糖尿病 肥満 糖質制限 ダイエット 音楽療法 新老人の会 徳島県スケート 板東浩 

ジンバブエの医療と経済

ジンバブエの医療と経済

~ジンバブエのGPと医学教育の現状~

板東 浩(日本プライマリ・ケア学会国際交流委員会、徳島大学第一内科)

 はじめに
 世界家庭医学会(WONCA)の第16回世界大会が、2001年5月
13-20日に南アフリカ共和国(RSA)のダーバンとジンバブエの
ビクトリアフォールズで開催された。筆者はこの会議に参加し、
ジンバブエの多くのgeneral practitioner(GP)と議論を重ねることが
できた。本稿では、ジンバブエの医学・医療の概要について報告
したい。

 1)ジンバブエ
 ジンバブエは南アフリカにあり、RSA の北東に隣接している。
英国が長期間にわたって統治し、当時は「南ローデシア」と呼ばれて
いたが、1980年に独立してジンバブエとなった。国名が意味する
ものは「石の家」。グレ-ト・ジンバブエ遺蹟など、巨大な石造建築
があるからだ。海抜900-1700m の高原地帯で過ごしやすく、首都は
ハラレである。面積は日本とほぼ同じで、人口は1200万人と日本の
10分の1である。

 2)開業医(GP)の診療
 平均的なGPは1日に20-40 人の患者を、多忙なGPは60-80 人を
診療している。概して2-3人の看護婦と事務員がいる。必要な経口薬
や注射薬剤について、以前はスムーズに入手できたが、現在は経済
問題のため、やや困難なこともある。
 医師数が不足する同国では、GPが自分のオフィスだけでなく、
1週間に半日ほど大企業の診察室に勤務することがあり、その場合
には薬剤の心配はない。夜間や週末は、2人のGPでカバーしあう場合
もあるが、通常は公立の救急が担当している。

 3)GPが診る疾病
 首都ハラレで診療しているGPのDe Souza医師から話を伺った。
1日に約30名の外来患者があり、その平均的な診断名を記する。
上気道感染症9例、気管支炎や肺炎が3例であり、6割がウイルス性
で4割が細菌性と推測される。下痢や胃腸炎5例、皮膚炎や湿疹3人、
せつやようなど細菌性の膿瘍4例、Hay fever3例、急性・慢性中耳炎が
2例、STD が1-2例、結膜炎が1例ほどである。
 最近の傾向は、空気汚染は減ってきたが、アレルギ-疾患が増え、
子供に皮膚炎やピ-ナツアレルギ-が増加してきていることだ。熱性
疾患ではhay fever が増加。マラリアは、軍隊としてコンゴに赴任して
感染して帰ってきた兵士が1-2 ヵ月に1人ほど受診してくる。マラリア
の予防には Daraprim が有効であり、95-98%の予防が可能である
という。
 同国ではエイズが大きな問題で、毎週1000人の死亡があると発表
されている。通常、開業医よりも、公立病院でケアされている。
genericの薬剤は非常に高価であるのが問題だが、今後、廉価の薬剤
の入手が期待されている。

 4)病診連携の実情
 本国では、プライマリ・ケア、二次医療、三次医療がほぼ機能して
いるという。
 僻地には小さな公立の医療施設がある。簡単な下痢やマラリアの
初期などでは、臨機応変に、看護婦レベルで解決されることもある。
必要に応じて、その地域の医師(district doctor) に搬送する。これが
二次レベルと考えられる。さらに、重篤な患者の場合、国には大都市
が5つあり、大学病院や公立の大病院に転送され、これが三次医療に
相当する。
 全国では約2000人ほどのGPと、400人ほどがspecialistがいる。
専門家はほとんど都市部にいる。たとえば、首都ハラレには300 人
のGPが、観光地のビクトリア・フォ-ルズには6名のGPがいる。
 病院には私立と公立病院がある。私立病院は豊かな人々が利用して
おり、不足する薬剤などはない。一方、公立病院の例として、主都
ハラレには、Parirenyatwa病院でと、大学病院の教育病院である
Harare Central病院がある。後者では、いかなる病気でもケアして
くれるので、貧困層の人々はここに搬送されることが多い。しかし、
経済的に困窮しているので、必要な薬剤が入手できないことが大きな
問題である。インスリンを購入できないこともあると聞く。

 5)医療経済
 GPが患者を診る場合、診療報酬は1人あたり480~650Z$
(ジンバブエドル)(1Z$は約2円)である。1日平均30名として、
1日約15000Z$、1ヵ月のGPの収入は約30-40万Z$ほどと思わ
れる。しかし、貧困層の地域では支払いが難しく、約半分の20万Z$
ほどと推測される。
 保険にはMedical Aid Society があり、2つに大別される。一つが
私的な保険のCIMAS で、支払いは確実である。他方は政府が
管轄するPSMAS だが、今までに数回破産したことがある。GPへの
支払いがなかったり、不当たりのチェックが出たこともあり、最近
では現金でなければ診療しないという事態まで起こっている。

 6)医学校への入学
 小学校は6年、中学校は4年、高校は2年である。中学校は
Ordinary level、高校はAdvanced levelと呼ばれる。都市部と僻地と
で異なるが、高校に進学するのは4-7 割程度という。医学部に入れる
のは、高校で物理、科学、数学、生物などすべての教科で高評点が
必要で、受験資格を有する学生は限られてくる。
 医学校は、従来、ジンバブエ大学の1校だけだったが、昨年に
2校目が新設された。いずれも1学年は100人で、国全体から選抜
されたトップの学生と言える。資質が高く、欧米で高校卒業後に大学
の2年間で学ぶ内容を、すでに高校で学べる能力があるほどの学生
ばかりであるという。
 医学教育はかつて6年だったが、教育改革により、現在、基礎2年、
臨床3年の5年間である。興味深いのは、最初の2年間は基礎だけで
はなく、臨床も行いながら基礎医学を学ぶカリキュラムであることだ。

 7)医学部卒業後の研修
 卒業後には、2年間のローテーションの臨床研修を行なってトレ-
ニングされる。研修する場所は公立病院であり、上級医から教えを
受ける。その内訳は、内科と小児科6ヵ月、外科6ヵ月、産婦人科
6ヵ月、麻酔ほかが6ヵ月である。麻酔を重要視している理由は、
戦争や兵器による外傷、僻地でのあらゆる事故や外科的外傷に対して、
GP一人で緊急に対処しなければならないからである。100人がイン
タ-ンを終われば、約70人はGPの道を進み、開業することもできる。
約30人はさらに専門医を目指して、内科、外科、産婦人科など3-4年
のプログラムに入る。

 8)医療の二重構造
 GPは、しばしば企業の診察室の診療も兼任している。公的病院で
働く医師は、朝から午後3時ごろまで勤務し、その後私立の診療所を
かけもちしている。医師は絶対数が少なく、むをえないという。
 裕福な患者は私立病院で、少ない待時間で十分に加療されている。
一方、それ以外の患者は公立の病院で数時間待たされて数分の診療で、
不十分な治療を受けているのが実情である。

 9)経済があって次に医療
 1980年当時、ジンバブエでは1米国ドルが1ジンバブエドルに
相当した。しかし、政治や経済など様々な理由で貨幣価値が1/50
に落ち、今や1$ = 50Z$である。このレートでは外貨に変えられず、
ブラックマ-ケットでは100Z$ 以上が必要だとの話もある。国の
失業率は約40%で、多くの医者や看護婦が海外に流出している。
ある看護婦は英国に行き、今までの数十倍の給料を得て本国に送金し、
家族は大金持ちになったとの話が伝わってくる。私立病院は必要な
薬剤を使用できるが、公立病院では、必要な薬剤を購入できず、
危機的な状況であるという。
 低所得者に対しても、公立の病院は同様に料金を請求するので、
患者が医療にかかれない状況はさらに悪化している。現在、経済状態
が悪く、GPの多くは様々な改革を願っている。

 おわりに
 本稿は、アフリカのジンバブエの医療について、多くのGPと議論
を行った中からまとめたものである。状況に応じたプライマリ/ケア
医療が行われているが、重要なことは、経済状況がクリテリカルな
ファクターである。我々は、このような状況を知った上で、今後の
PC医学やPC医の役割についても考えてみたい。

powered by Quick Homepage Maker 4.91
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional