婦人科医などの専門医は15名である。昨年の外来の延べ患者数は7万人で、救急部門も設置されており、交通事故などに対処している。
ラオスの教育制度は日本と異なり、小学校5年、中学校3年、高校3年である。高校卒業後、医歯薬関係については、医学部6年、薬剤師5年、歯学部4年、保健婦、看護婦、臨床検査技師、放射線技師などは3年となっている。これらの学生の多くは、Mahosot病院で研修を受けており、他に軍隊病院や地域病院でも臨床研修が行われている。医学教育で使用する言語は、ロシア語、フランス語、英語、ラオス語などである。医学部は国内に1つあり、年間に約200名の卒業生があるが、卒後の研修制度として、明確なプログラムがあるわけではない。
卒後7年臨床研修すれば、個人的開業は許可されるので、患者が多い医師は診療所を開設することができる。この場合、診療所には十分な医療機器が設置できていないので、患者は病院で検査をうける。すなわち、病診連携によって、診断と治療が行われている。
 疾病の種類としては、外来患者は、マラリア、発熱、下痢(アメーバ性、細菌性、ウイルス性)、肺炎、結核、外傷などが多い。入院では、低栄養を含む様々の疾病患者を加療しており、昨年は白血病は2例あった。検査機器としては、ルーチンの血液検査に加えて、X線検査、エコーなどが設置されている。
 急性感染疾患患者が多いが、慢性疾患については、高血圧、高脂血症などの慢性疾患患者もある。薬の入手については不便は感じないとのことで、国内には2つの製薬会社があり、ステロイド剤、アレルギー剤、抗マラリア剤、ビタミン剤などを含め、基本的な薬は国内で生産できており、70%の薬は国内で生産されている。ただし、ホルモン剤、麻酔薬、心臓血管薬は国外からの輸入に頼っている。
医師の平均的な給与は、一般の人々と大差はなく、個人的に開業しても大きく変わらないという。
ラオスには、公的科学的医療団体として、医師会(医療会)があり、医師、歯科医、薬剤師、看護婦、保健婦などが入会している。
今までに、仕事で個人的に病院を訪れる日本人はいたが、政府や公的機関から訪れた視察団はなく、今回が初めてである。臨床検査部には、日本から海外協力隊でラオスに派遣されて2年間働いている技師がいる。また、病院内には約200名のボランティアが働いているという。
ラオスでは最近、政府の政策でもあるが、出生率は増加している。特に産児制限を行っていないが、数年毎の出産が推奨されている。人工中絶は公的許可が必要であり、ピルやコンドームも入手可能である。
 次に、Soukhaseum医師が親切に私たちを病院の各部門を紹介し視察させて頂いた。病院玄関には、診療を受ける方法が写真で図示されており、患者が惑わないような配慮が感じられる。また、栄養に関するポスターでは、1)炭水化物、2)タンパク質、3)脂質、4)野菜、5)果物と5つに分類され、わかりやすく図示されており、ラオスにおける栄養学の教育の重要さが感じられた。そして、その脇には、この病院に献金をした様々な法人、企業名が数十件紹介されていた。また、受付の近くに薬局があり、日本の病院と似ており、多くの患者が診察や薬を待っている。
 病院の入口のすぐ左には内科診察室があり、右には小児科の診察室が並んでいる。内科の受付は、日本のようにガラスで仕切られたようなものではなく、看護婦2-3名が患者が机ひとつへだてて向かい合って、簡単な問診や健康のチェックが行われている。あらかじめ、体温と血圧を看護婦が測定してから、医師の診察を受ける。その日には、5名の医師が外来を担当していた。診察室は6畳くらいの広さで、診察ベッドと机があり、ほかには特に医療機器はみあたらない。しかし、プライバシーが保たれるように、ドアつきの個室でそれぞれ診療が行われていた。
 内科受付の脇には、臨床検査室があったが、自動分析装置は、検血、生化学、および電解質の3つで、いずれも項目数は少なく、これで、外来および入院のすべてを数年間カバーしているとのことであった。血清学的な検査は、長年に使用されていると思われるフラスコや試験管を用いて、それぞれ手間をかけて行っていた。他の臨床検査で特徴的なものとしては、急性感染症が多いので、尿、便、分泌液などの、培養検査部門が大きな比重を占めていることが挙げられる。この部門には、7-8名の技師がいるが、その中の2名は日本とフランスからの海外協力隊のボランティアであった。彼女らの印象を尋ねたところ、いくつかの問題点が挙げられた。「技師間の知識レベルの差が大きい。海外からのボランティアが不在の時には、器械を作動できない場合がある。培養液は日本ではキットとして購入すればよいが、こちらでははじめから作成するなどその準備を整えるのも大きな仕事である。もし、培養液のキットを日本から供与されたとしても、そのキットがなくなれば、培養液を作れる人がいなくなれば検査がストップする。国外留学などによる国内の人材の養成が急務と考えられる」との話であった。
 X線検査室を訪れたが、胸部や腹部単純X-Pなどの画質は大変良好であった。透視の装置は古いが、メンテナンスはうまくできている。腹部エコーは、第1ー2世代の器械を用いて、ドイツ人医師が行っていた。ラオスでは、近年、ドイツに数年間臨床研修を受けにいく医師が増えているという。
 母子科と訳したらよいのであろうか、妊娠中、および出産後の母と子の健康管理については、別に科が作られている。新生児の人形や乳房のモデルなどを用いて、わかりやすい健康教育が勢力的に行われている。新生児・乳児への食事や離乳については、イラストが豊富なポスターを用いてスタッフが教育している。ワクチンは、ポリオ、麻疹、百日咳、結核など6つの疾病に対して行われている。身長と体重の成長曲線のポスターがあったが、興味深かったのは、日本では肥満度という言葉が、やせ度という用語を用いていたことであった。
 以上のように、ラオスの病院を視察し、その医療制度と医療現場を少しであるが報告した。今後、日本が援助できることを検討するとともに、ラオスの医療の発展に期待したい。

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