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ジンバブエの医療

ジンバブエの医療

ジンバブエにおけるプライマリ・ケア医療の現状と国際協力

日本プライマリ・ケア学会国際交流委員会、徳島大学 板東 浩

抄録:世界家庭医会議(WONCA)が2001年5月にジンバブエで開催
された。発展途上国では熱帯医学が重要であり、マラリアやエイズへ
の対処に加えて、基本的な衣食住や水の管理などについても、医師や
看護婦が教育する必要性がある。同国の医療や医学教育は、政治や
経済に大きく影響を受けていた。発展途上国に対する医療の国際貢献
における適切なアプローチ法を我々は検討する必要がある。

キーワード:ジンバブエ、世界家庭医会議、エイズ、衣食住、医学教育

Abstract: World Organization of Family Doctors (WONCA) was
held in Zimbabwe in May 2001. In developing countries,
tropical medicine has been important, and doctors and nurses
must teach how to deal with the fundamental daily life and
water, in addition to how to manage malaria and AIDS. Curent
medical circustance and education system has been
influenced by politics and economics in Zimbabwe.
We have to investigate the adeuate approach in international
medical collaboration with developing countries.

keyword: Zimbawe, WONCA, AIDS, Activity Daily Living,
medical education

はじめに 
 筆者は、以前に米国の家庭医療学レジデンシープログラムで臨床研修
を行った。その後、日本プライマリ・ケア学会1)の国際交流委員会で
勉強を続け、様々な国の医療について報告してきた2-6)。
 家庭医の世界的な組織には、世界家庭医学会(World Organization
of Family Doctors, 略称WONCA)7)がある。2001年5月にWONCA
国際会議が南アフリカ共和国と隣接するジンバブエで開催された。
筆者は同学会で、多くの家庭医と議論ができたので、本稿で紹介
したい。さらに、医療の国際貢献に対する私たちの役割についても、
読者の先生方と一緒に考えていきたい。

プライマリ・ケア医学 
 本邦の内科医は、家庭医やかかりつけ医であったり、時に専門家で
あったりする。
 しかし、諸外国では、従来、内科医と家庭医は明確に分けられ、研修
プログラムも別である。内科医とは専門領域を持つ専門家(specialist)
である。例えば、循環器や消化器、呼吸器などの領域に分かれる。
 一方、家庭医について、米国系ではfamily physiciaon(FP)、英国系
ではgeneral practitioner(GP)と呼ばれている。最近では、両者を
合わせてfamily doctorと呼称されている。一般的に、家庭医の守備
範囲は、本邦の内科医の診療に、小児科、産婦人科、外来小外科、
心療内科などを若干加えたやや広いものである。家庭医は、大都会、
地方都市、僻地など状況に応じて、診療形態を変えられる。個人よりも、
患者の家族全員を長期間、診ていくものである。
 最近、筆者が米国内科学会(2000年4月)に参加した際に、医療の
変化を感じたことがある。内科医は、家庭医や小児科医とともに、
プライマリ・ケアを担当する医師とされ、産婦人科が担うピルの処方や
教育、pap testなども守備範囲であるという。この動向から、将来は、
内科医と家庭医の境界線は次第に消失するかもしれない。

熱帯医学がポイント 
 学会の内容は、アフリカという地域性もあり、医療の現場ですぐに
活用できるような熱帯医学のマネジメントや、関連する薬剤について
の講演が多かった。すなわち、吸虫に対する管理、蛇に噛まれた場合の
対応、下痢を引き起こす疾病、地域医療のあり方と環境への適応法、
破傷風と他の寄生虫、血液による発熱、マラリア、熱帯の皮膚疾患、
最近開発された薬剤、薬剤使用の法律的側面、精神科、GPの役割、
シンクタンクの活用、などであった。
 メイン会場に隣接した部屋には、各製薬会社のブースが並び、
各担当者はGPとの対応に忙殺されていた。特に、マラリアに対する
予防薬や治療薬、エイズに対する薬剤などが特徴的だった(写真)。

まず食べて生きる  
 同国医療でポイントとなる議論は、日本とは大きく異なる。先進国
では快適な環境があり、それにプラスして良い医療が求められる。
しかし、発展途上国では、まず、生活の基礎知識を指導することが、
医療従事者の重要な役割である。
 必須不可欠のものは、生きていくための最低限の衣食住だ。多くの
地域で、清潔な水の供給が先決だ。行政がインフラを整備すれば、
次に、医者や看護婦が、水の使用法や対処法を教えていくのである。
 衛生観念、消毒、滅菌についての概念を理解させ、実践させるのは、
先進国で考えるようにそれほど簡単なものではない。これには、文化、
慣習、教育などが関与してくる。次には、食物の問題。適切な蛋白質
を摂取できるかどうかが、はなはだ疑問となる。どうしても、子供の
クワシオルコ-ル、栄養失調、低栄養などの問題がでてくる。以上が
ほぼ達成できるようになった段階で、ようやく医療のレベルとなり、
病状に応じて薬剤を与えることとなる。

AIDSの現状 
 町中で配られている手のひらサイズのパンフレット。見ると、描か
れているのは飛行機の絵。毎週、3機のジャンボジェットが墜落し
ていると・・・。これは、毎週1000人がエイズで死亡していることを
図示しているのである。
 エイズの問題は、解決が難しい。男性患者は妻に真実を言いたがらず、
付き合っている他の女性がいる場合が多い。本人は感染を知っていても
否定し続ける。正直に男性が言わないので、ますます広がる。医師は、
本人の承諾なしに家族に告知することはできない。個人の問題が、
家族に、周囲の人に、国に、大きな影響をおよぼしてしまう。GPが
頭をかかえている大きな問題である。
 エイズ患者の加療は、個人の医師よりも、公立の病院で主に担当して
いる。ある程度、国が補助を行っている。様々な方法で教育や普及
活動を行なっているが、それほど効果をあげていない。その原因として、
1)知識の欠如、
2)行動変容ができない、
3)経済的なこともあって拒否しにくい、などが挙げられる。現在、
キャンペーンの一つとして、頭文字がLで始まる「Learn, Listen,
Live」の標語が使われている。
 薬剤は、現在非常に高価であて入手が難しいが、最近、廉価の薬剤の
開発や薬品会社の自発的な提供などがみられており、今後に期待したい。

ジンバブエの教育 
 同国では、4年間の中学校を卒業後、2年間の高校へ進む。在学中の
成績が、すべてAランクという優れた学生が、医学部に進学できる。
従来国内にある医学校は、ジンバブエ大学のみだった。2000年に
なって医学校が1校新設され、今後の発展が期待されている。医学
教育はかつて6年だったが、現在は基礎2年、臨床3年の5年間で、
卒業後は、2年間の臨床研修が必要だ。
 臨床技能を修得するときに、卒後研修生の真摯な態度は印象的だった。
今ここで、技術を完璧に覚えなければならない。僻地には、相談する
先輩はおらず、自分たったひとり。外傷や疾病をすみやかに判断し
処置できなければ、人の命に大きく関わってしまうからである。

選抜方法のある一面 
 学会会場で、米国から参加しているRebecca医師から話を聞くことが
できた。彼女の両親は英国出身で、ジンバブエに赴任したときに、
彼女が生まれた。Rebeccaは同国の医学校を卒業して研修を終え、
家庭医をしていた。その後、米国に移り、家庭医学の教職について
いる。本人のコメントとして、同国の医学校を出た後に国を離れ、
同国の医療に貢献ができないような私のようなケ-スが出てくるのは
止むを得ないが、同国の立場から考えると、複雑な気持ちであるとの
ことであった。
 高校の成績がすべてAの優秀な生徒だけが、5年間の医学部に進める
制度で、確かに平等である。しかし、このような資質の学制の両親は、
英国から来ている場合が多いことが、問題点となる。地元出身者が
医学部に入れる環境を整えることは容易ではない。そこで、以前には、
見込みがある学生は1年余分で6年間のコ-スを設ける工夫を行った
こともあった。
 せっかく同国の医学部を卒業しても、将来、外国に行ってしまう
可能性がある。経済的にも、それほど簡単に医学校を設立できるもの
でもない。このような状況では、どうすればよいのだろうか?

知識階級の分析 
 同国のGPであるMike Norton 医師によると、医師の報酬は国民の
平均的収入の数十倍で、会社のトップと最も末端の勤労者の所得格差は
数百倍もあるだろうという。日本では、それほどの差異はないとの筆者
の説明に対して、それが常識的な社会であるとのコメントが返って
きた。多くのGPは、経済状況が少しでも改善の兆しがみられなけ
れば、少ない医療費のために、検査も投薬もできず、すぐには問題は
解決しないだろうと考えている。
 ある弁護士からの話では、同国は政治を改善しなければ、この経済
状況は良くすることはできない。ザンビアは3年ごとに大統領が変わ
るが、同国では2001年2 月の選挙で、さらに6年、合計26年間、
現体制が続くことになる。20年前は、1ジンバブエドル1枚が1米
ドルに相当した。今は貨幣価値が下がり、50枚の札束が1枚の1米
ドルの値打ちと同じだ。
 ある獣医と、議論できた。失業率40% という数字が、現在の状況
をよく表している。おそらく、6-7割の人々の月収は、100米ドル
以下であろう。20余年間も国のトップが変わらず、政治腐敗こそが
根本の原因である。嘆かわしいのは、経済に加えて、医師や看護婦
などの専門職が、国外に出てしまうことである。自分の6人兄弟の
うち、4人が英国で働いている。公的病院には予算がなく、満足な
治療もできていない。

国際協力を考える 
 従来、筆者は様々な国の医療レポートを提出してきた。ある事例を
紹介させて頂き、一緒に考えてみたい。
 事例1:熱帯の国には感染症が多く、検査に必要となるのは寒天
培地だ。この入手または作製について、日本が何をできるかを考え
てみる。
 1)お金を送付→他の目的に使用する、
 2)ディスポーザル(使い捨て)の寒天培地を送る→それがなく
なれば、後は誰も作れない、
 3)原料とマニュアルを送り、現地で作製させる→通常では簡単と
思われる作業でも、実際にはプロセスを省略してしまうなど、スタッフ
の能力が十分ではない、
 4)人を送り指導させる→リーダーがいなくなれば、後は何も
できず、簡単に人は育たない。
 事例2:ある国に、コンピュータを送ったが、動かないとの連絡
あり。調べると、コンセントを挿していなかった。再び作動しない
との連絡があり、電圧が全く一定しないので、電力関係を整備した。
それでも、細かい操作方法が分からないとのことで、今度は技術者を
送った。すると、厳しい環境のために、人がダウン。そこで、優秀な
現地の人を日本に留学させて、数カ月間、猛特訓した。彼らは一度
自国に帰ったが、本国には日本で学び収得した高い技術を使える
設備が少なく、ヨーロッパに行って高給を稼いでいるという。

おわりに  
 今回、ジンバブエで多くのGPと語ることができた。アフリカの
医療には、政治、経済、人種、教育などの諸問題が絡み合って
おり、GPは広い役割を担っている。
 また、国際協力については、様々な面からの検討が必要であり、
我々はどのような手法でアプローチできるのか、是非とも読者の先生
方からの御教示を賜りたい。
http://piano-skate.musicpage.com

文献
1) http://www.primary-care.or.jp/
2) 板東 浩. ベトナムのプライマリ・ケア. 人間の医学 
31: 60-65, 1995
3) 板東 浩. マレーシアのFamily Practice. 医学界新聞
2200:4-5, 1996
4) 板東 浩. 中国の医学と医療の視察. 日本医事新報
3801: 73-75, 1997
5) 板東 浩. エジプトの医療・研修をかいまみて.日本医事新報
3913: 69-71,1999
6) 板東 浩. ニュージーランドの医療.リエゾンGPの存在.
医学界新聞2407:3, 2000
7) http://www.wonca.org/

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