◆ ホルモン年齢の概念と評価方法

主旨
・血液検査の項目では、正常値よりも加齢を考慮し目標とするオプティマル値を重要視する。
・IGF-1は健康観の維持に重要。optimal値は200~350ng/mlで、GHの補充療法を施行できる。
・メラトニンは良い質の睡眠に有効で、濃度よりも患者の評価を参考に調節するとよい。
・DHEA-s濃度の測定は今後の抗加齢医学に重要で、DHEAの補充療法で効果が期待される。
・女性のみならず男性でも更年期の存在を考慮し、内分泌的精査や診断、治療を行う時代が近い。

はじめに
 抗加齢医学の幕開けは、1990年のThe Rudman Studyである。ウィスコンシン州立大学のRudmanが健康な高齢者に成長ホルモン(GH)を連日注射してプラセボ群と比較し、明らかに除脂肪体重、骨密度、皮膚厚の有意な増加と体脂肪の有意な減少を明らかにした。その後、米国でアンチエイジング医学が展開し、本邦でも日本抗加齢医学会による大きなうねりが認められる1)。
 抗加齢医療は21世紀に飛躍していく体系である。従来の診断と治療と比較して、血管や神経、筋、ホルモン、骨などの側面からの研究が特徴的と言える。この中でホルモン年齢は、濃度を測定して加齢で不足する該当ホルモンの補充が可能であり、すでにHormone Replacement Therapy (HRT)が施行されている。
 本稿では、GH/IGF-1やDHEA-s、性ホルモン、メラトニンなどについて概説し、ホルモン年齢の概念と評価方法についても解説を行う。

■ 加齢とホルモンの概説
 一般に、加齢によって人には様々な症状が見られるようになる。その中で、ホルモンの低下に関わる症状を表1に示した。これらには、加齢に伴う4つのpauseが関与している。つまり、
1) somatopause GH/IGF-1   下垂体/肝
2) adrenopause DHEA      副腎
3) andropause テストステロン  精巣
4) menopause エストロゲン   卵巣
 とまとめられる。これらを踏まえたうえで、アンチエイジングを考えていきたい。問診と検査で評価し、治療や対処には、食事療法(サプリメント療法を含む)、運動療法、精神療法の三本柱がある。これに加えて、必要時にはホルモン補充療法を含む薬物療法なども行いうる。
 各年齢で心身ともにイキイキとした理想的な健康状態が望ましい。これをオプティマル・ヘルス(optimal=最適の)と呼ぶ。血液検査で各項目には正常値(参考値、標準値)が設定されている。しかし、その範囲内にあればよいのではなく、年齢や対象者に応じた目標値として「オプティマル値の概念」が重要となる2)。
 これらに加え、将来にはbody mass index (BMI)を算出し、医学的根拠に基づいた方法での設定が望まれる。さらに、これらの解釈に各人のライフスタイルを加えて評価し、アドバイスや治療を行っていくのが理想であろう3)。

表1 加齢によるホルモンの低下に伴う症状2)

1)エネルギーの低下
2)運動能力や筋力の弱体化
3)性的ときめきや、精力の低下
4)意欲・精神的な鋭さの低下
5)視覚能力の低下
6)除脂肪筋肉量の減少
7)骨粗鬆症の進行
8)皮膚のツヤ・ハリ、柔軟性の低下

■ GH/IGF-1系
 下垂体から分泌される成長ホルモン(GH)は、肝臓で作られるIGF-1(ソマトメジンC)との相互作用によって、様々な組織や器官、臓器の成長に関わっている。GH分泌の欠乏が幼児期にあると、成長ホルモン分泌欠乏性低身長症(小人症)を引き起こす。GH分泌の過剰が成長期に起こると巨人症が、骨端閉鎖後に起こると先端巨大症となる。
 GHの分泌は、視床下部の成長ホルモン放出ホルモン(GRH)とソマトスタチン(GIH)から二重支配を受けている。GIHのトーヌス上昇やGH分泌細胞の機能低下などにより、加齢とともにGHの合成・分泌は低下する。GHの分泌はepisodicであるので、GHの血中濃度の値だけから評価は難しい。代わりにGH分泌レベルの平均的指標であるIGF-1濃度は変動が少ないため、評価に適している。
 GH/IGF-1は成長が止まった後も分泌が継続し、役割として細胞のアミノ酸の受け渡し、取り込み、同化などがある。抗加齢の立場からは、若く厚い皮膚の形成、骨の強化、性的能力の維持、免疫の強化、心臓の拍出力の強化、視力の改善、健康観や意欲、記憶力の改善などが挙げられる。
 GH/IGF-1は若さや健康の維持に関与し、GH/IGF-1レベルは30歳頃から明らかに低下する。同レベルを下げる因子は運動不足、ストレス、睡眠不足、過労、高炭水化物食、合成エストロゲン製剤の内服などである。逆に上げる因子は運動療法(負荷トレーニング)、精神療法(ストレス回避、高い質の睡眠)、食事療法(高蛋白、高アミノ酸)などがある。GHの補充療法は、冠血管機能、脂質レベル、血圧に有効とされる1)。
 IGF-1のoptimal値は200~350ng/mlである。高値が良いのではなく、500ng/ml以上が長期に続くと心臓肥大や癌の頻度が上昇する2)。

■ メラトニン
 メラトニンは松果体から分泌され、その役割は体内時計として睡眠と覚醒のリズムを調節し、睡眠の質を高める。また、免疫力を高めたり、強い抗酸化作用が認められ、高い質の睡眠に伴ってGH/IGF-1分泌を刺激するという。
 メラトニン濃度は小児期に最も高く、成人後に低下してくる。これが加齢に伴って頻度が高くなる睡眠障害に関与しているという。また、同濃度は大きく変動する日内変動を示すので、メラトニン濃度の数値だけで評価するのは難しい。
 臨床的に、様々な睡眠障害の症例にメラトニンの投与が試みられている。約25時間の周期で睡眠覚醒リズムを繰り返す「非24時間睡眠覚醒症候群」に対するメラトニン投与により、リズムの改善が認められた自験例も認められる。
 通常の投与量は、0.5~10mg/日と幅が大きい。投与量で判断するのではなく、患者の評価を参考にし、増減しながら適量を決めていくとよい。今後の課題としては、睡眠時無呼吸症候群におけるメラトニンの効果や、睡眠薬と同薬の選択の判断などが挙げられる。

■ DHEAおよびDHEA-s
 下垂体ー副腎皮質系やDHEAについて、加齢に伴う変化のポイントを示す3)。
 1)下垂体からのACTH分泌は、若年者と高齢者との間で差異はなく、コルチゾルの合成、分泌にも大きな変化はない。
 2)DEHAの90%が副腎由来で、血中DHEAはDHEA-sの0.1~1%と微量なので、血中アンドロゲンのほとんどはDHEA-sである(図1)。
 3)DHEA-sの血中濃度は、加齢に伴って大きく低下する3)(図2)。DHEAの分泌量は、青年期にピークに達してその後減少し、70歳でピークの20%、85歳では5%となる。その原因は、17,20-lyse活性の相対的な低下による。
 4)DHEA-sのアンドロゲン活性はテストステロン(T)の約5%ほどと低い。「若さの泉」として知られるDHEAは人の体内で産生されるステロイドの中で最も多い1)。歴史的には1934年に日本人が発見し、1996年にはRegelsonが「DHEAはスーパーホルモン中のスーパースターである」と述べ、若返りを約束(Super Hormone Promise)した4)。動物実験ではDHEAによる寿命を延長が示唆されている5)。DHEA補充の効果には性差がある。男性では体力増強や脂肪減少は男性にはあるが女性にはみられず、血中テストステロンの上昇は男性にはないが女性には認められる。

図1 DHEAとDHEA-sの合成経路

Cholesterol            
 ↓                     
Pregnenolone(P5) → 17-OH P5 →  DHEA ←→ DHEA-s
 ↓          ↓      ↓
progesterone(P4) → 17-OH P4 → androstenedione  
 ↓          ↓      ↓
 ↓          ↓
aldosterone     cortisol Testosterone → Estradiol

図2 加齢に伴う血清DHEA-s濃度の変化3)

割愛

■ 女性の更年期障害
 女性は45~55歳頃に閉経(menopause)を迎え、更年期が訪れる。更年期障害はエストロゲン分泌の低下が主因であり、様々な症状が現れる。年齢と症状のおおよその目安を表2に示す。

表2 年齢と更年期障害の諸症状

年齢     症状
40~50 月経異常、月経不順、不正出血
     (女性ホルモンの不足が始まる)
45~55 ほてり、のぼせ、発汗、動悸、めまい
     (自律神経失調症の多数を含む) 
50~60 頭重感、不眠、不安、憂うつ
     (精神神経症状などを含む) 
55~   高血圧、高脂血症、心臓病、脳卒中
     (動脈硬化に関わる疾病を含む)
60~   骨粗鬆症、骨折、腰痛
     (骨代謝に関わる疾病を含む)

 更年期障害に対するHRTは、本邦でも30年以上行われ、多数の症例がある。研究の継続により、更年期障害の原因として、エストロゲン不足のみならず、DHEAやGH/IGF-1の加齢に伴う分泌低下の関与が示唆されている。
 近年、DHEA-s濃度が低い場合に、加齢に伴う諸症状がDHEAの補充療法で改善するエビデンスが蓄積しつつある。そこで、DHEAの補充療法後にHRTを行う方法が報告されており、そのポイントを簡潔に示す2)。
 1) 必要な診察とホルモン測定を行う。
 2) DHEA-s濃度がoptimal値より顕著に低値の場合、DHEA補充が有効と考えられる。投与量は5~100mg/日であり、25mgから開始し、2~3ヵ月毎に濃度をチェックして、DHEA-s濃度のoptimal値(200~350μg/dl、女性で200μg/dl)を目安とする1,2)。
 3) エストロゲン濃度および臨床症状をみて判断し、天然型エストロゲン製剤を経皮的に投与できる。血清エストラジオール濃度が20~100pg/mlを目安とし調節する方法が推奨される。
 4) 経口投与の合成エストロゲン製剤の場合、天然型よりも、血栓や静脈炎、腫瘍の発生、肥満などの副作用の頻度が高い。その一因として、経口では消化管から吸収されて門脈から肝に運ばれ、肝でのIGF-1産生を阻害する可能性が指摘されている。一方、経皮では直接血流に入るため、肝での代謝の影響が少ないと考えられる。
 5) 上記に加えて、補足的にインドール3カルビノールやテストステロン、甲状腺ホルモンを投与する場合もあり、詳細を表3に示した。

表3 中高年女性のアンチエイジング2)を改変

1)共通問診票・各種ホルモンの測定
2)DHEA経口投与
3)天然型エストロゲン経皮投与
4)補足療法
 インドール3カルビノールの投与
  (乳癌・子宮癌の予防)
 テストステロン経皮投与
  (意欲低下・抑うつ状態・骨粗鬆症)
 甲状腺ホルモン測定
  (甲状腺ホルモン低下症・相対的不足状態)
5)治療効果の判定
  (共通問診票・各種ホルモン測定)
6)定期的検査
  (年1回の人間ドック・癌検診など)
7)推奨される検査項目
  IGF-1, DHEA-s、総テストステロン
  エストラジオール、プロゲストロン、
  TSH、free T4、free T3

■ 男性における更年期障害
 男性の更年期という概念は、欧米では10数年、本邦では5年前から広まっている。
その原因は、加齢による男性ホルモンの不足である。検査としては、血清中の総テストステロン(T)濃度や遊離T濃度を測定できる。
 症状は身体や心の症状、自律神経症状など多岐にわたる。頻度が高いのは意欲の低下やうつ症状などで、抗うつ薬がよく投与される。この場合、性欲低下や勃起不全(ED)を来たすので、抗うつ作用を有するT投与が有効である。DHEAの投与も同様の効果が期待され、女性の更年期と似た方法で治療できる2)。DHEA-s濃度が顕著に低値の場合、5~100mg/日の量で、DHEA-s濃度のoptimal値(200~350μg/dl、男性で250μg/dl)を目標として投与できる1,2)。
 その後臨床症状や検査値を観察し、T投与としてエナルモン・デポR 125~250mg筋注/2~4週が標準的である。2~3ヵ月毎に濃度を調べる。目標は総Tが700~1100ng/dl、遊離Tは20~40pg/mlである。
 5α-ジヒドロテストステロンは、前立腺肥大、前立腺癌、脱毛、禿げに関わるT代謝産物であり、同値は、筋注よりクリーム製剤で上昇しやすい。以上の詳細を表4に示した。

表4 中高年男性のアンチエイジング2)を改変

1)共通問診票・各種ホルモンの測定
2)DHEA経口投与
3)テストステロン投与
4)補足療法
 アロマターゼ阻害剤の投与(5α-dihydrotestosterone高値の場合)
 甲状腺ホルモン測定(甲状腺ホルモン低下症・相対的不足状態)
 勃起不全に対する加療(バイアグラ、他の薬剤を使用)
 献血・瀉血(多血症の場合)
5)治療効果の判定(共通問診票・各種ホルモン測定)
6)定期的検査(年1回の人間ドック・癌検診など)
7)推奨される検査項目
  IGF-1, DHEA-s、総テストステロン、遊離テストステロン、ヘモグロビン、5α-dihydrotestosterone、PSA、TSH、free T4、 free T3

■ ホルモン年齢
 アンチエイジングドックが行われており6)、一例として筆者のデータを表5に示す。
IGF-1およびDHEA-S濃度はoptimalの範囲で、遊離Tはやや低値である。国体のスケート代表選手(42-46歳)というアスリートの生活習慣を有する48歳男性のデータとして問題はないと思われる。
 なお、T濃度の測定は最近研究が進み、血液中の総T、遊離T、活性T、唾液中T濃度が臨床応用され、将来は非侵襲的な唾液中濃度の測定が一般的になる可能性がある7)。
 以上のように、DHEA-sとIGF-1血中濃度を基準としたホルモン年齢の概念が今後広く適用されるであろう。中高年にとって大きな問題の更年期に対して、現状を把握し対処が可能となる。その際には、共通問診票(Anti-Aging QOL Common Questionnaire(AAQOL) を用いて、身体的質問30項目や精神的心理的質問21項目、運動、アルコール、喫煙の習慣などを解析するとよい8)。

表5 アンチエイジングドック結果の一例

・free T4    1.44 ng/dl (0.90-1.70)
・IGF-1    160 ng/ml (106-398)
・cortisol    11.8 μg/dl (4.0-18.3)
・DHEA-S      1280 ng/ml (830-3960)
・free testosterone 12.3 pg/ml (14-40)

おわりに
 本稿では、アンチエイジングにおけるホルモン年齢の関連事項について解説した。臨床の現場における問診票や検査の提出項目、解釈や指導についても記載したので、実際にお役にたてば幸いである。この領域は、現在さらに展開しており、さらなる今後の発展に期待していきたい。

文 献
 1) Grossman T. Current Thoughts on Hormone Replacement - Human growth hormone, DHEA, meratonin - . 日本抗加齢医学会雑誌1(1): 111-115, 2004.
 2) 米井嘉一. 抗加齢医学に基づくホルモン補充療法. アンチエイジングの科学.現代のエスプリNo.430. 至文堂, 178-187, 2003.
 3) 日本抗加齢医学会議専門医・指導士認定委員会編集. アンチエイジング医学の基礎と臨床. メディカルビュー社. p63-104, p214-228, 2004. 
 4) Regelson W, Colman C: The Super Hormone Promise. New York, Simon and Schuster, 1996.
 5) Lemon JA, Boreham DR, Rollo CD: A dietary supplement abolishes age-related cognitive decline in transgenic mice expressing elevated free radical processes. Exp Biol Med(Maywood) 228: 800-810, 2003.
 6) 久保明. アンチエイジング医療の実際. 医学のあゆみ214(2) : 135-143, 2005.
 7) 坂口菊恵, 長谷川寿一. 唾液中testosteroneの液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析による測定. 臨床病理 53(5) : 388-394, 2005.
 8) 板東浩、吉岡稔人、中村巧、米井嘉一. マスターズ陸上選手に対する身体的・心理的検討. 臨床スポーツ医学22(12): 1523-1528, 2005.

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